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18 メア出現

「そんなことが出来るんですか・・・?」


 前代未聞な方法に、テンは半信半疑でそう尋ねた。


「だいじょーぶだいじょーぶ。オデらにまかせてーぇ」


 ネコノタマは自信たっぷりに答えた。すると今度はファイブの声が聞こえ、


「オレにも話させてよ」


 ネコノタマをどかせて自分がテレビへ映った。


「やあテンちゃん。燈真君はもう寝てる?」


「はい、寝ています」


 だからもう少し小さな声でと思いながらテンは答えた。


「それは良かった。彼が起きてるとまた混乱させそうだからね。部屋はここと全く同じに作ってあるから気づかれることはないよ。後は燈真君を不安にさせないようにしてやってほしい」


「はい、大丈夫です」


 テンは大きく頷いて言った。何も出来ないけど、少しでも燈真を危険から守りたい。そのために自分はここにいるのだとテンは強く思っていた。


「早くしろ、時間が無いぞ」


 淡々としたカイトの声が聞こえ、フェイブがその方向を見る。


「カイト君は何か言っておきたいことないの?」


「特にない」


 相変わらずつれない返事だと、テンは苦笑する。


「それじゃあ後はこっちで頑張るから、燈真君のこと頼むね」


 穏やかな笑顔でファイブが言ったかと思うと、即座にネコノタマが横から割り込んできて、


「じゃあねぇテンちゃーん。今度一緒に」


 途中で画面が途切れた。あんなに騒いで燈真を起こさなかっただろうかと心配になってベッドを見たが、静かな寝息だけが聞こえていてぐっすり眠っているようだ。

テンは安堵の息を吐いて、再び椅子へ腰掛けた。後はネコノタマ達にまかせるしかないと考えていると、既に転送が始っているらしく、電波の悪いテレビのように部屋全体が小刻みに揺れ動き出した。

 どうか主が目覚めたら全てが終わっていますようにと願いながら、テンは静かに目を閉じた。





「転送かんりょーう」


 ネコノタマが言い、カイトは目を開けた。


「気分はどう?カイト君」


 ファイブがそう尋ねたが、思ったよりも違和感は無く、


「特に問題はない」


 カイトは短く答えた。


「後オデの仕事はなりすましちゃんをどーにかすることなんだけどぉ、どこに行っちゃったんだろーねぇ」


「あ、それなんだけどさ」


 ファイブはキーボードの上で忙しく動かしていた指を止め、


「これでネコノタマ君の仕事も終わり。今度はオレが君をカイト君の中に転送するよ」


 そう言った。それを聞いたネコノタマは意味が分からないと言いたげにポカンとしていたが、


「何でぇー?」


 不満そうに口を尖らせ、首を傾げた。


「何でって、これ以上ネコノタマ君を危険なことに巻き込みたくないからだよ。後はオレらにまかせて、君

も避難した方がいい」


「えぇー?これから面白くなってきそうだったのに、オデだけ追い出す気ぃー?」


 完璧にゲーム感覚で楽しんでいるネコノタマに、ファイブは困ったように指で頬を掻いた。


「そうじゃないよ。誰よりもこの街のことを知り尽くしている君にここで消えてもらっては困るんだ。もしオレ達がバグに勝てなかった時、君には重要な仕事を頼みたい」


 ファイブの真剣な表情に、ネコノタマもふざけるのを止めた。


「具体的にはぁ?」


 間延びした口調は変わらないが、常にニヤついているような表情は消えていた。


「まず、バグはカイト君とオレでどうにかする。状況は圧倒的に不利だしバグがどれだけの力を持っているのかも分からないけど、勝てる可能性に賭けてみるしかないよ。それでもし、バグを倒せなかったとしてもカイト君には外部からは侵入出来ないようにロックがかけられているから時間は稼げる。その内に君達はテンちゃんの指示に従い新しく作った街に逃げてほしい。それからネコノタマ君には迷惑をかけるけど、オレ達の代わりにテンちゃんと一緒に街の管理をしてほしい。君ならオレなんかよりもずっと上手くやれるはずだ」


 ネコノタマはこの二人についてよく考えたことは無かったが、彼らはきっと命を賭けて自分の役目を果たそうとしているのだと悟った。それを邪魔するような趣味は無いし、彼らの代わりが出来るのなら悪い話ではない。


