えっと………これ俺のために?
雲ひとつない夜空に浮かぶ満月、そして月明かりに照らされる二人の女の子
(しかし、上空百メートル)
うん、色々おかしいね
あと、一人の女の子と一人の男の娘、かな?
そう、俺は許嫁らしい幼馴染みと絶賛飛行中だ。
俺の場合は飛行って言うより引かれてるっていった方が正しいのか?
それより、何があったか?そんなもん決まってる。
逃避行だよ。
嘘です。彼女の存在すら忘れていました。
俺と彼女で作った回復系記憶復元魔術によって思い出しました。
思い出したっていっても、許嫁と契約ってやらのこと全くもって記憶が復活しないんだけど
元々無いんじゃない?
ついでに言うと、今俺どこに向かってるのかもわからないけどね。
「あのーセルナさん?これは、どこに向かっているのでしょうかー?」
「……内緒ですよ」
なんだか、頬がプクッてなっている。
怒っているみたいだ。
さっきまであんなに機嫌がよかったのに
どうしてだろう?
「何か怒ってませんー?」
「怒ってはいませんけど…」
「けど?」
「何でそんなに他人行儀なんですか……?私結構寂しいんですよ?」
成る程、そういうことか
でも、ねぇ
「いやー、さすがに気まずいって言うか、忘れてた俺がおこがましいって言うか……」
「そんなの気にしないでください!」
「そりゃー、気にするって」
「私だってずっと会えなかった大好きな人にそんな態度されると………ふえぇ…」
「わかった!わかったから泣かないでくれ!」
「じゃあ、昔みたいに呼んでくれます?」
「恥ずかしいんだけどなぁ…」
「ぅぅ、ぅぇ…」
「もう、わかったよ…」
「ほんと、です、か?…グズッ…」
「………やっぱり、言わなくていい?」
「ぅぇ、ぅぇぇぇ……いっでぐれないならごごがら落どじぢゃうんでずがらぁあ………」
「うぇええええ!?待った!言うから!言いますから!!落とさないで!!!」
これは、言わないと………死ぬ!
「すう、はあ、すう………、セリィ………でいいの、かな?」
とても恥ずかしかったが、幼い頃に呼んでいた彼女の愛称をボソッと呟く。
それを聞いたセルナは、泣きそうな顔をパアッと輝かせるととても嬉しそうに「はい!!」と返事をする。
その笑顔は悲しいこと辛いことを癒してくれるかのように俺の心に残った…
「そろそろ目的地です!」
「やっとか………」
「はい!あそこです!」
そういって、彼女が指を指した場所は一つの小さめな集落だった。
マジで小さい、
家も数件程度しかない。
何しにいくんだろうか?
「あの………」
「どうしたんですか?」
「何かあるの?あそこに?」
「え?なに言ってるんですか。あれは私たちの国ですよ?」
そっちこそ何を言ってるのだろうか?
私たちの国?
ハイ?
あんなに小さいのに国?
いやいやいや、論点はそこじゃねぇ
私たちのってところだろ!?
「私たちのってどういうこと?」
直接訊くことにした。
訊くことって大事だもんね?
「私たちの、もの?国?ってことです」
「ごめん全然わからない」
「うーんじゃあ、所有物?っていった方が分かりやすいですか?」
「ああ、そういう…いや、無理があるよね?」
「そうですか?じゃあ、私たちの土地?」
「それなら納得できなくはないけど………なんでこんなところに土地もってんの?」
「えっ?ギール家が所有している土地のひとつなんですけど…」
「はっ!?マジで何でこんなところに土地もってんの!?」
うちってそんなにいいところの家系じゃないよな!!?
「いや、そんなわけないじゃないですか」
「そうだよな!あービックリした」
「回復、治癒魔術が使える家系ですよ?陛下の四大戦力の一つの家系なんですから良いとこの家系どころか最高峰の家系といっても過言ではないのですが」
「そっちの『そんなわけない』かよ!」
俺は半端なく良いとこの坊っちゃんでした。
………いやまて!俺そんな扱いされたことねぇよ!!?
「まあ、ギール家の場合戦力というかヒーラーという役割なんですけどね」
「そんなことより俺、そんな待遇よくされたことないんですけど!?」
「ええ!?何でですか!?」
「いや知らないよ!?」
「だって、お家とかとても大きいじゃないですか!?」
大きかった記憶がまるで無いんですけど?
