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エリートウォーズ  作者: 流山治満
スキルスティーラー編
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19/58

ナスタチウム班②

「手はず通りだったな」


 亘は息を切らしてずぶ濡れの体を払う。

 公園の付近にある小綺麗なマンションの壁に寄り掛かっていた。

 ナスタチウム班の友江の水球からかろうじて逃げ延びたところだ。


「で、まだやるんすか?」

 茶髪で暗い緑色のパーカーを着た、

 いかにも今時の軽そうな若い男が話しかける。

 男は差し出された亘の腕に、

 濡れているため苦戦しながらも、

 白いチョークで×印を書く。

 この男、ポインタこと津島のコア能力により亘は付近に転送され、

 ひとますここへ逃げ込んだのだ。

 あらかじめ尾行させておき、

 サインを出したときに適当な場所を見つけそこへ転送させる。

 そういう段取りであった。


「注意しなければいけない点はわかった。

 こんな大物見逃してたまるかよ」

 呼吸を整えながら不敵に笑うと、

 影になっているマンションの敷地から外に出る。

 ポインタは仕方なく少し距離を取りながら亘に付いていった。


 このマンションは公園の付近にあり、

 入口までは100メートルほどだ。


 再び繰り出すべく、公園の外壁から一気に突破して襲撃しようとし、

 マンションから20メートルほど進んだときだった。

 群青色の光が周囲を包んだかと思うと、

 いつの間にか上空をどんよりとした暗雲が覆い、

 辺りが暗くなっていることに気付く。

 亘は思わず足が止まる。


 友江の放った第二の刃は既に彼らに迫っていた。


 先ほど亘を追いやった水で包み込むのは、

 直接視覚情報が得られないとできないものだった。

 そこで、友江は水分を操り積乱雲を発生させ、

 その落雷によって葬ることにした。


「おい!」

 亘が声をかけるまでもなく、

 後ろに続くポインタも同じく異変に気付いたようで、

 足を止め天を見上げる。


(何かがおかしい)

 違和感を覚えたのは空模様だけではない。

 なんとなくではあるが体にも異常が起きているような感覚がする。

 困惑しながらも本能的に後ずさりしたとき、

 亘はその正体に気付いた。


「動きがノロい!!!」

 驚嘆の声をかき消すように、

 同時に上空からゴロゴロと唸り声のような音が響いてくる。


 人が落雷に遭う確率は1000万分の1だという。

 だが、この場においてはほぼ確実にこちらを狙っているように思えてならなかった。

 とにかくどこかの軒下に逃れるべきだと亘の本能が叫んでいる。


 心配には及ばないといった表情でポインタが指を鳴らし、

 能力によりワープして先ほどのマンションまで一時的に避難する。

 ……はずだったが、2人がワープする様子はない。

 首をかしげながらもう一度指を鳴らしてみるも変化はなかった。


(津島の能力が発動しない……?)

 嫌な汗が流れるのを感じながら、

 直観のままにすぐに踵を返して、

 最も近い雷から逃れられる場所を目指す。

 だが、体が思うように動かない。


「そんなはずは……ッ!!

 くそっ、なんでだよ!!!」

 ポインタは慌てふためき、まだ能力の行使を試みている。


 亘は付近の民家のドアを触手を使って破りひとまず避難しようとした。

 しかし攻撃する触手に十分に力が入らず、

 破壊することができなかった。


 こうなると、民家ではなく最寄りの安全な屋根の下、

 つまり先ほどのマンションまで避難するがあると判断した。

 屋根の下に戻るまであと20メートルほどであるが、

 それまでに落雷に遭うと直感できた。


「もういいから足でさっきのマンションまで戻るぞ」

 亘が吼えるようにポインタを促す。


(コア能力の効果が変わった……!?)


 無事に辿り着くことができるのか。

 そんなことを考えることも恐ろしかったが、

 それでも必死にマンションを目指す。


 ポインタは半ば発狂しながら、

 走るとも這いずるとも言えない体勢で前に進んでいる。

 一心不乱に来た道を戻っていると、

 亘の視界に1本の細い閃光が映った。

 あっけにとられて思わず動きが止まる。

 何が起こったかを理解するより先に、

 ガラスが大量に割れるような爆発音が辺りに轟き、

 振動とともに伝わってきた。


 ポインタは思わず目を瞑り、両手で頭を覆っていた。

 もっとも、その動作は既に落雷した後であり、

 生理的な反応をしただけで何の意味もない。


 10メートルほど前方にあった電信柱に落雷したようで、

 漏電しているのか電線から小さな電流が起こっているのが見えた。


 亘は頬に一筋の汗が伝う感覚がしたが、

 それを拭いたい気持ちを押し殺す。

 無言で再びマンションを目指して走り始める。

 数秒遅れてポインタもそれに続く。


(まだ焦る必要はない……)

