第二十五話 VS謎の女
「最初に言っておくが、俺はただの格闘家だぞ」
「それは、私の目で確かめよう」
「・・・いいだろう、相手になろう」
そして、リバティが構え、ポニーテールの女が棍を構える。
次の瞬間、私の目には一瞬、両者の空間が歪んだように見えた。
なに? この二人を取り巻く異様な空気は。
獣気、闘気、魔力と言った類のモノではない。
この二人の空間だけ、別次元のようだ。
私は、無言で二人の一挙手一投足を見据える。
互いに僅かな筋肉の動きで様子を窺っている。
息苦しい、恐ろしいほどの緊張感。
その様子を固唾を飲んで見守る。
どう・・・仕掛ける・・・先手を打つのは・・・どっち?
ポニーテールの女が動いた。
と言っても、それを常人は、認識は出来なかっただろう。
ヒュッ!
ポニーテールの女の握った棍が、恐るべき速さの突きでリバティの顔面を襲った。
リバティは、瞬きもせずに迫る棍を目で追い、わずかに首を振り避ける。
普通の人間なら、かすかに風を切る音を聞いた直後に、棍で貫かれて死ぬ一撃だっただろう。
は、速い!
今の私は、獣気で動体視力と反応速度が上がっているから見えたけど、リバティは素で今の突きを避けて見せた。
今の動きだけで、両者の実力が、ハイレベルなモノであると認識させられる。
「今の突き、よく避けたな」
「師匠の教えでね、攻撃は受けずに避けろと言われているんだ」
「ほう、ならこれは避けられるかな?」
ポニーテールの女が、棍を身体の左右で回転させ始めた。
ブン! ブン! ブン!
そして、棍がまるで鞭のようにしなり、縦横無尽にリバティを襲う。
ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ!
一撃でもまともに食らえば、骨折は免れないだろう。
その攻撃を最小の動きで避ける。
ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!
リバティの足元は、棍によって瞬く間に砕かれていく。
ポニーテールの女の攻撃は、闇雲な攻撃ではない。
巧みに棍を操り、リバティを壁際へと追い込む。
壁を背にしたリバティに向かって、ポニーテールの女は、棍を突き出した。
シュバババババババババババッ!!
矢継ぎ早に突きを放つ。
私の目に、無数の棍が映る。
その無数の突きを、リバティは紙一重で避け続ける。
ドカカカカカカカカカカカカッ!!
壁に無数の穴が開いていく。
ほんの僅か、棍の突くスピードが落ちた。
リバティは、その隙を見逃さずに壁際から離脱する。
それを追うように、棍がリバティの胸元に迫る。
しなりながら襲い掛かる棍を、リバティは胸を反らして避けると、両手を地面に付き、バク天をして距離を取る。
この女・・・ハンパじゃない。
予想以上の相手だ。
今の猛攻を避けきったリバティも凄いが、いかんせんあのリーチの差は、絶対的に不利だ。
今の私に、獣気を飛ばす技があるとはいえ・・・こいつを相手にするのは・・・。
まして、リバティは獣気や闘気と言った『気』を使う事ができないと言っていた・・・どうする?
「良い動きだ、では、こういうのはどうかな?」
ポニーテールの女が、棍を再び回転させ始める。
ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
風を切る音が鳴り響き、その風圧によって、先程砕かれた歩道が砂煙の煙幕となってリバティの視界を塞ぐ。
マズい、視界を遮られると、あの棍を避けるのは難しくなる。
するとポニーテールの女は、地面に棍を突くと身体を浮かせて飛び、リバティの頭上に跳躍していた。
私は、傍から見ていたから分かるが、リバティからしたら完全な死角、目の前から消えたように見えたはずだ。
ポニーテールの女が、リバティの頭上から、頭頂部に狙いを定める。
縦の間合い!? ヤバイ!
「上だっ! リバティ!」
私が声を上げたのと、棍が突き落とされたのは、ほぼ同時だった。
バゴッ!
