死んでも進む
「お久しぶり――いえ、初めまして。お父様」
死んだはずの人間に自然と話しかけたのは、長い茶髪に藤の花のような美しい紫色の瞳を持った、可愛らしい少女がいた。
ぱっと見ればそこらの小学生のような面影をしているが、話している言葉は大人かと思わせるほどはきはきとしていた。
「えっと・・・どちら様ですか?」
「私ですよ。ヴィークですよ。お父様」
「ヴィーク??お父様???」
向井はヴィークという名前も、自分をお父さんと呼ぶこの子供についても、皆目見当つかなかった。
だが、なぜかはわからないがこの少女のことをどうしても赤の他人とは思えなかった。
「あの・・・すみません、ちょっとよくわかんないです・・・」
「えっ」
「てゆうか、俺死んだんですよね?お父さんって俺のことですか??」
「えっっ」
「正直なにがなんだかわかんなくて・・・」
「えっっっ」
「でもなんか・・・ちょっと気持ち悪いんですけど他人とは思えなくて・・・」
「あぁ・・・」
少女は顔をわかりやすくしかめて、ため息を一つ吐くと
「『お二人さん、後世の種族は何ですか?』のヴィークっていえばわかりますか?」
と言った。
「えっ・・・なんでそれ知ってるの・・・?」
『お二人さん、後世の種族は何ですか?』は向井が1年ほど前から、とある小説サイトで趣味で作っていた小説だ。
ストーリーは、幼馴染であり親友でもある男2人がある日、交通事故で2人同時に死んでしまう。
そしてお約束の異世界転生を迎えることになるのだが、転生をする前に異世界の女神様がなにに生まれ変わるかを聞く。
その結果、価値観の違いからか2人の男の内、1人は人間に、もう1人は人型の魔物に転生することを決める。
女神様は2人にいつでも電話のように話すことができる『念話の祝福』を授けて転生させる。
2人は互いに念話をしながら、互いの文化を知り、生活していく。
途中さまざまな事件が起こり、最終的には人間と魔物の間に戦争が起き、2人の間にも亀裂が入るが、2人は仲直りして戦争終幕と種族の差別問題に協力して立ち向かっていく――――というものである。
「てか、ヴィークって・・・まさかっっ!?あの!!??」
そしてこの小説で登場する女神様が――
「はい、ヴィークです。貴方によって作られた異世界転生の女神です。お父様」
――自分の作った創作物が意思を持ってそこに立っていた。
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「俺、死なないで変な夢でも見てんのかな・・・」
「いや、ちゃんと死んでますし、私も本物ですよ。お父様」
「・・・それで、ヴィークは俺を異世界転生させるためにここにきたのか?」
そういうと、彼女はいままで仏頂面だった顔を悲しそうに笑って、
「いえ・・・私はまだ異世界転生の神様ではありません」
そう答えた。
「まだ?」
向井が疑問を浮かべると、ヴィークはその疑問について淡々と語り始めた。
「お父様は『言霊』というものを知っていますか?」
「言霊・・・言葉にはなんか力がある・・・みたいな??」
「そう、それです」
言霊とは、言葉に宿っている不思議な力のことで、古代の日本で信じられていたものである。
言葉には霊力が宿られており、人がいいことを言ったらいいことが、悪いことを言ったら悪いことが起きるとされている。
受験の時の『落ちる』『滑る』や、結婚式での『離れる』『終わる』などの忌み言葉も、この言霊の文化である。
「不思議だと感じたことはありませんか?言葉をかけることだけで人を励ましたり、喜ばせたり、いじめたり、陥れることができるのを――」
「先導者は言葉だけで多くの人間を動かす、賢い人の説明を聞いただけで賢くなったと感じる、それらも言霊の力によるものです」
「そして――神を作る力も言霊を持っています」
向井がそれを聞いたとき、『納得』と『疑問』が頭を巡った。
言葉に力があるというのは間違いない。
神を作れるというのも嘘ではないだろう。
でもそれだとおかしいことがある。
「・・・オーケー。言霊がとてつもない力があることはわかった。ヴィークも本物っぽいしな・・・。でもさ、わかんないことがあるんだ」
ヴィークは彼の小説の中で間違いなく異世界、および異世界転生の神様として書いた。
