13 家族
お宅に突撃です。
果たして主人公は受け入れられるのか?
少々雑談した後、ユキと母犬には外で待っててもらう。
そして男の後を追って家に入る。
すると中には、女の人とその人よりも若い娘がいた。
「帰ったぞ~!」
と声をかける男。
「お父さんおかえり!」
「あら!お客さんかしら?」
とそれぞれ返事をする。
「そうだ!今日からこの人のワンコが出産するまでしばらく居候することになった。」
ん?すでに決定したような口ぶりだが?
とりあえず挨拶。
「こんにちは!ヒロって言います。今日からよろしくお願いします。」
そして自己紹介が始まる。
「そういえば言ってなかったな。俺はジャックだ。」
「そして、これがうちの妻だ。」
そう言われた女性は挨拶をする。
「妻のエリーです。」
とほほ笑む。
「こっちがうちの一人娘だ。」
こっちもにっこり挨拶。
「こんにちは!マーシーです。」
普段客が来ないのか少し緊張している様子だがとても明るい家族の様だ。
そしてマーシーちゃんは続ける。
「どこから来たの?この辺じゃ見ない顔立ちだけど。」
いきなり痛いところをついてくる。
じぶんの顔は完全にこの村の人達の顔立ちとは異なっている。
「遠い西方から遥々、この王国に興味がありやってきました!」
別にこれは嘘ではない。
「西に村なんてあったんだ。」
と言われるが。両親は何かを察したのかエリーさんが話を変える。
「所でそのワンちゃんはどこかしら?」
「外で待たせてます。」
「出産なら、家の中にいてもらいましょ?」
「うれしい申し出ですが。結構でかいですよ?」
「あら本当かしら?」
というと、俺は外から母犬を連れてくる。
「今日からお世話になる人たちだ!」
というと、ペコリとお辞儀をする犬。
「おお、犬なのに言葉が分かるのか?」
「すごーい!かわいい!」
とかなんとか言うご家族。
可愛いと言えるサイズではないと思う。
「言葉が分かるかは置いておいて、とても頭がいいので教えてやれば悪さはしないと思います。」
というと『うんうん』とうなずく母犬。
やはりユキと同じでこの母犬も俺の言葉がわかるらしい。
母犬側も特に嫌な素振りはしない。
「それなら心配いらないかしら!」
「空いてる部屋があるのでそこに荷物を置いて寝起きしてね!」
という事で、部屋を借りることが出来た。
「ワンちゃんは、居間にスペースがあるからそこにしましょう!」
そして母犬は居間のあいてる場所を使わせてもらう。
藁を敷きその上に敷物を敷いてもらいくつろいでいる。
暖炉からも遠くないので寒くはならないだろう。
特に人見知りはしていないみたいだ。
「それとせっかくなので、朝晩の食事は一緒にいかがですか?」
とエリーさんから、うれしい申し出だ。
ジャックさんが、担いでた鹿を机におろしながら。
「そういえば、ヒロからこれ貰ったぞ。」
「あら!大きい鹿ですね!」
「今日からしばらくはお肉料理になりそうね!」
とうれしそうなエリーさんとマーシーちゃん。
ちなみに両親ともかなり若そうな見た目で、マーシ―ちゃんも15歳前後の見た目、ジャックさんはブラウン系の髪で、女性陣は二人とも赤毛。
「定期的に家賃替わりに狩ってきますので、どんどん食べてください。」
というと、エリーさんが
「定期的に肉と皮も、いただけるのなら。鞣しの仕事もまた出来そうじゃない?」
という。
「鞣し職人だったんですか?」
と聞く俺
「昔の話だ。最近は大きな獲物もないので、廃業中だったがな!」
と笑いながら答えてくれる。
「お父さんの腕はほかの町でもなかなか見れないくらい一流なのよ!」
とマーシーちゃんが言う。
「本当ですか!?」
と食い気味に聞く俺。
「それにお母さんも裁縫の腕はお店を開けるレベルなのよ!」
と自分の両親を自慢する。
両親はというと、めっちゃ嬉しそうに照れてる。
「まあそれほどでもあるがな!」
「ええ、実際二人で作った物を、販売していたのよ!」
と本当にお店レベルらしい。
それがなぜ職人ではなく農家になったのか分からないが。
例の熊の毛皮の加工を頼んでみようかと考えてみる。
照れ終わったジャックさんが切り替える。
「とにかく鹿を処理しちまって、村のやつらに分けてやろうか!」
そして奥さんも
「早速切り分けましょうか。」
ってことで鹿の解体が始まった。
村中に分けるとなると、大した量にはならなかった。
その後馬小屋にユキを案内し、装備を外して軽くブラッシングをする。
そしてユキ用の水と草を用意して出かける。
肉は顔合わせついでにと、ジャックさんと配り歩く。
分かっていると思うが一応野生の肉なので、しっかり火を通す事をつたえる。
村の人々は総じて穏やかで、優しく突然来た俺を受け入れてくれた。
そして余談だが、この村に名前があるそうだ。
その名前が【ドラゴンの子】という、たいそうな名前だった。
なんでも昔、ドラゴンが近くの山に住んでいたとかいないとか。
「ドラゴンって実在するんですか?」
とジャックさんに聞いてみる。
するとアホの子を見る目で答えてくれる。
「そんなのいるわけないだろ!」
と笑いながら言う。
「村の一部の爺さんらは昔はしょっちゅう見たとぬかしてたが、それ以外は誰も見たことがない。」
「だから年のせいでボケたのか、夢でも見たのか、でっかいイノシシを見間違えたのかって話になってる。」
「やっぱりいないんですね。」
