036 マナト家の深刻なペット事情
「どこッスか?ここ!」
ジークを連れて本宅に戻り、すぐさま表に出て大自然を見せたら、
大主に初めてここに連れてこられた時の俺と、ほとんど同じ反応をした。
そりゃびっくりするよな。
「自分、ホントはアニキにボコられて、あの世に来たッスか?」
あ、俺の時と全く違う反応になった…
正直、盗賊は奪う攫う殺すの極悪人だと思ってた。
ジークもそうだと思いこんで、容赦なくチートでフルボッコにしたけど、
実際はそこらにいるフツーの若者だったよ…
重ね重ねボコってすまんかった…
再び中に入り、リビングの扉を開いた途端に俺の視界が閉ざされた。
どうやら、アニーが泣きながら俺の顔に貼り付いてきたようだ。
とりあえず顔から引っぺがすと、アニーの不安げな表情が見えた。
―マナトー!うちにわんこがいる!なんで?!―
我が家の新たな住民に驚いたのか、それとも犬が怖かったか?ネコだけに。
安心しろ、そいつはオオカミだ。犬ではない。
―犬でもオオカミでもどっちでもいいよ!なんでいるの?!―
なんか思った以上に怯え方が深刻だ。
言い出しづらくなったな…
「いろいろあって、ペットとして飼うことになった」
飼うと言い出したのは俺じゃないからな?俺を恨むなよ?
…って、俺の言葉を聞いた途端、アニーの目に涙がじわーって!
その上ブワーッて!
事態がいっそう深刻になった…
そんなに苦手だったかな…まずいな…どう住み分けさせようかな?
上手いことなわばり分けして、徐々に慣れてもらうようにすれば…
とあれこれ考えていると、再び俺の顔にアニーが必死に貼り付いてきた。
―なんで?!ペットならにゃんこがもう居るじゃん!あたしだけで充分じゃん!―
ちょ!そっちかよ!
新しいペットが来たから、前のペットは捨てられる。みたいに思ってるのか?
それは違うぞアニー!
確かにオオカミが我が家に慣れるまでは、ちょっとアニーに構ってやれずに、
オオカミを構うことが増えるかもしれないが、
それでアニーを捨てるとか、そんな訳ないだろう!
俺がアニーをやさしく顔からはがして、そっと抱きよせて喉を撫でてやると、
ようやく落ち着きを取り戻し、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
ところでアニー。今すぐお前に確かめるべき事案が発生した!
「アニーよ…お前の立ち位置、ペットでいいのか?」
―ゴロゴロ~…あっ!―
自分の言動に気が付いて、自分でショックを受けたらしいアニーが、
トボトボと部屋の隅に向かって歩いていき、落ち込むようにおすわりした。
体育座りの自称女神の姿が幻視できるなぁ…
なんかうわごとのように
―ペットじゃない…あたしはペットじゃない―
とか呟き始めちゃったよ…
「あぁ…主…えとえと……ほ~ら、ねこじゃらしですよ~」
―にゃっにゃにゃっ…にゃ~~~~!―
ミラが慌ててアニーに駆け寄ってねこじゃらしをふりふりすると、
アニーが楽しそうに追いかけ始めた。
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謹啓
大主様
自称女神の心のネコ化が深刻です
謹言
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リビング内を見回すと、
餓死寸前だったオオカミもすっかり元気になり、真新しい首輪にご満悦で、
新品のクッションにおすわりしていた。
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おるとろす:マナトの使役獣にしてミラのペットのオオカミ。
:残念ながらフェンリルではありません。
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「名前、おるとろすにしたのか」
「けるべろすと迷いましたが、某小説投稿サイトで、犬に付けたい名前ランキング
ダントツの一位が“けるべろす”でしたので、余所とは違う名前を選びました」
ねこじゃらしを懸命にふりながらミラが答える。
ミラ自身、ねこじゃらしにうずうずしてるように見えるのは気のせいだよな?
気付かなかったことにして…なるほど、おるとろすはあまり見かけないな…
ところでミラよ、お前もか…こいつはオオカミだと何度言えば…
あ、目をそらした。
「ところで…そちらの方は…確か詰所に駆け込んできた…」
あ、俺をスルーした。
ミラは詰所でのことを覚えていたか…
もしかすると、おるとろすの事も気付いている…まであるな…
ジークに向けるミラの視線が、かなり険しいのが気になる。