 亘は努めて冷静に行動しようとしている。

 実際に、先ほどの落雷が外れたところを見ると、

 敵はそれほど正確に雷を操れないようだ。

 高い物に落ちるという自然の法則に逆らうことはできないようで、

 避雷針代わりになるものが周辺にいくつかある。


 そんな安心も束の間であった。

 ゴロゴロと不穏な音を立てている上空に、

 一つの音が混じって聞こえてくる。

 カラスの鳴き声だ。

 近付いてくるまでまったく気付かず、

 気にも留めていなかったが、

 何かが不自然だと思えてきた。


 そのカラスがやたらと上空を旋回しているのである。

 何か異様な雰囲気を纏っている。

 亘の右目を中心に黒い模様が浮かび上がる。

 すると、そのカラスが翡翠色のオーラに包まれているのがわかった。

 更に、その視界の端でいくつもの翡翠色に発光する点が目に入った。


(俺たちの行動は常に監視してるってわけか)


 とあることに気付き、亘は伏せるようにポインタに声を上げた。

 突然叫ばれたため思わず言われるがままに身を低くした瞬間、ピカッと光った。


 耳をつんざくような爆音は付近に放置されていた自転車に落下する。

 その距離はわずか5メートル程度だった。


 ポインタはストンと何かが落ちた音がすると目を開けた。

 それは先ほど上空を飛んでいたカラスだ。


「おそらく敵のコア能力で操ってたものだ。

 これを避雷針代わりにこっちに雷を誘導してくるぞ!!」


 亘はあえて断定はせずに忠告した。

 ポインタは血の気が引いた様子で、

 悲鳴を上げながら再び走り出す。


 そんな状況ながらも亘は、真坂のコア能力が心底欲しくなった。


 だが、今は次にいつ雷が落ちてくるかわからない状況である。

 今の彼らにはそれを防ぐ術はない。

 できることはひたすら軒下を目指すことだった。

 常に頭の上に死神の気配を感じ、

 何かに祈りすがるように進む。

 ほんの数メートルの距離を進む数十秒間のはずだが、

 その時間は永遠のように感じられた。


 やがて後方から次のカラスが飛んでくるのがわかった。

 振り返らずに必死に足を進める。


 ついにマンションの入口まであと数メートルのところに差し掛かり、

 失っていた生きた心地を取り戻しかけたときだった。


 亘は全身にぞわっとするような感覚がし、

 髪の毛の根元が立ってきた。

 さらに、肌の表面がチクチクしてくる。

 気付けばカラスが上空で羽ばたいている。

 咄嗟にしゃがみ込んだ。


 その瞬間、細くまばゆい閃光が、

 太陽が遮られどんよりと暗くなっていた辺りをまばゆく照らす。

 再び轟音が轟いた。

 それは亘の少し後ろで突っ立っていた哀れな者に直撃した。


 反射的に触手で体を覆っていた。

 が、耳鳴りがする以外には自分に外傷がないとわかると、

 ゆっくりと振り返ってポインタの方を見る。


 ポインタは全身からフスフスと白い煙を上げながら膝をついてうつ伏せに倒れ、

 そのまま起き上がってこなかった。

 隣には同じくピクピクと今わの際の動きをし、

 やがてそのまま動かなくなった黒い塊があった。


 思わず唾を飲み込むが、すぐに頭を切り替える。

 ポインタのコアは破壊されていないことを確認すると、

 そのまま無事だった方の触手で彼の足首を掴む。


 こんな状態でも貴重なポインタのコア能力には、

 目を付けずにはいられなかった。

 この瞬間だけは恐怖よりも欲望の方が勝っていた。


 数秒ロスしたことにより、

 命を危険に晒したことへのほんのわずかな後悔と、

 再び蘇ってきた死に直結する脅威への恐怖があった。

 しかしついには、自ら手を下すことなく成果を得られたことへの歓喜を胸に、

 間一髪で4度目となる落雷を避けながら、

 無事マンションのエントランスに転がり込むことに成功したのだった。


「くそっ、一人は殺れたがメインターゲットには安全な軒下へ逃げられた……」


 その様子をずっと窺っていた舛森は悔しそうに声を上げる。

 このときは罠にかけるつもりだったネズミを捕り逃したような気分だった。


「奴はこのまま離脱を図るんでしょうか?」

「いや、奴の性格から考えて選抜者が集まっているという、

 願ってもない状況を目の前に逃げるわけがない。

 こちらは鉄壁の布陣とまではいかないが、

 可能な限り考えうる万全の体制だ。

 というより、付近ではここ以外奴を迎撃する場所は考えられない」


 スキルスティーラーがどんな能力を持っているかその全貌がわからない以上、

 安易にこちらからは仕掛けられない。


 万一ここで仕留められなくても、

 コア能力のいくつかを判明させ持ち帰ることができれば成果となる。

 よって、ここで迎え撃つことが現状の彼らにとって最善の策と考えた。


「こちらも仕込みの時間ができたわけだしね」


 真坂は大島の方を見ながら朗らかな笑みを浮かべる。

今回は1話の投稿にします。

次回は来週にします。

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