第9話 戦うということ
そうだ、急いでリーサの様子を見に行かないと! とても、とても大切なことを思い出して顔を上げる。
「レェナ、後ろだ! 危ない!」
突然、御影さんの声が聞こえて振り返った。そこには、飛びかかってくる狼と、盾を構え割り込んでくる御影さんが見えた。
彼が攻撃を受け止め、盾が少し砕けたのが見えた。そして、衝撃を逃がすように後ろに下がり、私の目の前まで下がってきた。
狼は勢いを削がれ着地し、私達から距離を取った。すると、周りの村人が、魔法と弓での攻撃を再開する。分が悪いと思ったのか、狼は杭の壁を飛び越え、入り口に向かって走り出した。
御影さんが後ろに倒れそうになったので、受け止め、支える。
「はぁ、はぁ……危なかった。守れて良かった」
「うん、油断したと思う」
「レェナさん、怪我は無い?」
「うん」
御影さんは、上がった息を整えようとしていた。怪我は負っていないようだけど、足が、手が、震えている。誓約の強制力かも知れないけど……狼の爪と牙から庇ってくれた……。
「ありがとう……」
感謝を伝える。彼がいてくれなかったらと想像し、身震いをした。彼は守ってくれたんだ。助けてくれたんだ……。この世界に無理矢理、召喚した、私を。
もう一言気持ちを伝えたいけど、何も言葉が浮かばなかった。そして、リーサのことが心配だということを思い出す。
「本当にありがとう。ごめん、また後で」
「あっ、はい」
こうしてはいられない。私はリーサの元へ走り出した。
「ありがとうね…………いやしかし、あの豹変は……」
「ああいうことは、前にもあったのですか……? 目全体が黒くなったようにも見えました……まるで狼たちのように」
駆け出すとき、御影さんと叔母さんの声が後ろから聞こえた。どういうことか聞きたいけど……今はリーサに意識を向ける。
さっきまでの周囲の緊張が薄らいでいる。敵は、もういなかった。
息を切らして、リーサの元に辿り着く。
「はあ……はぁ……リーサ? 大丈夫?」
彼女に意識は無い。周囲の村のみんなが、応急処置をしようとしている。神官が治癒の呪文の準備をしていた。
「血が止まらなくて……呪文で、せめて血が止まるといいけど……」
彼女の肩から右胸の上までローブが破けていた。当てられたハンカチに血が滲んできている。必死に手で押さえているけど、出血が止まらないようだ。
「代わります」
出血場所を押さえている人と交代する。すぐに、上着を脱いで肌を隠すように彼女にかけ、出血している部分を押さえた。上半身を抱き起こし、手を握る。彼女の手の甲にも傷跡があった。
痛々しい姿に涙がにじんでくる。
「リーサ?」
私は目を覚まして欲しいと願い声をかける。が、頭を打っているのか、思った以上に傷が深いのか、目を覚まさない。手を握ったまま叫ぶ。
流れる涙が、彼女の頬に落ちていく。
「起きて!」
そう願うと――彼女の肌がうっすら白く光った。すると、次第に手の甲の傷が消えていく。
「リーサ起きて!」
再び彼女の肌がうっすら光り、見えるところにあった傷は完全に無くなった。周囲がざわつくのを感じる。今度は驚きと、安心するような――。
ゆっくりとリーサが目を開き、微笑みながら私の名を呼んでくれた。
「レェナ」
「よかった。本当に…………」
彼女の声を聞き、目が合い安心する。途端に、さっきの戦いのことが思い出されてくる。リーサが襲われ、自分に殺気が向けられ、コボルドを真っ二つにして……真っ赤な血が地面を染めて……。手が震えてくる。張り詰めていた気持ちが一気に押し寄せ、私は子供のように泣き出してしまった。
「大丈夫、大丈夫」
リーサは起き上がると、私の手を優しく握り返し、抱きしめてくれた。その優しさと暖かさに甘えて、ますます、涙が止まらなくなっていた。
こうして私の16歳の誕生日は、ドタバタしたまま終わったのだった。
村人側の被害は、死者なし、怪我人はリーサ含めて五人ほど。
予想外のことがあって損害が出たけど、大勝利だと皆は喜んでいる。先生は戦うということがどういうことなのか、戦い方やその後のことも含めて見せたかったのかもしれない。
御影さんが言っていた、ドロップ品というものもあった。狼やコボルドが所持していた物だ。それは一旦村の神殿に運ばれている。
戦いの翌日、先生と御影さん、叔母さんと私で昨日の話をすることになった。
反省会とされるその話し合いで、私は知らなかったいくつかの事実を知ることになる。
レェナは、「癒やしの手」の能力を獲得した。




