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ハマのアトラクション

先日アップした「蠱惑的な君に翻弄されるそれは本望」を「蠱惑的な君に翻弄されるそれは本望」と「ハマのアトラクション」に変更しました。

 何やってたんだよっと問い詰めたかったが、ミナトが冷静さを取り戻した。



「時間ない。

 早く、ここ。離れよ」



 ももしおの話を聞くのは、無事1階に到着してから。

 昼食の調達のためにコンビニに向かう。歩きながらももしおの話を聞いた。



「ほんっとにほんとにびっくりしたんだからね」



 ねぎまは半泣きだった。が、ももしおは能天気。



「なんかでっかい滑り台だなーって見てたの。そしたら人が来て。で、滑れるのかなって」



 ももしおは、カビのテープを太陽光発電の淵に貼り、透明のセロハンを剥がし終わった。高いところが大好きなももしおは、フラフラと誘われるように屋上の端へ行ってしまった。とてもいい眺め。

 見下ろすと普通のアトラクションにはない、スリル満点の滑り台があった。かもめプラザホールの建物についていた、横浜市のマークである。カタカナの「ハマ」からデザインされた横長ひし形の真ん中に横線1本。



「滑っちゃったね、シオリン」


「空ん中で滑ってる感じ。サイコー」



 分からん。ももしおを理解できん。



「死ぬって」



 オレはブチ切れたいところを抑えに抑えた。どんだけ心配したか。



「へーきだよ。滑り台の先に、道、続いてたもん。壁に横ジマの凸凹ついてるじゃん」


「あるね。道じゃないけど。シオリンったら」



 確かに壁には横ジマ模様の凹凸があった。その幅は恐らく30センチほど。横浜市のマークよりはるかに狭い。



「それを伝って窓から入っちゃった。それがね、男子トイレだったの。男子トイレって個室、少ないんだねー。鏡も小さくて」


「そーなの? 知らなかった」



 会話がいつもの身のない話に変わりつつある。どう助かったかは把握できたから、どーでもいい。



「そしたらね、もう陽キャ大臣御一行が来ちゃったわけ。隠れたよー。個室じゃトイレ使用中んなっちゃうじゃん。だから、道具入れるとこに。びびった! SP、道具入れまでチェックするんだもん。ホースに隠れてセーフ」


「ホース!?」


「そ。すっごくぐるぐる長ーいホースがいっぱい突っ込んであって」


「やだ、シオリン。ばっちぃ」


「臭うかも。でねでねでね。そのまま、SPさんがトイレタイム。ほら、見てみたいじゃん? 気になるじゃん? こんなチャンスないじゃん。でも、乙女としては、初めて見るモノが排泄状態ってのはいかがなものかって悩むわけ。SPだったら鋼の体。体イケメンってだけでやっぱ、そそられるじゃん? 鏡に写った顔、まあまあイケメン」


「シオリン、お口にチャック」



 ももしおが桜貝のような可憐な唇から耳を覆いたくなる言葉を垂れ流す。悩むとか言いながら、めっちゃ見ようとしてたわけな。






 最寄駅のコンビニには主食系の食べ物が残っていなかった。ゴミ袋は売っていたがシャベルはない。ってことで、鶴見駅まで出た。ちょうど日曜のランチタイムが始まる時刻。食事の順番待ちにももしお×ねぎまが並び、ミナトとオレはゴミ袋とシャベルを調達。安いパスタやドリアで腹を満たした。


 意を決してかもめプラザホールへ向かう。

 できるかもしれないし、できないかもしれない。でも、何もしないよりはいい。……いいのか?

 少なからずオレは、特大の砂遊び的なことにわくわくしていた。






 かもめプラザホールに戻ると、広場にスーツ姿の背筋が伸びたおっさんが1人。明らかに日曜日のお父さんじゃない。きっとSP。SPらしきおっさんは、ホールの周りを調べたらしく小道から現れた。

 セーフ。もしも排水の制御装置を調べていたときや作業をしているときだったら危なかった。


 

 12:30。お昼休み。かもめプラザホールの広場には多くの人がいた。ところどころに置かれたベンチでおにぎりを食べる家族、出前のピザを食べる家族など様々。本日晴天、風弱し。外で食べるには最高。ギャングのようなウミネコがいるが、それもまた一興。



「あ、にゃんこ」



 ねぎまが猫に手を振る。猫の親子は人の多さにビビっているのか、植え込みの下に隠れている。虎視眈々と食べ物を狙っているのかもしれない。



「あいつ、太り過ぎじゃね?」



 オレは母猫のことを言った。ら、めっちゃ返り討ちにあった。



「女性に太ってるとか、失礼!」


「宗哲クン、母親はね、おっぱい出さなきゃダメなの」



 ねぎまから「おっぱい」いただきました。



「はい」


「太るのは仕事だからね」


「野良ちゃんの厳しい世界で生きてるんだもん。あのお母さんはやり手だよ」


「おっしゃる通りです」



 女子の結束、怖っ。

 ミナト先生は冷静に分析。



「魚を取ってるわけじゃなさそう。

 隣の工場の人らから、

 食べ物もらってるかもね。

 人に慣れてるじゃん」



 確かに。


 広場には京を含めた8人のガキんちょもいた。食べているのはバーガー。近くには京の両親と祖父母がいた。ご挨拶。めちゃくちゃお礼を言われた。あまりに頭を下げられるので、退散。



