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第五話 焼き肉

 

「うまーい!」



 焚火を囲み、手頃な岩に腰かけ、骨付き肉を掲げ、私は叫び声を上げる。


 私は、満面の笑みを浮かべながら巨大な肉の塊にかぶりつき、せわしなく口に運ぶ。



「凄い食べっぷりですね」


「あの小さな身体のどこに、あれだけの肉が入るんだ?」


「血肉を食らって糧にするんだ、肉サイコー!」



 冒険者であるジムとネモを助ける為に倒した、魔獣ビッグベア。


 せっかく手に入れた貴重な素材なのだが、獣人である私からしてみればただの食材である。


 そう言う訳で、私たちは先ほどまで居た小川までビッグベアの亡骸を運ぶと、さっそく解体し焼き肉パーティーだ。


 ちなみに亡骸であるビッグベアの巨体を運んだのは、リバティである。


 巨大なビッグベアの亡骸をリバティは一人で肩に担ぎ上げ、小川で解体し、今私の為に肉をガンガン焼いている。


 ビッグベアを一人で担いだ事にジムとネモは驚いたが、私は剣すら弾く毛皮を素手で斬り裂き、解体する技に驚いた。


 本人曰く。



『この方が慣れてるし、剣やナイフより切れる』



 と言って、手を手刀の形にして見せた。


 ともあれ本来であれば、高級焼き肉店に行っても食べられない、超高級食材である。


 それを片っ端から食べまくるのだから、ジムとネモは若干引き気味であった。



「ところであんた達、見たところまだ駆け出しの冒険者でしょ」



 肉を頬張りながら、私は今更ながらジムとネモの二人に尋ねる。



「あ、はい、Gランク冒険者です」


「Gランクでアレを相手しようってのは無謀ってもんでしょ」



 そう言って私が親指でクイッっと指差したのは、ビッグベアの亡骸である。


 今は、リバティに解体され毛皮だけの状態になっている。



「ち、違いますよ、元々は薬草を採りに来たんですけど、あの魔獣に遭遇しちゃって」


「ギルドで危険な場所は公表してるはずでしょ」



 冒険者ギルドでは、その地域のモンスターの生息図と言うモノを公開している。


 この街道には、この魔獣が、この平原には、この魔獣がと言った感じで。


 未開の地ならばともかく、街から近い森で出現する魔獣を把握していないとは思えなかったが。



「冒険者ギルドでも、街に近い森の中にあんなヤバイ魔獣がいるなんて情報無かったっスよ」


「この辺りで出る魔獣なんて、コボルトや巨大グモとかですよ」


「う~ん、それじゃどこからか移動してきた流れかな?」



 ネモとジムの疑問に私は、肉を頬張りながら特に考えず答える。


 すると、先ほどから黙って肉を焼いて、私に渡していたリバティが声をかけてきた。



「・・・シャオ」


「っん、なに?」


「さっきから言っている冒険者とは、何の事なんだ?」


「えっ?! リバティ、冒険者を知らないの!?」



 リバティほどの技量のある者なら、当然冒険者であると思っていた。



「今まで山の中で生活していたからな、世間の事を余り知らないんだ」


「そうなの!? えぇっと、冒険者ってのは・・・」



 そう言いながら、私はリバティに説明する。


 冒険者。


 それは、主に魔獣を依頼で討伐しお金を稼ぐ者達。


 ダンジョンを探索して、お宝を探し出す者達。


 または、生活上のトラブルを引き受ける者達の通称であり。


 冒険者ギルドとは、そのような者達の職業安定所ともいうべき場所である。


 ギルドに登録すると、ギルドカードと呼ばれる認識票を貰う事が出来る。


 これは身分証もかねており、様々な場所で身元の照合に使われていた。


 冒険者には、下から順にG・F・E・D・C・B・A・Sとランクがある。


 これは、冒険者としての実力を現しており、受けられる依頼もランクで分けられている。



 G・Fランクは、駆け出しや新人。


 E・Dランクで一人前から中堅。


 Cランクでベテランと呼ばれ。


 Bランクでトップクラス。


 Aランクは、それぞれの国に数人しかいない存在であり。


 Sランクは、世界で数えるほどしかいない。



 ランクを上げるには依頼達成や、魔獣などの素材の買取で貰えるポイントを貯める事で上げる事が出来る。


 一般的に、長く冒険者をしていればDランクまでは上がれると言われている。


 それは、冒険者ランクがある程度ポイント制なのも、その要因であった。


 早い話、薬草採取や、低ランクの魔獣を狩ってもポイントが貯まればランクは上がるのである。


 だが、高額な依頼ともなると、仕事内容の危険度が跳ね上がる。


 採取や雑魚狩りだけで上がってきた冒険者には、ハッキリ言って手に余る仕事だ。


 そこでギルドは、DランクからCランクへのランクアップには、必要な能力を設けていた。