「テンちゃんと一緒かーぁ。それもいいねーぇ」


 ネコノタマは頬を紅潮させ、テンと自分で街を作るのはどんなに楽しいのだろうかと空想した。しかしあることに気づき、落胆した表情を浮かべると、


「でもちょっと遅かったみたーぁい」


 そう言った。ネコノタマの視線の先には、いつの間にか羽井メアが立っていた。ただ俯き、無言で佇んでいるが、なぜかその体は仄かに青白く光っている。


「あーあ、やっちゃったねぇ」


 その姿に何かを理解したらしく、呆れた口調でネコノタマは言った。メアはゆっくりと顔を上げると、


「やっちゃったって、何が?」


 不敵な笑みを浮かべ、首を傾げた。カイトはメアに気づかれないようにパソコンを自分の体で隠し、素早くプラグを引き抜いた。するとケーブルは音も無く首の裏へと戻り、傷痕も残さず体内へ吸い込まれていく。


「お譲ちゃん。その体、バグがやったの?」


 どこか憐れむような表情で、ファイブが尋ねた。するとメアは両手を大きく広げ、


「そう、凄いでしょっ!これでボクもバグと同じなんだよっ!」


 嬉しそうにそう言うと、突然部屋が地震のように揺れ出した。


「こんなことも出来るっ!」


 揺れと共に部屋のあらゆる物が、まるで重力を失ったかのように少しずつ浮いてくる。当然メア以外の三人も例外では無いのだが、誰一人として動揺している者はいない。


「ねえ、凄いでしょっ!ボクは最強なんだよっ!」


 広げた両手を下げると、家具や人は元通りの位置へストンと収まった。得意げなメアを前にしてほんの少しの静寂の後、ファイブはやれやれと溜息を吐きながら、


「あのね、お譲ちゃん。それ、自殺行為だから」


「バグには膨大な処理能力を持ったコンピューターがあるからこそ街を乗っ取りプログラムを自在に変えることが可能なんだ。だがお前はただのデーターにも係らず、バグと同等の機能を詰め込まれた。それが何を意味するか分からないのか」


「空気入れすぎた風船みたいに破裂しちゃうよーん」


 パーンっと言って何が可笑しいのか、ネコノタマは一人で笑った。それを見たメアは自信に満ち溢れた笑顔から一転、鬼のような形相に変わった。新たな自分の力を見せつければ途端に震えあがると思ったのにこの余裕。自分の存在を認めようとしない、どこまでも気に食わない奴らだとメアは憤る。


「何を偉そうにっ!ボクがここに来るのを誰も気付けなかったくせにっ!今更ホテルのセキュリティー管理なんて一生懸命やっちゃってさ!ばっかみたいっ!意味ないんだよっ!」


 そう怒鳴ると、メアは勢いよく右手を振った。すると腕の下半分が無くなり、代わり光の塊が剣の様な鋭利な形をして出現した。カイトの持っている破壊用プログラムとよく似ているが、色は真っ黒で紫色の稲妻が纏わりつくようにバチバチと音を立てている。


「なんて悪趣味な・・・」


 呆れ返ったファイブが感想を呟く。メアはカイトを見ると、


「お前と同じ破壊用プログラムだよ。どう?これで皆斬られて死んじゃうんだよ」


 挑発的に言った。それから今度はネコノタマに、


「それから化けネコ、お前を斬った後にテンとか言う奴も消してやるから」


 冷酷な笑みを浮かべて言った。こうすればネコノタマも怒り狂うか、命乞いをするかと思ったが、彼は耳をピクピクと動かしただけで特に反応しない。相変わらずベッドに寝転んだまま大きな欠伸をした後、弾くようにパソコンのエンターキーを押した。すると床から四枚のガラス板が、ガシャンという音と共に勢い良く上がってきて、あっという間にメアを取り囲んでしまった。呆気に取られている間にも、唯一空いた天井にガラス板が蓋をして完璧ににメアを閉じ込める。ガラスの箱の四隅からは大量の煙が噴射され、中は真っ白で何も見えなくなった。まるでバラエティー番組などで出てくる罰ゲームのようだが、煙の量が尋常ではない。


「逃げるよーん」


 ネコノタマはベッドから飛び降りると、箱の中で咳込んでいるメアをすり抜け、走って部屋から出て行った。それを唖然と見ていたファイブとカイトも後に続く。

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