雷の如く空を切り裂き、リバティの黒い髪が数本切り飛ばされて宙を舞い、棍が地面に突き刺さる。
私の声に反応したのか、それとも彼自身の驚異的な反射神経からか、リバティは、ほんの僅か身を引いて天空からの一撃を避けていた。
もし避けていなければ、頭から串刺しになっていただろう。
しかし、ピンチは一瞬でチャンスに変わった。
ポニーテールの女が、空中で体勢を崩す。
空中では、自由に身体を動かす事は出来ない。
すでにリバティは、拳を振り上げる迎撃体勢に入っている。
だが、ポニーテールの女は、空中で身体を捻ると、棍を一回転させてリバティの頭部へ振り下ろした。
リバティは迎撃を止め、振り下ろされた棍をサイドステップで避ける。
ガゴンッ!
叩きつけられた棍が地面を砕いた。
ポニーテールの女がそのまま着地すると、屈んだ状態のまま棍を横薙ぎに振る。
狙いは、リバティの足だ。
食らえば足の骨が砕ける。
っが、その攻撃を読んでいたのか、横薙ぎの棍を飛び越え、今度はリバティがポニーテールの女の頭上に跳躍していた。
「間合いに入った! 行け! リバティ!」
思わず声を上げる私。
リバティの拳が、ポニーテールの女へと落とされる。
女は、棍を素早くかざして、リバティの拳を防ぐ。
ゴッ!
女の棍が、かろうじてその一撃を受け止めたかに見えた・・・が。
「・・・!?」
今まで感情を表に出さなかったポニーテールの女が、一瞬の動揺を見せた。
メキィッ!
女の持つ棍が異様に歪み。
ベキィッ!!!
そして折れた。
ポニーテールの女は、棍が折れると同時に、後方へと飛び退く。
リバティの拳は、そのまま空を切る。
「よっしゃー! 武器を破壊した、これで射程距離は稼げない!」
私は拳を握り、ガッツポーズをとる。
勝負を決めるなら、ここだけど・・・。
だが、リバティは追撃しなかった。
真っ二つに折れて短くなった棍を手に持ったポニーテールの女に、リバティが訊ねる。
「どうする、まだ続けるかい?」
「・・・・・・・・・いや、止めておこう」
そう言うと、ポニーテールの女は、構えを解いた。
「今日は様子見だけのつもりだったのでね、これ以上やると本気になりそうだ」
そう言うのは、負け惜しみって言うんじゃないの?
彼女は武器を失っていた。
あのまま攻めればリバティの勝ちだったはずだ。
「それで、きみは何者なんだい? なぜ俺の力を試すような真似を?」
おっ、いいぞリバティ、よく聞いてくれた。
「・・・・・・私の名はライラ、今は、これ以上言えないわね」
そう言うと、ライラと名乗った女は、私たちに背を向ける。
「近いうちに、また会いましょう」
そう言い残し、闇の中へと歩いていく。
「ちょっ、話はまだ」
私は、彼女の後を追おうと駆け出そうとするが。
「シャオ、追わなくていい」
リバティによって呼び止められた。
私は足を止め、リバティと去っていく女を交互に見る。
去りゆく女の足音が闇の中へと消えていった。
女の背中を見送った私は、ため息をつく。
「リバティ、何で見逃したのよ」
「彼女が言っていたろ、ただ力を試されただけだ・・・それに」
「それに?」
「彼女、実力の半分も出していなかった、手加減していたよ」
まさか!?
あれほどの猛攻が、手を抜いた攻撃だったって言うの。
「何者だったのかしら? リバティ心当たりある?」
「いや、シャオは?」
「無いわね」
まぁ、あるとしたら例の『秘密結社』絡みだけど、それっぽくなかったし。
「そんなに気になるなら、次に会った時に聞いてみれば良い、近いうちにまた会えるみたいだからな」
そう言うと、リバティは歩き始める。
「さぁ、引き上げよう、この状況を人に見られたら、また捕まってしまうぞ」
リバティの言葉に、いつの間にか辺り一帯を覆っていた重苦しい空気が消え、街に喧騒が戻っている事に気が付いた。
確かに、こんな所を見られたら、また衛兵に捕まるわ。
私は、リバティの後を追うように歩き出す。
しかし。
チラリと、先程までリバティとライラが戦っていた場所を見る。
その一角だけ、破砕作業でもしたのかと見間違うほど、歩道は粉々に砕かれ、壁には無数の穴が開いている。
しかも、ほんの僅かな時間でこれ程の破壊活動をしたと言うのに、戦り合った二人は、無傷と言うのだから呆れるしかない。
まぁ、なんにせよ、楽しみが増えた。
次に会った時は、私が戦る。
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