「いや、普通の一軒家くらいだよ?」
「え?」
「ん?……ああ!うちの近くにある豪邸と間違えてるのか!?」
「私、その豪邸でエルム様の両親とお茶したんですけど………」
………おい、おいおい!!
どうなってんだよ!!?
「じゃあ!俺がすんでいた家は何だったんだ!?」
「恐らく、エルム様“の”家ではないですか?」
「それはおかしい!だって両親もそこに住んでいたんだか…ら?」
いや、待て
そういえば小さい頃に一回だけ怖い夢を見て目が覚めた俺が両親と一緒に寝ようとして寝室にいったら誰もいなかったときがあった。
それだけだったらまだ出掛けていただけってことならわかる。
しかし、窓から外を覗いたらその豪邸に入っていく両親がいた、
今思えば夜毎回そっちに帰ってたのか。
フ、ザ、ケ、ン、ナ
じゃあいちいちばれないように朝こっちの家に来て朝食を作ってたのかよ。
アホか、あの両親。
「それなら、おこづかいとかどれぐらいだったんですか?」
「え?もらったことないけど?」
おこづかい?なにそれ、美味しいの?
もらえれば美味しいものが買えるかも知れないけど貰ってないし。
「…だったら、何でも買ってもらえたとか?」
「……買ってもらえるときはお正月か、誕生日だけでした」
「………………」
泣きながら引き寄せて抱きつかれても………
「不憫なエルム様………」
「ちょやめろ、俺に不憫とかいう感情を抱くな!悲しくなるわ!」
「大丈夫ですよ、これからは毎日一緒にいますから……」
「は、な、せ!てか、落ちてね!?おまえ、制御どうなってんだよ!」
飛んでいたはずだったのだが突如浮遊感が消え去りそれにともなって地面に向けてダイブを始めていた。
それと、不憫を理由に抱きつかれても全然うれしくない
「ううぅ、エルム様ぁ」
「おい!落ちてるって!!俺の過去はいいから、俺に今を生きさせてくれ!」
「ふえぇ?………ああ、大丈夫です。ぐすっ、ちゃんと………」
「おわぁあああ!!し、死ぬぅうう!!」
なにか言いかけていたっぽいけどそれよりもう、数メートルまできている。
ああ、死ぬ
父様、母様親不孝な私を許してくだ…いや、あいつらに謝ることなかったな。
そういえば、ろくな人生じゃなかったな………
せめて死ぬときは痛みを感じさせないぐらい一瞬で死なせてくれると嬉しいです………
さらに言うと隣で涙をぬぐっている幼馴染みは助けてあげてくれると神様はいることを信じます…
そして俺は死ぬという恐怖をできる限り味わわないようにギュッと目を閉じた。
そして俺は地面に叩きつけられ………
「…………てない?、って近ッ!!地面近ッ!!」
死んだと思っていた俺は恐る恐る目を開ける
そこには風に揺られる草が生えている地面が目と鼻の先にあった。
サワサワ………
鼻に草が当たってくすぐったいわ!
状況
頭が地面、足が空に向いている。
えっと、手をつかない倒立?
サワサワ………
………だからくすぐったいっての!草!!
鼻をくすぐる草と格闘していると人の影が俺を包む。
「なにやってるんですか?エルム様?」
一緒に落ちていたはずのセルナは首をかしげながら俺の目の前にたっていた。
………この角度は危ない。
非常に………危ない
理由、
俺、地面すれすれの手無し倒立
彼女、目の前にたっていてワンピースを着ている。
そして、今、風が吹いてい……サァーーー
ワンピースが風になびく、俺の方に
次の瞬間に俺の目に映ったものは神秘的なほどの純白だった。
「きゃあ!!」
すごい勢いでワンピースを抑えるセルナ
それと同時に俺も頭から落ちた。
「ぐえっ!」
首がっ!
「エルム様のエッチ!」
「うげ、ぐび、ぐびがぁ」
「あ!ごめんなさい!軽治癒!」
落ちた拍子に捻った首の痛みは初級治癒魔術によってなくなる
「ふ、ふぅ、痛かったぁ~」
「ううぅ、ごめんなさい…………でも!エルム様がエッチなことをするから!」
「待ってくれ!、あれは不可抗力というか奇跡というか、その、わざとじゃないから!!」
「まあ、大丈夫です、エルム様がエッチなのは子供の頃からですから」
「まて!子供の頃と一緒にされると俺は限りなく変態になってしまう!!」
ダメだ!思い出してはいけない!
いや、思い出させられてるんですが!!
