第11話 カーラ村の神殿
「はーー。微妙に神社ぽい気がしたけど……気のせいか」
私たちは村中央の神殿にやってきた。御影さんが見上げて驚いている。
神社って何だろう。それにしても、いつも驚いてるなこの人、と感じた。彼の世界では珍しい物なのかもしれないけど、毎回驚きすぎだと思う。
神殿は壁に囲われ、その内側は木が何本か茂っており、他の家と雰囲気が異っている。屋根は土を焼いて固めた、少し弧を描くように曲がった板を並べたもの。壁は全て木製の板や柱で構成されている。
建物入り口の上に、五角形の記号がある。図形の頂点にあるそれぞれの模様が精霊を示している。五柱の大精霊と教えてもらったと思う。聖霊教の教えを説いている。
先生はまだ来ていないようなので、御影さんと二人で待つことにした。
「そういえば少し、よそよそしいと思ったけど気のせいですか?」
今朝感じていた違和感をの理由を聞いてみる。
「あ、うーん。そうかな?」
「そうですね……。昨日と何か違うかな」
御影さんは、ちょっと驚いたような、感心するような顔をして続けた。
「……自信なんてハナから無いんだけど、益々、自信が無くなってね」
「自信?」
「うん。この世界に来て、狼を追い払って。その時は良かったんだ。君をなんとか助けることが出来たかな、なんとかなりそうだなって思ってた。でも、昨日の夜の戦い、あの時は何もできなかった」
御影さんが少し視線を下げ俯く。なんだか、哀しそうな、寂しそうな表情をしていた。
「ううん、私を最後狼から守ってくれたでしょ」
「あれは、運が良かっただけ。そもそも君は自分の力だけで守れたような気がする」
「そうかな?」
「そうだよ。誓約、本当に俺で果たせるのだろうか……。そう思ったら、なんだか君に申し訳ない気がして」
「元々関係ない貴方を巻き込んだのは、私と父の責任だと思ってる。でも……できたら、一緒にいて欲しいとも思う……」
「え?それってどういう?」
「うまく言えないけど、……安心するような――」
そう言おうとしたところで、先生がやってきた。
「二人とも、待たせたみたいだね」
「ううん、大丈夫」
先生はさっさと歩いて行く。にもかかわらず、それについて行かず、御影さんは私の顔を見つめていた。何かを待つような微妙な顔。彼の様子が、お菓子を待つような表情に見えて、すこし面白く感じた。
「さ、行こ!」
私はそう言うと、御影さんはちょっと困ったような、同時に、少し嬉しそうな顔をした。
表情の柔らかくなった彼の背中を両手で押し、二人で先生に続く。
「おおおお。レェナちゃん!いらっしゃい」
「あ、は、はい……こんにちは、です」
いつもやたら……早口で高い声の神官長が迎えてくれた。白く長い髪の毛にひげ。神官用の黒い服を着ている。先生の倍くらいの歳で、村一番の長生き。村長も兼ねている。昨日の襲撃への対応も決定は、神官長が決定したと聞いている。
以前は巫女をしていてずっとお世話になっていた。一年前から土曜学校でここに来るだけになったけど、勉強は他の神官が教えてくれるので顔を合わせることは少なくなった。
「君は、御影さんと言ったか、話は聞いているよ」
「はい……」
神官長は、急に真面目な、警戒するような顔になって御影さんと握手していた。
「こちらへ」
挨拶が終わると、十人ほどが座れるほどの広さの部屋に案内された。
「で、まずはレェナちゃんだね。コボルドを両断する大きな力と、治癒を呪文の発動無しで、触れるだけで行えたと。素晴らしい!」
「あ……いえ……」
あいかわらず神官長は大げさだし、興奮しているのか少しうるさい。私は苦笑いするしかなかった。
そこに先生が割り込む。
「うむ。レェナのあの力は元々感じていた物でした。努力の賜でしょう。いつも家で剣を振っていたのを知っています。ただあの力の出方は不自然にも感じました」
「それに治癒の力。触れるだけで傷を治すことができる様子。攻撃と治癒、本来なら戦士職と神官職の力ですが、その両方を包括する能力。昔の文献で見たことがある、非常に珍しい職階級らしい」
「叔母さんの話にもあったね」
とりあえず大げさな神官長は無視しておくことにした。
「うむ。その職というのはいったいどんなものです?」
「伝記によると世界の危機を救うことができる存在になれるということだ。指導者となり正義を守り、悪を倒す。味方に正義の加護を与えたり癒やしたり、自ら剣を振るう。上位になると魔法も使えるというのだ!」
「魔法は全然使えなかったので剣に集中しておりましたが、今後は魔法も期待できるとなれば……」
なんだか先生がドヤ顔をしたような気がした。まるで私を育てたのは、先生だと言いたそうな。どうてもいいけど、話の主題である私を置いてきぼりにして、二人で盛り上がっている。
「それに、その職階級は、この村の子孫に現れるだろうとも伝記に記されているのだ!」
「村の子孫……」
「レェナちゃん、この村の掟、成人を迎えると家族が伝えることになっているが、聞いている?」
「いえ」
「なら、今ここで私が説明するのだ!」
掟というのは、結婚に関することだという。元々の村内の者同士と結婚する場合は制限が無い。もし村外の者と結婚し村に住み続けるのであれば条件があった。結婚後、夫婦の間に子供が出来ない場合は村を出る、というものだ。
何年経ったら、という期限があるわけでは無い。とはいえ、何十年も住み続けるのは許されないこととされていた。実際に子供をもうけられず、村を出た者もいたという。
「レェナの父親は、この村の者ではない。だから君のお母さんは、レェナが生まれて、本当に喜んだものだよ」
「そうなんだ」
私が生まれたから生まれ故郷にいられるのだと、母が私に感謝していたと聞いたことがあった。ありがとう、と何度も言って、とても大切にしていたと。
すると、御影さんが不思議そうな顔をして、言った。
「うーん、その掟、何の意味があるんです?」
「…………分かりません!」
がくっとする御影さん。
確かに、どういう意味があるのだろう? 村の中で結婚しなさいということなんだろうか?




