↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/70

第26話 塔の光

 狼(御影さん)に騎乗して騎士と思われる二人を追いかける。だけど、ここに向かったときより足が遅い。次第に、二人の姿が遠くなっていた。


 王都の方を見ると、壁の上に白い塔が一つ見えた。天高くそびえる、白い柱。その上に、巨大な魔法陣がいくつか、空中に浮かび始めている。


 魔法陣の模様は、さすがに遠くてよく見えない。カーラ村の防衛機構(ジャダ・マナラ)を思い出す。白い塔の上に輝く光の塊が発生していて、その塊が次第に大きくなっている。


「あれは……」


 空中に描かれていた魔方陣が全て消え、光の塊が動き出す。同じタイミングで、御影さんが足を止め、その行き先を見るように方向転換をした。

 私も光の塊を目で追っていた。それは、とても早いスピードで移動して、あっという間にオーガの集団がいた辺りに落ちた。建物が邪魔で見えないけど、恐らく。


 キィィィイイ。


 遅れて、耳をつんざくかん高い音が聞こえてきた。

 建物の隙間から、光の塊が落ちた辺りの様子が見えた。かなり遠くに地面を這うように煙が広がっている。そして上の方にも煙が登り始めている。暑い時期の雲のように、煙は不気味な形に成長しながら、空に向かって伸びていく。


「御影さん、王都に向かおう!」


 そう言ったのだけど、狼から煙が出てきて——彼が化身を解いてしまった。すぐに人の姿になって、喋り始める。


「あれは……まずい。きのこ雲なんて、あんな物もこの世界にもあるのか……」

「御影さん、何? きの……?」


 御影さんは私の声に答えず、きょろきょろと辺りを見渡した。小さな神殿のような建物を見つけると、じっとそれを見つめているようだ。額が少し、汗に濡れていて、顔色も悪くなっている。


「レェナ、あの建物の中に」

「ね、どうしたの? 大丈夫?」


 もう一度聞いてみたけど、御影さんは返事をしてくれない。そればかりか、私の手を強く握り、有無を言わさずに走り出した。


「御影さん、痛い!」


 手を強く握られた。私のことを気にして欲しくて、抗議するつもりで言った。でも、やっぱり私の声は届かない。相当焦っているみたいだ。きっと理由がある。私は手を引かれたまま走る事にした。


「よかった、入れそうだ」


 神殿の前で立ち止まった。カーラ村の神殿と少し似ている。規模は随分小さいみたいだし信仰の対象を示す記号も少し違う。

 建物に入った瞬間、外からドーンという、まるで雷でも落ちたような音が聞こえてきた。神殿の中、席が並ぶ広い空間から、隣の小さな部屋に入ると、御影さんが言った。


「窓から離れている、ここがいいかな。レェナ、ここに座ろう」

「…………うん」


 私を半ば無理矢理座らせると、後ろから包み込むように後ろから抱き締められた。伝わってくる振動で、彼が少し震えているのが分かった。


「ほんとに、どうしたの?」


 笑顔を取り繕い、振り向いて話しかける。その瞬間、


 ゴォォォォオ……。


 外から、地を這うような低い轟音が聞こえてきた。窓から入ってきていた太陽の光が弱まっていき、薄暗くなる。バタバタと窓ガラスが揺れていた。窓の外を見ると砂埃が舞っている。太陽の光を遮るほどに。


 キィィィイイイイイイン!


 また、さっきの音が聞こえた。随分音が大きい。しばらくじっとしていると、ドーンという音、そしてゴォォォォという風の音が順に聞こえた。それぞれ、間隔が短くなっている。

 外の様子はもう灰色の埃なのか、煙なのか分からないものに覆われ、何も見えない。

 追い打ちをかけるように地面が揺れ始めた。部屋の中の棚やタンスが倒れていき、騒がしい音がする。ドンと大きなものが落ちたり、ガシャーンとガラスが割れる音が続く。


「レェナさん、怖い?」

「怖い。でも、大丈夫」


 御影さんが、やっと私のことを気にしてくれた。今は、彼の震えが収まっている。背中から伝わる御影さんの体温が、私の気持ちを落ち着かせてくれる。


「肩の怪我は大丈夫?」

「ちょっと痛い」


 そういえば、肩が痛むことを今さら思い出した。腫れてきているのか熱を感じる。触れて癒やそうとも思ったけど、あの力はもう使い切っていた。


「買っておいて良かった」


 御影さんは携行している鞄から、ポーションを取り出すと私に飲ませてくれた。もらったポーションを飲んで傷が癒えていくのが分かる。


「ありがとう」

「こんな状況だけど、生きていられたら、王都に向かおう」

「え? 生きていられたら?」

「あの遠くに見えたものは、きのこ雲と言って、とても大きなエネルギーが発生して爆発したときに現れる。俺がいた世界では、あれ一つで多くの……とても多くの命が奪われた。実物を見たのは初めてだけど……この辺りで外にいたら危なかった」

「御影さんは怖くないの?」

「さっきは怖かったけど、今は平気かな。多分、レェナさんと一緒だから」


 どういう意味なんだろう?


「あの時、ユーユ達と逃げても良かったはずなのに、どうして私のワガママにつきあってくれたの? 誓約(ウケイ)のせい?」

「それもあるけど、多分、レェナさんと同じ気持ちだったからかな。俺が住んでいた国は災害が多くてね、俺が住んでいたところが、被害を受けたとき、手を差し伸べてくれた人たちがいたんだ」

「サイガイ?」

「うん。地震(ジシン)に台風(タイフウ)に水害に……俺が住んでいた国はしょっちゅう、そういう災害に襲われていた。そのことを、思い出した。災害とは違うと思うけど、助けられそうな命があれば、助けたいと思う」


 ジシンとかタイフウというのは何だろう? 水害は分かるけど、それらも災害の一つなのかな。


「それに、君の様子が変だった。何か急に使命感に燃えるような、そんな違和感があった。どうしたの?」

「え? 多分必死だっただけだよ」

「そんなに必死になったのは……。 俺の思い過ごしかな?」

「うん、きっとそう」

「だといいけど……」


 巻き込む形になって、今だって危険な状態になってしまっているのは、良くない事だと思う。このままじゃ、いつか……。私は、悪い予感を首を振って打ち消した。


 一旦風が止まった後、再び風が吹き始めた。ごぉごぉと音がする。


「少し休もう。今は、身動きなんかできやしないし、君の事は俺が守る」


 御影さんの言葉に従って、私は、ぎゅっと胸に回された腕を抱き締め、目を閉じた。この状況が落ち着くまで……じっとして……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=oncont_access.php?citi_cont_id=122268010&sツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。