遭遇
「まじでここどこだよ」
さっきからいっこうに動かない太陽を睨んで、真都は小さく舌打ちした。
この変な町に迷い込んでからずっと歩き続けているのに、人の気配がまるでない。
舗装されていない道。ぽつぽつと点在する家々。どこにでもあるような片田舎の街並み。
歩き始めてからもう二時間は経っているはずだ。
それなのに人っ子一人遭遇しないなんて、そんなことあるのか。
そろそろ町を一周してしまいそうだ。
「お兄ちゃん!」
いろいろな場所をのぞき込んでいた妹の澪が後ろから駆け寄ってくる。
その両手には沢山の果物が抱えられていた。
「澪、それどうしたの」
真都は膝をついて、にこにこと笑う澪の頭をなでる。
「もらった!」
澪が真都に果物を一つずつ渡す。
「もらったって誰から?」
真都が両手を差し出して受け取りながら聞く。
よくわからない人から物をもらわないようにいつも散々言い聞かせているのに、いつまでたってもこの妹は人を疑うことを覚えてくれやしない。
子供らしいその純粋さを失わないでいてほしい気持ちもあるが、残念ながら世界はそんなにきれいじゃないのに。
「あそこにいる子たち!」
澪が指差した先には、広場で遊んでいる子供たちがいた。
澪と同じくらいの背丈の子供たち。年齢は5、6歳といったところか。
さっきあそこの前を通った時には、たしかに人がいなかったはずなのに。
認識した途端、子供たちの遊ぶ声がやけに鮮明に感じられる。
まるで世界が急に切り替わったみたいだ。
「ねえ、お兄ちゃん」
澪が全ての果物を真都に渡し切ってから、真都の服の袖を引っ張る。
顔には少しの戸惑いが浮かんでいる。
「ここ、なんか変じゃない?」
「今さらだねぇ。あそこにいる子たち以外に人間が全然いないのはおかしすぎる」
澪は首を傾げた。
「なにを言ってるの?」
さっきからわたしと同じ年くらいの子たちと何人もすれ違ってるのに。
そうつぶやいた澪の声に、真都の背中に冷たい汗が流れる。
そんな真都をよそに澪が続ける。
「さっきから見かけるの、みんな子供ばっかりだなと思って」
その言葉を聞いてから、やけにざわざわとした音がし始めた気がした。
真都は澪に合わせてゆっくりと動かしていた足を止めた。
嫌な空気を感じ取りながら振り返る。
木陰で本を読んでいる子。肩車をして走っている子。屋根の上で昼寝をしている子。
先ほどまでいなかったはずの子供たちが視界にうつる。
彼らはまるで初めからそこにいたかのようだった。
「ねぇ澪、さっきからあの子たちはずっとあそこにいたの?」
そう聞いたときだった。
「おやおや、大きな身体をした人間だ」
不意に声がした。
顔を上げると、そこには一人の男の子が立っていた。
真っ黒な髪に真っ白な服。遊んでいる子たちよりも2,3歳ほど年上だろうか。
顔には確かに笑みを浮かべているのに、どこか人形みたいな顔をしている。
明らかに子供のはずなのに、年に見合わない雰囲気があった。
真都はとっさに澪を背中にかばった。
「君たち、もしかして外から来たの?」
つかつかと男の子が近づいてくる。
「外?」
澪が顔をひょこっと出す。
好奇心が旺盛なこの少女は誰にでも話しかけてしまうのだ。
「うん」
澪を見た男の子の目が柔らかく弧を描く。
そして首ごと動かして真都を見た。
男の子は口だけ笑って目を細めると、真都をすっと指さした。
「だって君、もうすぐ大人になるでしょ」
真都の背筋に寒気が走る。
「どうして君がここに入ってこれたのかな?]
男の子が首を傾げる。
そしてにっこりと笑みを深めて言った。
「残念だけど、君はここにはいられないよ」
その言葉が、真都と澪がこの世界の秘密を知る最初のきっかけだった。




