表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/70

第1話 誕生日のプレゼント

 質問の答えを彼が考えている間、どうしてこんなことになったのか、私は今日の朝からのことを思い出していた。



 ******



 今日は、私の16歳の誕生日。お母さんの姉である伯母さんが、成人になった今日という日を祝ってくれる。


「レェナ。誕生日おめでとう!」

「ありがとう! わぁーー!!」


 ここは、いつも寝泊まりしている伯母さんの家。気合を入れて準備したという昼食をいただく。

 緑がみずみずしい季節のサラダに、白いスープに赤い人参やじゃがいもが浮かぶシチューに、こんがり焼けた鳥の丸焼きに、柔らかそうな美味しいパン。そして果物のデザート。とても豪華で、私の好きなものばかり。


「いただきます!」


 私はいつものように、勢いよくサラダの入った皿を手に取り、パンを片手に食べ始めた。もぐもぐと、次々に頬張る。


「たーんとお食べ……。あのね……今日で成人になったのだし、もうちょっとお淑やかになれないものかね」


 伯母さんは、溜息交じりにそう言うけど、私の食欲はどうにも止まらない。こんな美味しそうな食べ物を目の前にして、自分を抑えるなんて無理だ。


「それにしても、お父さんはまだ帰ってこないのかい?」

「……うん」

「そうかい。寂しく——」

「でもね、伯母さんがいてくれるから大丈夫!」


 私は少し食い気味に、伯母さんの言葉を遮った。せっかくのご馳走が不味くなるのは嫌だし、こんな話はとっとと終わらせないと。


「そういうもんかねえ。これプレゼント」

「かわいい! 欲しいと思っていたんだ。ありがとう」


 伯母さんは、木製の髪留めを私に見せてくれた。端に少し大きめの花をあしらっていて、地の部分も小さな花が連なる可愛らしいデザイン。伯母さんは、私のほうに歩いてきて、髪に付けてくれた。そして優しく、頭をなでてくれる。


「ほら、黒い髪によく似合う。こうやって見ると、ますますお母さんに、そっくりになっていくね」

「みんなそう言うけど、そうなの?」

「うん、ほんとに……とても清楚で」


 伯母さんはちょっと涙ぐんだ様子で言った。


「だったら、嬉しいな」


 私は、ハーフアップを少しアレンジした髪型にしている。村の人たちが話す、かつてのお母さんの姿に近づくために。


「みんなそう言うよね。殆ど覚えてないけど」

「でも食べっぷりは全然違うね。あなたのお母さんは、とても上品だったのに」


 伯母さんの話し方が、しんみりとした口調から、呆れる口調に変わっている。美味しい物は美味しく食べるのが私の主義なんだ。これは変えられない。


「ぶー。ごめんなさいね、残念な感じで」

「レェナらしいと言えば、そうなのかしらねぇ。そこが可愛いとこでもあるのだけど」

「そうそう!」


 伯母さんに笑いかける。私の笑顔を向けるとみんな、元気になる。私は、できるたけ笑顔でいたいと思っている。まあ……普通にしていてもニコニコしていると言われるのだけど。


「あんたの笑顔見ると元気出るわね——そういえば誕生日に、貴方のお父さんから、頼まれていたことがあった」


 そう言って、伯母さんは一通の封筒を渡してきた。丁寧に赤い蝋で封印され随分と大げさだ。


「父さんから?」

「うん。うふふ、なんだかんだ言って嬉しそうだね」

「え、そんな顔してた?」

「こーんな笑顔」


 伯母さんは、私の笑顔の真似をして、楽しそうに笑った。

 私、そんなに嬉しそうだったんだ。少し恥ずかしい。


「プ、プレゼントかな?」

「だといいんだけど、多分違うと思うよ。大切な話だと思う。落ち着いて、一人で読みなさいと伝えて欲しいって」


 伯母さんの口調が、真面目な物に変わっていた。プレゼントじゃないのなら、いったい何だろう?



 一人で手紙を読むために、自宅に帰る事にした。

 帰り道を急ぐ。とても、手紙が気になっていた。私の家は、村の少し外れたところにある。


「ただいま」


 さっそく、受け取った手紙を読むことにした。


「16歳の誕生日おめでとう!

 直接祝いたいが、レェナがこれを読んでいるということは、どうも叶わないらしい。

 そこで、これから行って欲しいことを以下に記す。

 しっかり読んで手順通りやってくれ——」


 帰ってこられないのも理由があるみたいだ。()()()を実行しようと思った。

 手順はたった二つ。


 ・父の部屋にあるという隠し扉の中に入る。

 ・次に、魔法の巻物(スクロール)を読み、魔法を発動させる。


 隠し扉? まだ続きがあったけど、手紙を読むのを止めて、父さんの部屋に向かう。


「入るよ」


 コンコン、と扉をノックし、部屋に入った。机と椅子、本棚とタンスとベッド。ホコリもなく綺麗に保たれている。まあ、掃除しているのは私なんだよね。


 手紙にある通り、奥の壁に少し小さなドアが見えた。前はこんなのなかったはず……?


「失礼しますよ?」


 見慣れないドアは、すんなり開いた。そこは、予想より広い部屋になっていた。窓は無いけど、灯火(ライト)の魔法が部屋のそれぞれ四つの隅にかけられていて明るい。

 こんな謎の部屋が、あることに気付かない私って一体……。


 部屋には、机とその上に何冊かの本と魔法の巻物(スクロール)が置いてある。床には見たことのない円形の魔方陣が黒い(ろう)で描かれていた。何か、儀式をするような風景だ。


 あとは魔法の巻物(スクロール)を読み、魔法を発動させるだけだ。


 紐を解き、中を見た。読めそうだけど、異世界召喚? どういう意味だろう? 悪魔召喚とかの悪いものでは無さそうだ。

 私は覚悟を決めて意識を集中し、叫んだ。


「異世界召喚術起動!」


 叫び終わると同時に頭の中で閃光が煌めいた。そしてすぐ、体中の力が抜ける感覚がある。変だ——魔法の巻物(スクロール)内の魔法を起動しただけのに、消耗している!?

 私は壁に手をつき、なんとか踏み留まった。


 床の魔方陣が緑色に輝き、灰色の煙が漂っていく。しばらくするとドンっと地面が揺れるような衝撃と共に、光を放つ()()が、目の前に現れたのだった。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら、下にある評価の★をクリックして応援していただけると嬉しいです。

 ブックマークや感想、レビュー等、皆様の評価が励みになりますので、どうかよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=oncont_access.php?citi_cont_id=122268010&sツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 変なツッコミしてたらゴメンなさい。面白いです。 コレおじさんも意図しないで飛ばされた?感が言葉の端端に感じられます。 どちらも被害者、犯人はお父さん(笑)。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