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一体化するのはLIVE中だけ

長崎遠征の日々は続いた。

バンド名で呼ぶ人も居れば、バンドで使用していた名前を使って可愛がってくれる先輩も増えていった。

遠征中の道中ではわたしが居残り打ち上げお酒担当、他のメンバーは下戸で帰宅組だったので、2台で行くこととなる。

そして、LIVEハウスに到着するやいなや、わたしはリハ前にビールを注文する。

新人君だけは怪訝そうに眺める。真面目なのだ。


「ベースおねがいしまーす。」

PAからの指示で弾く予定の曲を数回適当に鳴らして音作りをしてもらう。

数回間違えているのを左端からの新人君が目線を投げかける。


「音色ありますか?」

「ないです。」


エフェクターに頼りたくない、というか頼ったところで音はモコる一方だし、素の音色に一目惚れしたわたしはいつもリハ終わりが早い。


「ギターいきます。おねがいしまーす。」

新人君のギターの音作りは巧妙に作り上げられ音色も何個も重ね合わさっていた。曲毎、むしろリフ毎に違った音色を放つ。リハの時間はいつだって長い。


ギターボーカルとドラマーは高校の同級生ということもあって、阿吽の呼吸で遊び場を探しているような雰囲気だ。他のバンドが余所者が来たぞといった観察眼にもめげずに真っ向から歌い上げ叩き上げる。


「本番お願いしまーす。」

「よろしくお願いします。」


さぁ今からが営業モード発動だ。

相変わらずギターボーカルとドラマーは二人だけの楽しみ方で楽しんでるし新人君は真面目に他のバンドを見つめる。そんな中アルコールの力も借りつつ仲間を増やして知名度を上げることに躍起になるわたし。4人がそれぞれの動きをしていき、一体化するのはどこかLIVE中だけになっていった。


Aが所属するバンドのギターのBからはこう言われた。

「君、パンクロック好きなんだろ?そして、酒も好きと来たら、LIVE前に飲むしかねぇだろ?」

即答した。憧れのバンドマン達と4人きりで飲めるのだから。至福の時間だった。LIVE前だというのに緊張感は全くない。それは単にアルコールが入ってるからというよりかは、刹那的な多幸感に浸れる非現実味が味わい深かったからであった。

日本酒を沢山飲んでぐらついた段階で、Bから言われた。

「あ!おい、もうこんな時間だぜ?出番まであと何分だ?」

「…14分くらい、ですかね?」

「会計はいいからさっさといっとき!間に合わないと元も子もない。」

ぐらつく足を立て直し数回よろけて何とかLIVEハウスに到着する頃には出番前5分で直前のバンドが終わり暗転して転換の時間となっていた。

普段は温厚なドラマーも流石にこの時ばかりは苛立ちを口にしていた。


「どこで何やってたんすか!間に合わなかったらどうするんすか!」

「…ごめん、本番ではちゃんとやるわ。」

「そんなぐらつきでベース弾けるんすか?」

「やるっていったらやるのよ!」


リズム隊のズレは大きく会場の熱量を左右する。単にモテたいからなんていう陳腐な理由で楽器を始める輩と違って音楽を愛しているが故に出てきた言葉なのだと頭で分かりつつも、Aたちとの時間も同時に大切なものになっている。頭で分かりつつも感情で動くのは昔からの悪い癖だ。


その日のLIVEの出来はまずまずと言ったところだった。

大きなミスは無かったし、会場も盛り上がっていた。

MCではおどけて笑わせ、曲が始まれば真剣に魂を込めて弾く。

しかし、飲みすぎたが故にいつものスタジオ練習よりかは荒削りな演奏だった。間違えたところはグリスダウンで誤魔化した。観客はこんな曲なんだろうと思っていただろう。わたしはステージ上では失敗は顔に出ないタイプだし、出したとしても愛嬌に替えられるだけの可愛がられ方をしてきた、つもりだった。ある1名を除いては。


LIVEが終わり片づけをしてる最中、新人君がこう言い放った。

「佐和子さん。間違えるくらいなら飲まないでくれます?」

カチンときた。正論だからだ。尚更こころに響いてごめんねと言えない天邪鬼が発動してしまった。

「じゃああんたが佐賀でのブッキングもチケット捌きもしてご覧なさいよ。誰がやってると思ってるのよ。」

喧嘩のような淀んだ空気感を太ったギターボーカルがおどけて見せたり空気を読むドラマーが佐和子さん怒んないでと宥めるも険悪なまま3人は帰っていった。


「酒と音楽だけあればいいと思っていたのは奢りだったのね。」

「バンドって楽しいけど厄介だな。」

「ごめんねがどうしても言えなかったわ。」

打ち上げでも考え込んでホテルに戻っても眠れなかった。長崎での活動の主戦力としてブッキングもチケット捌きもしていたのは事実だ。しかしそれは頼んだ覚えはないと言われてしまえばそれまでの事だ。ついに新人君は自分で佐賀のブッキングを持ってきた。チケットについてはAが所属するメンバーなどをわたしが集めた。


丁度同じ時期だ。

ギターボーカルの彼女が妊娠したという。

祝福すべきと思ったので素直にその気持ちを伝えるも何となく距離感を感じる。

後々ドラマーに聞いたら、話はこうだ。


佐和子のやる気に満ちている姿に尊敬の念はあるが、ただ鳴らせれば良かった時と変わって今はLIVEだらけで辟易としている。そして彼女もメンバーに女がいるのが気に入らないといっている。ここらでひとつ、活動休止したい、と。


絶望した。仲間の口からそんな言葉が出てくるなんて。よりにもよって仲間のために頑張ったと思っていた事を否定されたことによって。

それからはベースを触るのが少し躊躇われた。

活動休止LIVEの日程が組まれた。

それまでには、立派じゃなくていいから、せめて楽しいLIVEにしようと思っていた。

時は戻せないが、思いは変えられると信じていたから。

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