第3話 何のために
「生まれつきの痣なんだ。でも、それ、俺には小さな魔方陣に見える」
御影さんは、興味深そうに、私の痣を見つめた。
私もそれに視線を落とし、同じようによく見る。すると、痣の色が前より濃くなていることに気付いた。気のせいじゃない……。
色のことも伝えようと思い、彼の顔を見てみると、相変わらず真剣に……舐めるように見ている。って、なんか違うところも見ているような。気のせいかな?
「ちょっと見過ぎ……」
御影さんは照れる様子もなく平然としている。見慣れているのなら、他の人と比べたりするのだろうか。
太くはないと思うけど、胸が大きいわけでもないし……。
穴があくほど見られると、さすがに恥ずかしくなってくる。私はドレスの胸の開いた部分を少し手で隠すようにした。すると、
「ご、ごめん」
彼はそう言って、視線を逸らした。
「どう思った?」
「え? うーん、えーっと。思ったより着痩せするのかなって」
太ってるってことかな? 私はぷい、とそっぽを向く。
「アッ……いや、服を着た時の見た目細すぎというか」
「……もう知らない!」
と、むすっとしてしまう。けど、今はそういう話をしているわけではなかったことを思い出す。
「いや、そうじゃなくて、痣のこと」
「……分からないことが多いけど……なんとなく、それがあることは必ずしも良いことではないのかも」
「うん——」
なんとなく言っている意味が分かる気がした。
彼なりの考えを教えてくれたけど、お母さんが血だらけになったときの思い出やお父さんの行方不明のこととかを考えると、どれも、この痣をなんとかしようとした結果なんじゃないか、そう御影さんは考えているみたいだ。
「そういえば痣の色が濃くなっているような気がする。最初は、御影さんを召喚した翌日。それと今も前より濃くなっている」
「……今日は、色々あったね。関係あるのか分からないけど、レェナさん、城壁外の街に向かおうと言い出したとき、ちょっと不自然な所があったけど、覚えてる?」
「そう……だっけ?」
「そっか……。また濃くなったのに気付いたら、教えて欲しい。何か——」
そう言いかけて、彼は黙ってしまった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。他には、何かある?」
お母さんが話してくれた、おとぎ話のことを伝えた。合わせて、セイランのことも。
すると、彼は話をまとめる、と言って、目を瞑る。そして、
「昔々、召喚され異世界からやってきたイチは、指導者として世界を平和に導き、カーラ村と掟を作りましたとさ……」
私の伝えた話を、本当に短くまとめてしまった。このおとぎ話は真実なのかな。今の状況と違うような。
違和感は、御影さんも感じているみたいだ。セイランは私を指導者だと言った。この痣の持ち主である私だと。
「おとぎ話だと、俺が指導者になるようだけど、そうでないのなら、何のために来たのか……」
そう、御影さんがつぶやいた。
私を守るため、じゃ不十分なのかな? 満足しないのかな、そう思うと少し寂しい気持ちになる。
危ないところを何度も、助けてくれた。一緒に父を探してくれている。多分だけど、誓約だけが理由じゃなくて……私と一緒にいようとしてくれる。
それだけで、十分だよ。
そんなことを思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「アルベール殿下が、一緒に食事でもいかがですか、と仰っております。準備もできておりますので、お二人ともこちらへ」
そう、士官の女性が言った。
「拒否権はないと言うことか……殿下?」
御影さんがぼそっと言った。そういうものなのだろうか。
ユーユやユノーナと一緒がいいのにな。
「先ほどは、本当に失礼しました。謝罪を受け入れてくださり、ありがとうございます」
そう、アルが言った。席に着くなり、彼はアルベールだと長いでしょ、と、アルと呼んでくれと言ってくれたので、遠慮なくそうすることにした。セアラさんも、セアラでいいよと言ってくれる。
うーん。でも、なんとなくアルもセアラも、ただの騎士じゃないような気がするんだけど。
今は、私と御影さん、そしてユノーナ、アルとセアラの五人で一緒に食事をしている。
ユーユ達は別で、食事をしているらしい。だとしたら、なぜユノーナがいるのか。
「まずは、情報交換をしましょう」
アルがそう、提案をした。
聞きたいことはいくつかある。悩んでいると、御影さんが口を開いた。
「私たちはカーラ村の一介の村人ですが、あなた方は、普通の騎士のようには思えないところがあります。そこはいかがでしょう?」
「では、改めて、私はアルベール・ルイズ・エンドアラ。王国の第二王子です」




