シェルターへ
アジト救援の先発隊として帰還し、アジト内を駆け回っていた米沢は、
廊下の角でばったり夜野と出会う。
一瞬、コア能力を使いそうになるが、
翡翠のペンタスに加入したとレポートで見覚えがあったので踏みとどまる。
「お前は確か……」
と、言いかけたとき、前方、つまり夜野の後方に黒い模様を体に浮かび上がらせ明らかに殺意を持ってこちらを見据える複数の敵を目に入れる。
敵が目の前で十字を切るように空を切る動作をすると、
その指の軌跡と同じ形の何かがこちらに放たれたことがわかる。
「クソッ、ここにもいたか!!」
米沢の軍服の迷彩が翡翠色のまばゆい光に包まれる。
彼らと侵入者たちの間にどこかぼんやりとした空間が形成される。
敵の放ったものはそこを通り過ぎることはなかった。
「なんでこんなとこをほっつき歩いているんだ。
みんなはシェルターにいるんだよな?」
「いますよ」
気さくに答えられ、少し能天気すぎやしないかと米沢は心配になる。
「とりあえずこいつらを撒いてから向かおうか」
そう言って彼らを背に走り出す。
夜野もそれにおとなしく続く。
「不用意に近付くな!
奴が能力を使った空間は時間がずれる。
罠があるぞ!」
コア能力を使ったのとは別のレッドコアズの女が注意を促す。
そいつは米沢のコア能力を知っているようだった。
米沢のコア能力は一定の大きさの形成した空間の時の流れを操るものだ。
先ほどの攻撃は一時的に止めている。
米沢の計算では、敵が何も知らなければその空間を通り過ぎた頃に時が流れ出し、
自ら放った攻撃で倒れることになるはずだった。
しばらくすると、先ほど放った刃状の真空波が遅れて出てきた。
それは壁に突き刺さるように切れ目を残して消えた。
レッドコアズの者は得意げに呟く。
「わかっていればどうということはない!」
翡翠のペンタスの2人は先に曲がって行ったようだ。
彼らはそれを追いかけていく。
少し先を行く米沢は、攻撃が失敗したことを悟ると一度振り返ってコア能力を使い、
そこに向けて手に持っていた銃を派手に乱れ撃ちする。
それはプシュッという鋭い音がした。エアガンだ。
「こんなもんでいいだろう。行こう」
米沢は自衛隊出身である。
実銃を持つのは色々な点でリスクが高いが、彼はエアガンを調達し使用している。
どちらかと言えば戦闘向きではない彼のコア能力でも、
このように工夫してこれまで生き残ってきた。
米沢たち先発隊はアジトの付近までは滝沢のコア能力で移動し、
一方は正面から現れてもっと派手に行動している。
敵の多数を引き付けて時間を稼ぐためだ。
米沢ともう一人の潜入のための輸送は別の選抜者が行った。
米沢はその能力と経験とアジト内の経路を把握していることを活かし、
あちこちで騒ぎを起こしてはヒットアンドアウェイの要領で状況を確認していた。
レッドコアズたちが角を曲がろうとした瞬間、先ほど注意した女は制止する。
「待て、罠の気配がする!」
反射的に他の2人も立ち止まる。
数秒遅れて、鋭い弾丸の雨あられが通路を薙いだ。
エアガンでも何も防具を着けずに命中すればかなりのダメージを負うことになる。
あのまま角を曲がっていれば、痛みにのたうち回って、
しばらくは動けなかったかもしれない。
罠をやり過ごしたようなので、角を曲がるも、
すでに先ほどの2人の足音さえも聞こえなかった。
「逃がしたか」
レッドコアズの女は忌々しそうに呟いた。
同じころ、米沢たちはシェルターの付近まで辿り着いていた。
入口は隠されており、彼らがすぐに姿を消せたのもこのためだった。
(どうしてこいつはあんなところにいたんだ……?)
夜野の行動を疑問に思いつつも、
今はメンバーの安全確認が優先だ。
米沢はシェルターへと向かい、
救援に来たこと、今は先発隊しかいないが、
じきに大勢戻って来ることをみなに告げたのだった。
「問題はそれまでどうするか、だな」
結局、シェルターにいる者は救援が来るまで立てこもる方策を選んだ。
幸い、ここはまだバレていない。
米沢は特にこういったシチュエーションでも頼りになり、
全員で脱出するよりはリスクも低いということもあった。
叶野は別室にいるようだが、それもかなり深い階層のはずである。
非常用の待機場所は南禅寺しか知らない。
どこにあるのか、他の者では見当もつかない。
簡単にはたどり着けないだろうと判断した。
「俺だって籠城戦は好きじゃない。
訓練が辛かったからな。だがやるしかない」
どこまでやれるかは未知数だが、米沢たちは覚悟を決めた。




