#20 夜明け、コンビニにて
夜勤を終えた体は重い。
けれど、決まってこの時間になるとホッとする。
働き詰めの体で外に出ると、夜が溶けていく空気の中に少しずつ朝が差し込む。
コンビニの自動ドアが開いた。
ほのかに温かい風と一緒に、歌が耳に届く。
いま 少しずつ世界を照らす光
すべての人を応援する
僕らは見てる
何気なく顔を上げると、窓の外の空が白んでいくのが見えた。
これから働きに出る人間も、自分のように働き終えて帰る人間も、陽の光は区別せず、平等に照らしている。
いい歌。
どこかで聴いたことがあるような声だった。
思い出せそうで、思い出せない。
店内のお菓子コーナーを抜けようとした時、目に入ったポップに足が止まる。
「対象商品を2つ買うとクリアファイルプレゼント」
そこに映るのは、6人組で漫画のキャラクターのようなカッコいい青年たち。
……ああ、これか。
パラ……パラフラ? そうだ、娘が言っていた。
このグループが好きで、確か——黒い服を着たこの男。
「芹香」だとか。
ちょうどそのとき、店内放送が流れた。
こんにちは!パラレリウム・フライトです!
明るく元気な青年の声が店内に響く。
娘のスマホから聞こえてきた声だ。
今まではただの「音」として聞き流していたけれど、こうして一人で耳にすると、思ったよりもずっと優しくて、力強い。
なんてことない日常にも、歌で励まされることってあるんだな。
夜勤明けのどんよりとした疲労感の奥が、少しだけ軽くなった気がした。
「よし……」
棚から対象のお菓子を2つ手に取り、レジへ向かう。
店員が「どのクリアファイルにしますか?」と尋ねる。
迷わず、黒い服の「芹香」を指差した。
娘の喜ぶ顔が見たい。
袋をぶら下げて外に出ると、夜はすっかり明けていた。
今日も光は等しく降り注ぐ。
帰ったら、娘の好きな例のグループのこと、一番好きな彼のことを、少しだけ話してみようか。
#100日チャレンジ 20日目




