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今日は、めでたい入学式の日だ。
そうそう、おかげさまで、僕は一旦両親の元に帰ることができた。
だがしかし、両親は残された蓮様のことが気になるようだ。
まぁ、無理も無い。親戚一同、凛様だけ可愛がってる様子は見てとれる。しかも、師匠は爆弾発言を残した……。
『あ、そうそう。蓮、誕生日おめでとう。誕生日の日にお祝いできなくて、ごめんな。今週の土日でお祝いするぞー? 悠斗や凛もお祝いしてくれるそうだ!』
僕の両親の仏頂面なんて、始めて見たぞー。地雷を落とした、というのを飛鳥井父はハッキリ感じ取っていたし、その性格少しは治せ。
どうやら、簡潔に言えばこうだ。連様が暴走した日は、彼の誕生日。その誕生日に、一人ぼっちが多い蓮様は、どうにか回避したい、そう思った。
その時、タイミングよく僕が訪問。それで、泊まってほしく、あんな行動に出た。素直に言えば、今頃僕の両親と楽しい誕生日パーティーの会話が出来ただろう。
まぁ、素直で無邪気な凛様は、何を言っても我儘を通される性格で、我儘で横暴だけど、素直じゃない蓮様は、跡継ぎということで我儘が通らなかったんだろう。
「パパー、来年は俺、イルカが見える会場で誕生日祝ってほしいなぁー!!」
「おぉーっ、凛はイルカが好きかー? よし、パパ頑張るからな!!」
はぁ、師匠の非常識さには呆れてしまう。
なんで、凛様の誕生日に、蓮様はのけ者にされ、蓮様の誕生日に、凛様は一緒に居るんだ? 贔屓してます、って一目でわかるだろう……。
「ありがとー、パパ! 俺の誕生日プレゼントに、学校買ってくれて!」
「おぉ、凛のためなら、パパはどんなことだって頑張るぞー?」
お父様、拳は駄目!! 相手は、元自由業の方だから!! 絶対見つかっちゃいけない。勝てる相手じゃないからね!?
僕は、お母様や使用人と一緒に、お父様のフォローに回る。見つかるわけにはいかないよ~。だって、自由業怖い。
「全寮制でしょー? 俺ね、ずっと俺だけの王国を夢見てたんだー。ね、パパ。特別な四天王みたいな制度作って? で、俺そこのリーダーやる!」
「おぉ、任せなさい。この後すぐその制度を通してやろう!! 選ばれた生徒のみが入れるクラブみたいなものを、作るからなー!!」
お父様、聖羅学園を買収しようとしないでください。自由業を敵に回すことになります。駄目です、抑えてください!! そのタブレットを、手放してください!
お母様と使用人が、頑張ってお父様からタブレットを引き剥がす。
「お父様……、来年蓮様の誕生日パーティーを開けばいいよ」
「そうだね。今年は、来週パーティーを開き、来年はサプライズパーティーにしよう」
「ペンギンが見える場所でしましょうね、貴方」
これは、小声の会話だ。妙に対抗意識が出ているのは、気のせいではない。
だって、僕のお父様とお母様は、子供が大好き。白桜財閥と言えば、子供に関わる会社が多く、子育てママの強い味方だ。
だから、白桜印の子供向け商品は、子育てママの間ではプレミア品みたいなものだね。
ちなみに、現在蓮様は、凛生誕パーティー関連の会話から遠ざけるため、白桜家メイド部隊が相手をしてる。今頃、離れた場所でお菓子やアイスケーキを食べてるとこだろう。
拗ねてしまった蓮様の性格を更生する、それがお父様とお母様の目標らしい。
「さぁ、そろそろ入学式が始まるよ。愛しのマイ・プリンセスの晴れ舞台を楽しみにしてるよ」
「えぇ、お母様とっても楽しみにしてたの……。小鳥のように可愛らしい貴方がどんどん成長していく姿、一瞬でも見逃したくないわ……!!」
「はい、お父様、お母様。行ってまいります」
「マイ・プリンセス、小さい小石に気をつけるんだよ? 転ばないよう、付いて行きなさい」
「はい、旦那様」
そして、我が家は親馬鹿だ。
僕が通る道を、執事たちが綺麗に掃除していく。
そして、人払いも欠かさないので、生徒や保護者から一目置かれてしまう。
まぁ、もう慣れたかな。
「――姫香」
目の前に居るのは、蓮様。メイドに言われるがまま、お菓子を食べている。口の周りについたお菓子のクズを、メイドが拭ってやったり、と過保護なお世話が繰り広げられている。
「さぁ、連様。式の準備が整ったようです」
「あぁ、わかった」
ちなみに、これは全て白桜家の召使いたちだ。飛鳥井家、烏ケ森家の召使は、せいぜい1-2名くらい。こんなに大勢の召使を従えてるのは、我が白桜だけらしい。
僕は、先に一人で行こうとする。でも、後ろから追いついた蓮様が、僕の手を握る。何故か、この前からずっと僕の横に居たがるなぁ。
まぁ、無理も無い。はじめての友達だもんね……。あ、なんか涙出てきた。
そういえば、薫くん元気かなぁ? あの子は、こんな寂しい生活していませんように……。遠い地に居るであろう、薫くんの幸せを祈るしかできないけどね。
「姫様、新入生代表挨拶が控えております」
「あぁ、すぐ行く」
僕は、執事に案内され、蓮様と別れる。どうやら、最初は凛様が代表挨拶をする予定だったとか。
でも、他のお金持ちの目が厳しく、急遽僕になった。
まぁ、無理もない。周りから見たら、飛鳥井家と烏ケ森家は、白桜家の取り巻きのようなものだ。
実際、彼らも白桜の力を欲しがってるから、強ち間違いではないね。
そうして、僕は舞台の裏側に到着。あぁ、僕は王子様らしく、凛々しくいこう。
そうだな、優雅で凛々しい、美麗な王子様。優しい笑顔がトレードマークなんて、どうだろう? 容姿が劣ったりする部分もあるだろうけど、そこは、行動でカバーだ!
「白桜様、これを」
「先輩、わざわざ僕のために、ここまでして頂き、誠にありがとうございます」
鏡で練習した王子様スマイルを発動させたら、女子の先輩たちは頬を真っ赤に染め、嬉しそうに笑い返してくれた。
やっぱり、笑顔は人を幸せにするんだ!! 天音ちゃんやショーくんは正しいよね!! よーし、天音ちゃんやショーくんに褒められるように、僕頑張ろう!
そして、僕は気合を入れると背筋をピンと伸ばし、社交界パーティーに出るような感覚で一歩一歩と歩き出す。ふと、前を見ると、真ん中の席に三人が座ってた。凛様が、友人のように手をふるけど、目配せするだけにする。
だって、普通はこんな場所で、手を振ったりしないよ……。人懐っこい人なのはわかる。でも、緊張感とか常識がないよね。
そんな、凛様を嫌そうな顔をして止めるのが、双子の兄、蓮様。悠斗様は、もう居眠りしてる。――駄目だこりゃ。
そして、僕はマイクの前に立ち、文章を読み上げていく。さっき、最初の何行かは把握したから、前を向きながら、時々カンニングをして表情や声の上げ下げに気をつけつつ、文章を読み上げる。
すると、終わった頃には盛大の拍手が広がってた。
こうして、僕の仕事は終了。読み終わった後、特別席に案内された。
ははーん。凛様を目立たせるために用意した席か。明らかに、特等席って感じだね。
まぁ、いいよ。この僕の王子様デビューの踏み台になった。全部、活用させてもらうよ?