 戦闘能力である。


 もちろん、それだけでは戦闘能力の低い職種のレンジャーや、シスターなどの非戦闘職の者のランクアップが出来ない。


 そこで大半の冒険者は、パーティーを組み、チームとしての評価としてランクアップを目指すのである。


 なので、DランクからCランクへのランクアップは、冒険者たちにとって壁とも言われている。



「・・・って、とこかな」


「なるほど」


「僕とネモは、Gランクなので駆け出しですね」


「この薬草を冒険者ギルドに持って行けば、依頼達成でポイントが貯まってFランクに上がれるっス」



 そう言ってネモは、薬草でパンパンになった袋を叩く。


 もっとも、私は、冒険者ランクと言うモノを余り信用していない。


 所詮は、人が決めた基準である。


 それに冒険者でなくても強い者はいるだろう。


 騎士団や、魔法師団などの隊長クラスなどが代表的な強い者たちだ。


 現に、隠れた実力者であるリバティが目の前に居る。



「あの、シャオさんも、冒険者なんですよね?」


「一応、冒険者登録はしてあるわよ」



 残り少なくなってきた骨付き肉をかじりながら、ジムの質問に返事をする。


 村で生活をしていた頃は、冒険者登録をして生活費稼ぎと修行を兼ねて魔獣狩りをしていた。



「冒険者ランク、いくつなんスか?」



 ネモが興味津々といった感じで話しかける。



「ん~、なに見たいの?」



 そう言いながら私は、ギルドカードを取り出し三人に見せる。



「えぇっ?! これって!」


「うおぉぉー!! すげぇ!!」



 ジムとネモが驚きの声を上げた。


 ギルドカードには、私の名前と共に、冒険者としてベテランである『Cランク』のマークが描かれていた。



「Cランク冒険者じゃないっスか」


「そんなに凄い事なのか?」


「何言ってんスか! Cランクっスよ、Cランク!」



 その凄さがイマイチ分からないリバティに、ネモが興奮気味に、ギルドが認めたベテランであると説明する。


 Gランク冒険者のジムとネモにとって、Cランクの私は雲の上の存在である。


 二人は、驚きを通り越して尊敬の眼差しで私とギルドカードを見比べていた。


 もっとも、冒険者ランクを見て、一喜一憂している二人には悪いが、正直な所ランクに興味は無い。


 冒険者として名を上げようとは思ってはいない。


 私にとっては、あくまでも飯のタネとして活動しているだけ。


 修行と実益を兼ねた、割の良い仕事と割り切っている。


 まぁ、こうやって、凄い凄いと言われるのも悪い気はしないけどね。



「次に、魔獣の脅威度ってのは・・・」



 魔獣の脅威度も下から順にG・F・E・D・C・B・A・Sとランク分けされている。


 ランクが上がるに連れて村・町・大都市・国への脅威とみなされている。


 ランクが上がればそれだけ脅威度が高い反面、討伐した際には冒険者としてのポイントは高く、素材なども高額になる。


 ただし、この基準はかなりあいまいであり、地域によってはランクが上下したり、数によっても脅威度が変化する。


 有名な所では、脅威度Gのコボルトやゴブリン、スケルトンなどであろう。


 単体なら一般人でも何とか撃退可能だが、これが群れともなると数によっては脅威度が跳ね上がっていく。


 数の脅威とは、馬鹿にならないのである。


 逆に脅威度AランクやSランクとは、単体でも高い脅威度であり 国の危機とも言える魔獣である。



「・・・っとまぁ、簡単に説明したけど、冒険者ランクも、魔獣の脅威度も、あくまでも目安って感じね」



 私は説明を終えると、食べ終わった骨をポイッと投げ捨てる。


 そこにはビッグベアの骨が山積みにされていた。


 その骨の山を見ながら、リバティが訪ねる。



「あの魔獣の脅威度は、ランクいくつなんだい?」


「ビッグベアの脅威度はCランクです」


「あの程度の魔獣で脅威度Cランクって、随分と基準が甘くない?」



 そう言いながら私は、新たな肉の塊を頬張る。


 私にしてみれば、脅威度Cランクの魔獣ビッグベアもあの程度扱いである。



「一応言っておきますけど、この辺りで脅威度Cランクの魔獣が出たなんて話、ここ何年も聞いた事無いっスからね」



 ネモが呆れ顔で補足する。


 私にとってはただの食材に過ぎないビッグベアだが、その存在は世間一般では大事件である。


 その辺りの認識の違いは、獣人と人間の差なのか。


 または、地域差なのか。



「さてと、それじゃ食事も終わった事だし、二人には街まで案内してもらおうか」



 そう言って、最後の骨付き肉を食べ終えた私は、油まみれになった手を舐めながら立ち上がった。



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