第23話 塔の管理者
遠くに光が見えるので、それを目指し歩いて行く。
「ねぇ、マガリ、管理者ってどんな……人?」
「アタシも会ったこと無くってね。連絡するときはいつも声だけだったから」
怖い人だったり、オーガのような怖い感じだったら? いやだな。
「まあ、なんとなかるっしょ?」
御影さんって脳天気というか……楽観的だ。彼の根拠もない言葉に、なぜか安心する。
しばらく進み……光が漏れているところに辿り着く。そこは別の部屋の入り口だった。警戒しつつ中に入る。
そこは、とても広い空間になっていた。床や壁、全てが銀色に輝いている。幾つもの柱がぼんやり見え、上の部分は暗闇に紛れてどうなっているのか分からない。
足下に目をやると、びっしりと何か水晶なのか鉱物なのか……銀色の結晶のような塊が床を覆っていて、所々山のように盛り上がっていた。
「誰も……いないわね。もっと奥に行ってみよう」
進んでいくと、床にある塊が大きくなっていく。初めは、石ころのような大きさだったけど、次第に私の背丈ほどの高さのものまである。
「どこまで続いてるんだよ……」
御影さんが悪態をつき、結晶の山に手で触れた。すると、そこがぐにゃりと動いたように見えた。
「あれ……それ……」
私は、彼が寄りかかる私の背丈ほどの結晶の山を指差した。そこは……何か生き物の……目があった。とても大きく、瞳は彼の顔くらいありそうだ。
「ん? どうした?」
御影さんが、首をかしげて私を見ている。その横には……今度は口のようなものが見えた。牙のようなものも見える。
「キシャァァァアァァァァ!」
「うぉっ!」
突然、獣の叫び声のような声が響いた。御影さんが腰を抜かして後ろ向きに倒れて叫ぶ。
「竜!?」
あのおとぎ話に出てくる、翼を持ったトカゲのような生き物? しかし、目の前にいるそれは、とても巨大で、威厳があった。トカゲなんてとんでもない。
「……わははははは! 驚いたか?」
ついに全貌を現した銀色のドラゴンが喋った。さっき御影さんが寄りかかったのは頭の部分。体全体だと私が住んでいた家よりもっと、もっと大きい。
ドラゴンが煌めく翼をはためかせるたびに、ブオッという空気を切る音が響き、銀色の粉が宙を舞う。
マガリが私達の前に出て、ドラゴンに話しかけた。
「えっと……はじめま……というのも変ね。アタシはマガリ。何回か話したわね」
「ほう、こんなちっこい奴じゃったか」
「何よ! アンタがおっきすぎるのよ。まぁいいわ、こっちがレェナと御影さん」
彼女は……怖くないのだろうか?
私は、銀色に輝く姿を見上げ、恐る恐る挨拶をした。
「こ、こんにちは……」
御影さんは、目を丸くしてドラゴンを見つめ、固まっている。いつまでもそうしていそうだったので、私はちょんちょんと肘で彼の脇腹を突いた。すると我に戻ったのか、「あ……ども……」と控えめに言った。
「ふむ。ずいぶん別嬪じゃが……ちと若いのう」
「あ、いえ……そんな……。あの、私はレェナといいます。なんてお呼びすれば」
「照れる姿もいいのう。が、ちと若い……」
「あんた、何言ってんのよ」
マガリが呆れ顔で言う。
「レェナ、気にしちゃダメよ」
「うん……あの、お名前を……?」
「儂か? はて、アイツがくれた名は何じゃったか…………そうだ、思い出したぞ。銀華とでも呼んでくれればよい」
「銀華さん……」
「いや、こそばゆいな。銀華でいいぞ」
彼は、私と御影さんを交互に見た。
「ふむ、久しぶりに人間を見るが、そこの男……どこか面影があるのう」
「面影? この世界の人間では……。いや、私は御影と言います。私どもはこの塔に閉じ込められているのです。ですので、出られるようにしてもらえると——」
銀華は大きなあくびをした。
「ふぁああ——ふむ。そのようじゃの。願いを聞いてやらんこともないが……御影と言ったか。これまた中途半端だな……」
銀華は、何かの呪文のようなものを唱えると、御影さんの体から煙湧きだして灰色の狼になった。
「なんだ? 何が起きた?」
頭の中に御影さんの声が響く。念話?
「ふむ。あまり気が進まぬが……。こやつと二人で戦って勝てたら、願いは叶えてやろう。全てはそれからじゃ」
再び銀華が呪文を唱える。すると私達の目の前に……大柄なエルフが現れた。いや……違う。細長い耳をしていて、細身だけど、漆黒の皮膚に真っ白な髪の毛をしている。ユノーナと同じ種族とは思えない。
すると、「ダークエルフ!」と、マガリの金切り声が聞こえた。
「ちょっと銀華! 二人はちゃんと資格があるのに、どういうこと?」
「これはどうしても必要でな——」
のんきに彼らの話を聞いている余裕はなさそうだ。ドラウと呼ばれたそれは私達を睨むと、持っていた杖を振り上げた。
「嘘でしょ!?」
「……レェナ、俺に乗れ!」
私は、頭に響く声に頷くと剣を抜き、御影さんの背中に飛び乗った。灰色の狼は素晴らしい速さで銀色の床を蹴り、駆け出した。
御影は「念話」の能力を獲得した。
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