もし言霊に神を作る力があるのなら彼女は間違いなく異世界転生の神様としているはずなのである。
「さっき言ったまだっていうのはどういうことなんだ?」
「・・・・・・」
彼女は困り顔で少し渋りながらこう言った。
「簡単に言うと、異世界転生の神様が増えすぎたんです」
「え?」
「先ほど、言葉には神を生み出す力があるといいましたよね?」
「うん」
「昔から人々は神を生み出してきました。ですがそれらは戦火や政治などの理由で増えたり消えたりしていました」
「うん・・・」
「なので、『日本には八百万の神がいる』と言われてますが、そんなに神様の数はそんなに変わってません」
「うんうん」
「ですが、インターネットの開発によってそれは変わりました」
「うん?」
「さまざまな情報が記録され、そして際限なく増えていきました。少数ずつですが神様も増えていきました」
「そして異世界転生ものが流行って、さまざまな異世界転生の神様が生まれました」
「・・・あれ?ならおかしくない?ヴィークはインターネット上の小説が原典の神様でしょ?ならなんでまだなってないのよ??」
「ちょっと落ち着いてください。これから話しますので」
「あっ、すみません・・・」
彼女は一回ため息をつくと続きを話し始めた。
「・・・まあちゃんと話しますと、世界一つ作るには莫大な力がいるんですよ」
「莫大な力?」
「そうです。伊邪那岐命様と伊邪那美命様が天沼矛で日本を作りあげたように、それと同等の力は今の私にはありません」
「なんで?」
「昔と比べて信仰が薄いからですかね・・・。神は信仰が力になるため、今の世の中では信じている人のほうが珍しいですから・・・」
「なるほど・・・」
「そして先ほど言った最近生まれた異世界転生の神様も私と同じような状況です。皆、存在するためと、ちょっとした力を使う程度の力しかもってないです」
「そっか・・・難儀だな・・・」
向井がそういうとヴィークは少し黙ってしまった。
「・・・・・」
そして彼女は何か覚悟を決めた顔をすると、
「あのっ!」
「ん?」
「私といっしょに高天原に来てくれませんか!!?」
「えっ?」
神様がお願いを聞くべき人間に、お願いごとをしてきた。
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「1週間ほどまえに天照大神様が言ったんです、今年の神無月に出雲大社で本当の異世界の神を決めるって!日本中の今までの神様が見ているもとで、私みたいな仮の神様達が最後の1人になるまで戦ってその神様が異世界転生の神様になるって言ってたんです!!私、どうしてもちゃんとした神様になりたいんです!!だからお願いします!私に力を貸してください!!!」
先ほどまで、聞かれたことだけに答えていた、まるでロボットのようだった少女は、滝のように感情を顕わにした。
「えぇ・・・いやっでも、俺人間だし・・・神様同士の戦いなら、何の役にも立たないよ・・・」
「お父様しかいないんです!!お父様がいいんです!!!アドバイザーでもいいので力を貸してください!!!!」
「・・・どうして俺なんだ?」
「・・・・・私は、不安なんです。自分が本当の神になれるかって・・・。だから、行く前にお父様を見て、気持ちの確認をしたかったんです。でもそしたらお父様が死んでしまって・・・・。でも同時にチャンスだと思ったんです。お父様がいてくれたら心強いって思ってしまったんです。それに――」
「――私は、生まれた過程がどうであろうと、お父様が生んでくれた異世界転生の神様です!生まれた意義も果たせないで何が神様ですか!!絶対神様になります、そのために――――」
――――死ぬほど努力します――――
それを聞いたとき彼は、自分の目の前にいる少女が自分の娘だと思えた。
「・・・わかった。君に協力するよ、ヴィーク」
「――ッ!それじゃあ!」
「ただし!!俺にはまだ生きてやりたいことがある。だから、ヴィークが神様になった暁には――――俺を生き返らせてもらう。異世界転生は老衰で死んだ後でいい」
「わかりました!何とかしてみせます!」
「よし、じゃあ行こうか!!」
「はいっ!」
こうして彼らは、自分の願いのために戦いに出ることになった。
――――これは、死んでも人生を歩むための物語――――




