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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
1章 おれさまは、猫である
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みんなで思念話《トーク》(2)

サラちゃん、思念話トークでも声が大きいです…

頭がぐわんぐわんします…

『どーいうことなのよ、これは!』


 口にすることのできない叫びを、穢れに乗せてサラが響かせた。


『ま、まぁまぁ……サラちゃん、落ち着いて……』

『落ち着け? グリムを連れ込んでおいて、よくも偉そうに言えるわね!』

『でも、ネロ様は悪いグリムじゃありません。私の両手を動かせるようにしてくれましたし、ライラのことだって話せるようにしてくれました。ほら、こんな風に』

『……あたしは騙されないわよ……恩に着せようとしたって、無駄なんだからね……』

『あいにく着せるような恩は持ち合わせていない』


 おれは奴隷の頭の上であくびをする。


『だいたい、きさまごときを騙して、おれに何の得がある』


『……ど、奴隷に……』


『いらん』

 言い終わる前に、おれは尻尾で奴隷の頭をはたく。

『こいつで間に合っている』


『うそでしょ! このあたしの一体どこがユアに劣ると言うのよ!』

『…………サラちゃんも、ネロ様の奴隷になりたいのですか?』

『なりたくないわよ、そんなもの! でもあんたより下ってのが、納得できない!』


 奴隷の胸倉をつかみ、心の罵声を浴びせ続けるサラ。


『……止めないのか?』


 おれはライラというカナリアに向き直る。


『あら、どうして?』

『きさまの部下だろう? まとめるのがきさまの役目だ』

『だけど、あなたの奴隷でもあるんじゃない?』

『きっかけを作ったのはきさまだ。きさまが黙らせろ』

『あらあら。ずいぶん紳士的なグリムなのね、猫ちゃんは』

『おれさまは猫だ。やかましいのが嫌いなだけだ……。あと、おれのことはネロと呼べ』

『分かったわ、ネロちゃん』

『…………』

『サラ、もうそれくらいにしてあげて。ユアも、ちゃんと自分の声を持っているのだから、慌てずゆっくり説明してちょうだい』


 ライラはこの開拓村に派遣されたカナリアたちのまとめ役で、ユアたちより年長にあたる。

 特徴は長身と、長い巻き毛。そして、首元を隠すように巻いた白のスカーフ。もちろん、喉元に蔓延している穢れを隠すためのものである。

 呼吸器の侵食は命に関わる。

 だが侵食が進んでなお、奪われているのが声だけで、呼吸や食事をする自由が残されているという事実は、穢れが宿主をあえて生かしているということを意味している。

 声を失ったのは単純に声帯が麻痺したのではなく、穢れと同化したためであり。

 その発声が音を一切含まない、穢れだけに伝わるものと化したためである。

 実際、こいつは教会堂に近づいた時点で、おれと奴隷のやり取りを察知していた。

 サラの『目』と、ライラの『声』……。

 両方から同時に正体を隠すのは困難である上に、得策ではない。

 そう結論したおれは、奴隷の尻尾から分離して、ライラを仲介役に仕立てて自分から本性をさらけ出すことにした。

 結果、サラが混乱して、奴隷が八つ当たりを受けたわけだが……まぁそれは仕方がない。

 ヒトも猫も、安心を得るために自身より弱いものを虐げる生き物である。

 その間に、おれはライラに『声』の使い方をレクチャーしていた。

 元々、穢れに含まれる『声』を読み取る程度のことは日常的に行っていた女だ。

 おれを相手に『声』を飛ばし合うだけでコツはつかめたらしく、奴隷たちにも堂々と自分の『声』を聞かせていた。


『…………というわけで、先にネロ様の縄張りに踏み込んだのは私たちなのです。でもネロ様は人間と争うつもりはないそうです。ゴロゴロできればそれでいいとのことです。だって猫だから。それで修道院に引っ越して、三食昼寝つきで私たちのお世話を受けたいそうです』

『……本気で言ってるの、それ?』

『本当の本気だ。人間がどう思おうと、猫の知ったことではない』

『それもそうね。まぁ、私個人としては特に反対する理由は見つからないかしら』

『ライラ、あなたまで何を――』

『自分勝手なことを言ってるのは分かってるわ。でもね、私嬉しいの。いつも聞くばかりだったのに、今はこうしてあなたに話しかけることができる。たったそれだけが、嬉しくて嬉しくて仕方ないのよ』


『…………こいつがあたしたちにとって敵ではない、というのは認める』

 けれど、とサラは顔を真っ赤に一堂をきつく見回す。 

『グリムが人間にとって敵であることには変わらない。こいつを保護するということは、あたしたちも相応のリスクを背負うことになる。最悪、人間全てを敵に回す危険だってあるのよ?』


『当然ね。ただでさえ穢れている私たちが、よりにもよってグリムと手を組んでいるなんて知られたら、どうなるのかくらい簡単に想像がつくわ』


 カナリアは、人間どもが安心と安全を得るためだけに作られた、弱者である。

 これがグリムと関わりを持ったと知れば、その瞬間に人間どもはカナリアどもを始末するだろう。

 元々からして人間扱いしていないのだから、そこにためらいや罪悪は無い。

 たとえ安心と安全を失うとしても、恐怖と嫌悪は止まらないだろう。


『ネロ様……どうしましょう……』

『どうもこうもない』


 あくびが出た。


『きさまはおれの言うとおりにすればいいと言っただろう。そんなことより、重要なのはきさまら二人におれを扶養する意思があるかどうかだ。おれを修道院で養うか、養わないか、どっちだ?』


『私個人ならオーケーよ』

 と、ライラは即答。

『でも、修道院全体となると難しいわね。そもそも、あなたをここから修道院に連れて帰るのも、今は難しいと思うわ』


『……まずは生きてここでの任期を終わせないと、帰還なんて夢のまた夢ってことよ。無事に修道院で余生を過ごしたいなら、ここで大人しく猫でも被ってなさい。まぁ、あたし以外の誰が見たって、あんたがグリムだなんて気付くわけないだろうけど……』


 おほほほ……とサラが笑ったその時である。

 頭上の鳴子が、続くようにカタカタと鳴ったのだ。


プロフィール


サラ(下僕その一)

 AGE:17

 BLOOD TYPE:A型

 BLACK MANA:瞳(左)

『156㎝。黒のストレートボブ、前髪で顔を隠している。一言で表すなら、ハリネズミ』


ライラ(下僕その二)

 AGE:20

 BLOOD TYPE:B型

 BLACK MANA:喉(声)

『169㎝。くせのある茶のロングヘア。一言で表すなら、親戚のおばちゃん』


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