「宗哲ニキ」



 京がオレたちのところへ走って来た。



「おう。がんばれ」



 見れないかもだけど。



「きらきらが飛んでる。

 なんかした?」



 そっか。京には見えるのか。



「この辺? 温室のじゃね?」



 オレはとぼけようとした。



「エレベーターから降りてきたおじさんら、少しきらきらつけてた」



 それって、会議室から来た人ってこと?

 会議室はホールの上。オレたちは用心して階段を使ったが、普通はエレベータを使う。



「そ?」



 エアコンの設定を30℃にしてドアを閉めたまま。



「なんか、換気してるとか暑いとか言ってた」



 それを聞いて、オレは京に、自分たちが会議室に施したことを話した。と、京は「手伝う」とオレの服の端を引っ張る。



「京、発表に専念しろって。がんばれ」



 エールを送ったのに、京はそれをスルー。オレではなく、ももしお×ねぎまに訴える。



「オレも生レンレンみたいになる!」



 それを聞くと、ももしおとねぎまは顔を見合わせて、無言でくすッと笑い、首をこてっと傾けた。



「京くん、手伝うよ♡ お姉さんと一緒に行こう。いざ、禁断の熱い世界へ」


「宗哲クン、ミナト君、すぐ行くから、先によろしくね」



 ももしお×ねぎまは、京を真ん中にして手を繋ぎ、どこかへ拉致った。



「生レンレンになるって?」



 どゆこと?



「ももしおちゃんとねぎまちゃんみたいに、カビのテープとカイロ、服の下に仕込むんじゃね?」



 ミナト師匠が教えてくれた。



「え? あの2人、そんなんしてんの?」


「たぶん。オレのスマホ、ぜんぜん着信音しない。

 それに、2人とも汗かいてた」



 ええーーっっ。だから、ねぎま、雰囲気違って見えたのか。ん? ってことは、ねぎまって、シャワーの後とか、あんな感じ? うっわー。そーゆーシチュエーション、なってみてー。


 ミナトはポケットからスマホを取り出した。歩き出す。オレもミナトと並んで一緒にスマホ画面を見ていた。ネットへの接続を試みている画面が続く。3メートルくらい進むとネットに繋がった。ぶぶーっとスマホが振動し、メッセージが一気に届く。



「すげ。効果バッチリ」



 ももしお×ねぎまが、きらきらの麦色の胞子を纏っていたことは大きいようだ。



「あ、宗哲からのメッセージ」


「え、オレ?」


「『会議室に行く』って」


「あ、送ったわ」



 届いてなかったのか。会議室で会えたけどさ。

 歩きながら向かっているのは「工事中」のガードフェンス。




 罪悪感に足が止まった。それはミナトも同じ。

 ももしおは柵を軽く飛び越えた。ねぎまは柵のない部分をすっと通った。2人は一体どこへ躊躇というものを忘れてきたんだろう。母親のお腹の中? 遺伝子レベルで持ち合わせてなかったんじゃないか?


 誰も見ていない隙に「工事中」のガードフェンスに身を隠す。休みと分かっていても、温室と工場に人がいないことを確認。

 柵を越えたらOUT。不法侵入。

 頭の中でファンファンと継承が鳴る。心の奥でモラルを塗り潰すために目をぎゅっと瞑った。呼吸。

 よし。

 柵を乗り越える。制御装置の箱のところへ行く。温室へ繋がる配管と並ぶ予備の配管。これだ。行き先のない予備の配管には鎖つきの蓋がはまっている。



「この下へ、あれ持ってこよ」



 ミナトに言いながら、雨樋もどきが置いてあるところへ進む。羽を休めていたウミネコが飛び立つ。



「宗哲、持ってくのはいーけどさ、どーやって固定する? なるべく高い方がよくね?」



 そうだ。雨樋もどきを配管の位置に合わせて置くだけじゃ、水は逆流してしまう。



 !


「いーのある」



 オレは、リュックの中からゴミを取り出した。捨て忘れてヨカッタ。カビのテープから剥がした紙と透明のセロハン。買ったときのシールがくっついているようなツルツルした紙は丈夫そう。それを紐として使える。ミナトとオレは、雨樋もどきを制御装置の箱にぶら下げるようにしてくくりつけた。海側に向かって排水が流れるように。

 もう1枚は、1枚目の雨樋もどきに10センチだけ重なるように置き、縦に並べてみた。それで十分。海に近い、高さのある部分まで到達。

 

 気づけば子供たちの声が止み、ウミネコだけが鳴いていた。

 

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