4 管理者登場と意味不明な説明
文字数を少し減らして、行間をあけてみました。
自動ドアは「入れ」と言わんばかりに開けっぱなしで中にはもちろん誰もいなかった。一階は広いホールになっていて、案内とかイベントのお知らせとかが主な目的だ。他は憩いの場として大きな液晶テレビと長椅子が並び、自動販売機がいくつか置いてある。それとホールの一角には、
「緊急会議室……?」
いかにも即席で作ったような、ホワイトボードの看板が置いてあった。
そこはたまに写真のコンテストや絵の展示とかをしているしている部屋で、無駄に広いくせに普段は閉め切っていて、あんまり役に立っていなさそうなスペースだ。
「ここなんだよな……」
誰に聞くわけでもなく独り言を呟いて、オレは恐る恐る中を覗くように部屋に入る。
部屋は何の飾り気も無く、ただ広いだけで何も無い。真ん中にはパイプ椅子が四脚置いてあって、その内三脚には誰かが座っていた。その三人の前には白衣を着た人と背の高い人が立っていて、どちらも男の人だ。
これだけしか人がいないのにどうしてこんな広い部屋を選んだのかとか、どう見ても異様だぞとか思っていると、背の高い人がオレに気づいたらしく、振り返った。他の四人も一斉にこっちを向く。
何これ、オレ間違えて入って来ちゃった?
そんな考えが瞬時に脳裏を横切り、一人でオロオロしていると、
「ああ、君で最後だね。さあ座って」
白衣の人がそう言った。そのやる気のなさそうな声は、まさしく放送の声と同じだ。
歳は四十代位で茶髪に無精髭、耳にはシルバーのピアスが光っていて、そういうファッションなのかだらしがないだけなのかよく分からない。ちなみに白衣はあんまり似合っていない。
隣にいる背の高い人は二十代位に見える。金髪のオールバックに、薄い色のサングラスから
覗く鋭い目はかなりかっこいい。でもちょっと整いすぎているかな、と思う。いや、嫉妬とかじゃなくて、無駄なものを一切無くしたらこうなりました、みたいな人工的な顔だ。
夏にも関わらず、きっちりとした白いロングコートを着ていて、何だか軍人みたいな人だと思った。
オレは軽く頭を下げて二人の横を通り過ぎると、空いている椅子へ座った。それを待ってから白衣の人が、
「えー、それでは全員集まりましたので、説明を始めようかと思います」
そう言って面倒くさそうに頭を掻いた。
「どうして君達以外の人間が突然いなくなったのか、その理由は……とその前に自己紹介忘れてたね。オレはオレ。特に名前は無い。でもあえて名乗るとしたらファイブ。五番目に生まれたからそう名付けられた」
いよいよ分かるんだと思えば、突然の自己紹介。それを聞いてガクッとなったのはオレだけじゃないだろう。そりゃ確かにこの人達誰なんだろうとは思ったけど、それは後でもよかったよ。
しかしそんな事お構いなしに、ファイブと名乗った人は親指で背の高い人を指すと、
「で、隣にいるのは助手のカイト君。って事で皆よろしくねー」
言った。いや、言いやがった。何がよろしくねー、だ。何にも分かるように言ってないじゃないか。って言うか五番目に生まれたって何ですか?五男坊って事?
「あ、あの」
しばらく唖然とした空気が流れた後、オレの隣に座っていた女の人が遠慮がちに手を上げた。
控え目そうで綺麗な人だけど、かと言って目立つ所もなく、三十代前半のごく一般的な主婦。オレはそう読んだ。
「はい、何ですか?」
「名前は分かったんですけど、あなた方は一体どういう立場の人達なんですか?」
もっともな質問だ。オレも是非知りたい。
「そうだねえ……。簡単に言えばオレらは君達、いやこの街全体を管理する者って言えばいいのかな」
「管理……政治家の方ですか?」
女の人はそう聞いたが、それはないだろうとオレは思う。こんなヤツが政治家だったら世の中もう終わってる。
「いや、違うよ。オレらはそこまで干渉しない。どっちかって言うと、普段はただ見ているだけなんだ」
「え……えっと?」
予想通りの女の人の反応。オレも絶対そうなる。だってこの人の言う事、全然分かんないもん。
「うーんとねぇ。もうはっきり言っちゃえば、君達は生きたデーターなんだよ」
その瞬間、その場の空気が完全に固まった。理由は言うまでも無い。駄目だこのオッサン、何言ってんのか全然分からんって空気だ。
隣の女の人も、まともに話し合おうとしていた自分を若干責めているように見える。
えーっと、何だろ。仮にこのオッサンの言うことが事実で、とことん人に分かるように説明する気が無いとすれば、オレ達は何かの実験のために集められましたって事か?で、他の人達は実験の邪魔だから皆どいてもらいましたって事か?そんなアホな。
誰もが沈黙の中、心底呆れたように溜息を吐いたのが助手と言われたカイトだ。
「ファイブ……真面目に説明しろ」
「だってオレ、カイト君以外の人と話すのなんて何十年ぶりだし。そもそも説明なんて一番オレに向いてないし。カイト君が最初っから説明してくれれば簡単な話だし」
両手をポケットに突っ込みながら、オッサンはいい歳こいてそんな事を堂々と言ってのけた。
カイトはこいつにまかせておいたら駄目だと思ったのか、オッサン同様面倒くさそうにオレ達を見た後、
「信じられないかとは思うが、お前達は人間そのものをそっくりそのままコピーした情報なんだ」
言った。オレ達が人間そっくりに作られた情報。オッサンと違って言っている事は分かるけど、自分の事としてはさっぱり頭に入って来ない。
「二百年以上前に、正確な数は把握できていないがこの世界からほとんどの人間が姿を消した。
その理由は社会の情報化が急速に進んだ、いや、進みすぎてしまったからだ。今のお前達でもそうだが、携帯やパソコンなどを利用して仕事や生活でのあらゆる情報を管理し、日常的な会話までネット上でやりとりするようになった。しかし人間はそれだけでは飽き足らず、自分自身の脳に情報を流しこみ、自らも情報の一つとなって電子世界の中に入れる装置を開発した。最初はゲームなどの娯楽の一部でしか使われなかったが、それが次第にビジネスなどに発展し、最終的には生活そのものを電子世界で行うようになったんだ。そしてそれがいつしか常識となり、人間達は現実世界での肉体の存在を忘れていった。いくら電子世界にいると言っても実際は装置で情報を流しているだけだ。肉体そのものが情報化されている訳ではない。現実世界での肉体が寿命を迎えれば、当然電子世界の人間も死ぬ。人間達は自分でも気づかない内に寿命が尽き、次々と滅んでいった。そして最後に残ったのは死んでいった人間達の情報、つまりお前達だけがあたかも人間として生活しているように振舞って今に至るという訳だ」
長い説明を、一度もつかえずにスラスラと言い終えた。
オレ達は「へー、なるほど。それで今の自分達がいるんだな」などと納得できる訳が無く、ポカーンとそれを聞いているだけだった。