「ああ。おとぎ話にはよく登場するが、どの町でもどこに行ってもドラゴンを直接見たって奴はいない。」
と異世界にていきなり、夢を壊す出来事があった。
異世界ならいると思ってたんだけど・・・。
「では、そのおとぎ話が原因でそんな村の名前になったんですか?」
「おそらく、そういいう事だろうな」
との事。
「気になった奴らがその山を探し回ったが、やはり見つからなかったそうだ。」
そんなくだらない話をしながら家に帰る。
家に着くと辺りはほとんど暗くなっている。
「良いにおいがするな!」
ジャックさんが息を吸いながら言う。
肉と野菜の香りが外まで広がってくる。
「今日は早速肉料理みたいだな。」
家に着くと、テーブルには4人分のスープにパン、それと大皿に鹿肉がデーンと並んでいた。
「おー!」
とジャックさんが嬉しそうに言う。
「まず手を洗ってきなさい。」
とエリーさんが言う。
俺とジャックさんは手をさっさと洗ってくると。
4人とも席に着き食事が始まる。
この家族は、ジャックさんが手を付けるまでエリーさんもマーシーちゃんも手を付けない。
最初に鹿肉をジャックさんが4人分に切り分ける。
「よし、いただこうか。」
とジャックさんが言って、料理に手を付ける。
エリーさんもマーシーちゃんも料理に手を付け始める。
家族内でもこういう所はしっかりしている。
野菜のスープにしっかり味付けされた肉、そしてパン。
久しぶりのまともな料理に、涙が出るほど感動した。ていうか普通においしい。
異世界産の謎野菜に始まり、いろいろな野菜がスープに入っていてめっちゃおいしい。
「あら~!泣くほど気に入ってくれたのかしら?」
「しばらくは水と焼いただけの肉だったので、めちゃくちゃおいしいです。」
「森には果物や食べられる野草もあるだろうに・・・。」
「食べられる物かどうか分からなかったので味のない焼いただけの肉をひたすら食べてました。」
と泣きながら答える。
「まあ、時間のある時にこの辺の野生の植物の事を教えてやるよ。」
と哀れなものを見る目で言ってくれた。
「まあ気持ちは分からなくないけどね!」
とマーシーちゃんもおいしそうに料理を食べてる。
「しっかり血抜きや中身の処理をしているので、臭みは少ない方だと思いますよ。」
「確かに、血抜きはしっかりしてるみたいだな。」
「そうね!下処理はしっかりされているわね。」
とのことで家族全員絶賛。心の中でガッツポーズ。
「野菜は全部この村の物ですか?」
「そうだ、うちの物やご近所にもらった物までいろいろ使ってる。」
「この国はどこの村もこんなにたくさんの野菜を育ててるんですか?」
あまりの野菜の種類の豊富さに驚いたので聞いてみた。
「ヒロさんは外国から来たからよく知らないのか?」
「この国は昔からずっとそうだぞ!」
「昔しから周りの国と交易をしているらしい。そのおかげで色々な国から色々な野菜が入ってきたんだ。」
との事らしい。
「それでこんなにたくさん野菜があるんですね!」
「ああ。この国は土もいいから、いろいろな種類の野菜が元気に育つんだ。」
「へー!」
「野菜も好きだけど!あたしはお肉の方もすきよ!」
と野菜よりお肉派のマーシーちゃんが主張する。
「確かに結構でかい鹿だもんな!」
「ところでヒロさん?」
「はい?」
といきなりジャックさんが敬語になり。空気が変わる。
「この鹿の事なのだがね?」
「はい・・・」
「首が驚くほど綺麗に切断されていたんだ?」
「あっ・・・」
切断面が不自然なことに気付いていたみたい。
この鹿はいつもの如く【風刃】で首をスパッと切った。
そのせいで、断面は驚くほどきれいだったのだ。
とりあえず適当にごまかす。
「まあ、いろいろ特技がありますので・・・」
「はぁ・・・」
「この国では貴族以外が魔法を使っているのを、知られるのは良くないぞ。最悪の場合は怪我じゃ済まないって噂だ。」
「だから使うときは人目に注意をして使うことをお勧めする。」
「はい。わかりました。」
「収納魔法は特に有用だから、攫われて酷使されることも有るらしい。だから気を付けろ。」
うっかり使ってしまったのを指摘されてしまった。
気を付けなければ。
ただ注意してくれるって事は、悪い人ではないようだ。
そういえば、エルフのおじいさん先生が、この国の貴族は魔法を秘匿してるって言ってたな。
「気を付けます。」
「まあこの村には貴族はいないし、貴族にチクるやつもいないだろうがな。」
というジャックさん。
「てゆうか。ヒロさん魔法使いだったの?」
と目をキラキラさせるマーシーちゃん
その後もワイワイ話をして。食事は進む。
片付けをした後は明かりが勿体ないのでさっさと寝るそうだ。
俺はユキの様子を見て、母犬も食事がすんだようなので、例の疲労回復の光で優しく腹と体を撫でる、
魔力を流すとおなかの子が元気になるみたいで、少しずつ流してみる。
その後は部屋に戻り、藁のベットで寝る。
藁には一応【浄化】で変な虫や汚れを落とす。
ちなみに【浄化】の直後はしばらく虫よけ効果があったりする。
外では熟睡できなかったが。久しぶりの屋根のある家でぐっすり眠る。
主人公が間抜けなおかげで家族に多少は受け入れられたみたいですね。
父ジャック 母エリー 娘マーシー
の三人家族だそうです。
エリーとマリーだとややこしかったのでマーシーにしました。