第1話 誕生日のプレゼント
質問の答えを彼が考えている間、どうしてこんなことになったのか、私は今日の朝からのことを思い出していた。
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今日は、私の16歳の誕生日。お母さんの姉である伯母さんが、成人になった今日という日を祝ってくれる。
「レェナ。誕生日おめでとう!」
「ありがとう! わぁーー!!」
ここは、いつも寝泊まりしている伯母さんの家。気合を入れて準備したという昼食をいただく。
緑がみずみずしい季節のサラダに、白いスープに赤い人参やじゃがいもが浮かぶシチューに、こんがり焼けた鳥の丸焼きに、柔らかそうな美味しいパン。そして果物のデザート。とても豪華で、私の好きなものばかり。
「いただきます!」
私はいつものように、勢いよくサラダの入った皿を手に取り、パンを片手に食べ始めた。もぐもぐと、次々に頬張る。
「たーんとお食べ……。あのね……今日で成人になったのだし、もうちょっとお淑やかになれないものかね」
伯母さんは、溜息交じりにそう言うけど、私の食欲はどうにも止まらない。こんな美味しそうな食べ物を目の前にして、自分を抑えるなんて無理だ。
「それにしても、お父さんはまだ帰ってこないのかい?」
「……うん」
「そうかい。寂しく——」
「でもね、伯母さんがいてくれるから大丈夫!」
私は少し食い気味に、伯母さんの言葉を遮った。せっかくのご馳走が不味くなるのは嫌だし、こんな話はとっとと終わらせないと。
「そういうもんかねえ。これプレゼント」
「かわいい! 欲しいと思っていたんだ。ありがとう」
伯母さんは、木製の髪留めを私に見せてくれた。端に少し大きめの花をあしらっていて、地の部分も小さな花が連なる可愛らしいデザイン。伯母さんは、私のほうに歩いてきて、髪に付けてくれた。そして優しく、頭をなでてくれる。
「ほら、黒い髪によく似合う。こうやって見ると、ますますお母さんに、そっくりになっていくね」
「みんなそう言うけど、そうなの?」
「うん、ほんとに……とても清楚で」
伯母さんはちょっと涙ぐんだ様子で言った。
「だったら、嬉しいな」
私は、ハーフアップを少しアレンジした髪型にしている。村の人たちが話す、かつてのお母さんの姿に近づくために。
「みんなそう言うよね。殆ど覚えてないけど」
「でも食べっぷりは全然違うね。あなたのお母さんは、とても上品だったのに」
伯母さんの話し方が、しんみりとした口調から、呆れる口調に変わっている。美味しい物は美味しく食べるのが私の主義なんだ。これは変えられない。
「ぶー。ごめんなさいね、残念な感じで」
「レェナらしいと言えば、そうなのかしらねぇ。そこが可愛いとこでもあるのだけど」
「そうそう!」
伯母さんに笑いかける。私の笑顔を向けるとみんな、元気になる。私は、できるたけ笑顔でいたいと思っている。まあ……普通にしていてもニコニコしていると言われるのだけど。
「あんたの笑顔見ると元気出るわね——そういえば誕生日に、貴方のお父さんから、頼まれていたことがあった」
そう言って、伯母さんは一通の封筒を渡してきた。丁寧に赤い蝋で封印され随分と大げさだ。
「父さんから?」
「うん。うふふ、なんだかんだ言って嬉しそうだね」
「え、そんな顔してた?」
「こーんな笑顔」
伯母さんは、私の笑顔の真似をして、楽しそうに笑った。
私、そんなに嬉しそうだったんだ。少し恥ずかしい。
「プ、プレゼントかな?」
「だといいんだけど、多分違うと思うよ。大切な話だと思う。落ち着いて、一人で読みなさいと伝えて欲しいって」
伯母さんの口調が、真面目な物に変わっていた。プレゼントじゃないのなら、いったい何だろう?
一人で手紙を読むために、自宅に帰る事にした。
帰り道を急ぐ。とても、手紙が気になっていた。私の家は、村の少し外れたところにある。
「ただいま」
さっそく、受け取った手紙を読むことにした。
「16歳の誕生日おめでとう!
直接祝いたいが、レェナがこれを読んでいるということは、どうも叶わないらしい。
そこで、これから行って欲しいことを以下に記す。
しっかり読んで手順通りやってくれ——」
帰ってこられないのも理由があるみたいだ。お願いを実行しようと思った。
手順はたった二つ。
・父の部屋にあるという隠し扉の中に入る。
・次に、魔法の巻物を読み、魔法を発動させる。
隠し扉? まだ続きがあったけど、手紙を読むのを止めて、父さんの部屋に向かう。
「入るよ」
コンコン、と扉をノックし、部屋に入った。机と椅子、本棚とタンスとベッド。ホコリもなく綺麗に保たれている。まあ、掃除しているのは私なんだよね。
手紙にある通り、奥の壁に少し小さなドアが見えた。前はこんなのなかったはず……?
「失礼しますよ?」
見慣れないドアは、すんなり開いた。そこは、予想より広い部屋になっていた。窓は無いけど、灯火の魔法が部屋のそれぞれ四つの隅にかけられていて明るい。
こんな謎の部屋が、あることに気付かない私って一体……。
部屋には、机とその上に何冊かの本と魔法の巻物が置いてある。床には見たことのない円形の魔方陣が黒い蝋で描かれていた。何か、儀式をするような風景だ。
あとは魔法の巻物を読み、魔法を発動させるだけだ。
紐を解き、中を見た。読めそうだけど、異世界召喚? どういう意味だろう? 悪魔召喚とかの悪いものでは無さそうだ。
私は覚悟を決めて意識を集中し、叫んだ。
「異世界召喚術起動!」
叫び終わると同時に頭の中で閃光が煌めいた。そしてすぐ、体中の力が抜ける感覚がある。変だ——魔法の巻物内の魔法を起動しただけのに、消耗している!?
私は壁に手をつき、なんとか踏み留まった。
床の魔方陣が緑色に輝き、灰色の煙が漂っていく。しばらくするとドンっと地面が揺れるような衝撃と共に、光を放つ何かが、目の前に現れたのだった。
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