「いいんですよ、これからはそういうこともしていくんですから………」
唐突に体をくねくねさせながら恥ずかしそうに顔を赤く染めるセルナによって爆弾発言は投下された。
「ちょっおま!?」
ちょっと、いや、だいぶ待って!お前のなかで俺達はどこまで進んでんだよ!
「エルム様との子供………きっと、エルム様に似て可愛い………」
子供をもう作ってるのかよ!
しかも、やっぱり俺は可愛いの部類なのか!知ってたんだけどさ!くるものがぁ!
脳内ツッコミを繰り返していたんだが、なんだか疲労感で体が重い。
「なあ、セリィ、ちょっと俺疲れてきちゃったんだが………」
「ハッ!、ごめんなさい、ついエルム様との家庭について妄想に浸ってしまいました!ここ、もう私たちの国の入り口なので、家まで送ってもらいましょう!」
送る?どういうこと………
「グラグさーん、ちょっと家まで送ってくれませんかー!?」
誰もいない入口から外に向かってとある名前を呼ぶ、
グラグさん?誰?
しかし、予想外なところから、それは現れた。
目の前の空間が歪み、そして、そこに現れた者は、自身の4倍程もある黒い魔竜
「えっ!?」
「グラグさん、 ただいまです!」
『おお、帰ったか、セルナ………と、お主がエルムか』
「………え?俺食われんの?死ぬの?」
『会ってそうそう食われるとか失礼なやつだな、俺は人間は苦くて固いからあんまり好きではないのだ』
「………そうなんですか、………ねえねえ、セリィ」
「はい?どうかなされたんですか?」
「いやいやいや、どうかなされたじゃない、何で魔竜のトップと親しげなの?黒魔王竜だよね、おかしいだろ、」
『それは、俺が説明してやる、めんどくさいから簡単にな
この小さな小さな国にいる、治癒、回復魔術が使えるお前らの家系をを欲してるやつから守る代わりに俺に世界の終わりを見届けさせろっていう、契約だ。』
成る程、回復魔術の中には生命力を回復させるやつもあるからか
「そういうことなら俺に攻撃はしないですね………ふぅ、よかった」
攻撃されたら一瞬で真っ二つか消し炭、いや、なにも残らないか
とにかく、即死だ、
ほんと助かった………
「改めまして、俺はエルム=ギールと申します。数々の失礼を許してください。それと、こんな格好をしてますができれば気にしないでくれると嬉しいです。」
『おお、だいぶましな言葉使いになったな。まあ、正直なんでもいいが、
俺の名前はグラグ、宜しくな』
「エルム様?自身の名前を間違えてますよ?」
「は?間違ってる?さすがに自分の間違えるほどボケちゃいねぇよ?」
「たぶんボケているというより、知らされてないのだと思いますよ?」
「………なに?離婚でもしたの?」
『よくそんなことが真っ先に出るんだな?人間と言うものはそうものなのか?』
「いえ、エルム様を含む小数の人たちだけです」
「まあ、否定はしないけど………そんなことより何を知らさせてないかが気になるんだが?」
「それじゃあ、エルム様はエルム様の家系のことはどこまで知っていますか?」
「さっき聞いた、でかいところの家ってことを含めれば祖母が治癒、回復魔術使いだったってことくらいだけど………」
「何で治癒、回復魔術が使えるようになったかとかは聞いたことは?」
「ないかな、そういえば何でだろう?」
「それは、神様の家系だからです」
「………嘘つけ」
『嘘じゃないんだなぁ、これが』
「え?何で知ってるんですか?グラグさん?」
『俺の出身地にもそれらが書いてある碑石があるからな』
「それにはなんて?」
『まあ、神々の残したものみたいなことが書いてある。
その中に、成神の妻である治神と回復神の子供は下界で生きさせる
みたいなやつがあってな、その人間の家系がお前らって訳だ。』
「だから私の名前にも治神の名前が入っているというわけなのです」
「………ってことは俺には?」
「回復神、レイルの名前がエルム様の家系に入っています。」
「じゃあ、俺の名前はエルム=レイル=ギールってこと?」
「はい」
何で自分の名前なのに詳しく知らないんだよ、俺!
「………まあ、なんにせよ、ちょっと寝させてくれないか、あと着替えさせて。」
「あっはい!グラグさん、お願いします!」
『はいよ、転送』
黒の魔竜から発せられたひとつの言葉によって俺達は光に包まれた。
………マジですごいな、グラグさん




