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姉妹のしあわせ

年を跨いでしまいました。

慌てていて誤字があるかと思いますが、これにて完結です。


 聖剣を構えたルドルフはサフィーク夫人に一歩ずつ近付いた。

 何が起こったのかわからない人々が見守る中、聖騎士が公爵夫人を斬ろうとしていた。


「魔女××××、サフィーク夫人の中より去ねよ」

 聖剣は聖女を包む金色の光を反射した。光は夫人を貫き、ギャアと声を発したサフィーク夫人は倒れた。


「破滅の魔女の災厄は去りました。サフィーク夫人の中にはもう残ってはおりませんでしょう。王国の平和は保たれました」


 聖女の言葉に大きな歓声があがり、聖夜は終わった。



 サフィーク夫人は昏睡状態のまま危険人物として隔離された。彼女は危険薬物を使用して人の心を操り、殺害した罪で裁かれる。公爵夫人という身分を考慮しても厳しい処分になるはずだ。

 息子のアーテルは母の中に別人格があった事や自分が父親と思っていた薬問屋の副支配人は母によって殺された事に衝撃を受けた。さらには実の父親はブレーク伯爵だと知った。伯爵は娘を使って王太子を籠絡する際に、危険な薬物を使った事で娘も共に罪に問われた。おそらく伯爵は処刑、娘は強制労働、商会は解体される事になるだろう。

 取り調べの中で伯爵がアーテルは実子であると告白したのは、彼1人だけ助かるのが許せないと思ったからなのだろうか。

 しかしアーテルは何も知らなかったし関わってもいなかった。寧ろ母の言いなりになるように操られていた節がある。さらにはケイトからも気があるそぶりを受けていて、王太子との婚約は断れないがアーテルが好きだと言われてそれを信じていたのだ。

 そのケイトが実は姉だったと知った時の絶望は言葉に表せないほどだ。母や実父の悪事を知ってしまった今は、たとえ直接加担したわけではなくても、サフィーク公爵令嬢で義姉のオルタンスを精神的に追い詰めた罪はアーテルを苛んだ。


 しかしそのアーテルを救ったのは、義姉オルタンスだった。彼は振り回されただけ、それで処罰を与えるのは厳しすぎると訴えた。

 土下座して涙ながらにオルタンスへの謝罪を繰り返すアーテルに、女神の慈愛が働いた瞬間だった。


 父のサフィーク公爵からの謝罪を受け入れたオルタンスは、自分が公爵家に戻る見返りとしてアーテルを守れと父に言った。

 既に公爵家との養子縁組は解かれ沙汰を待つ身だったアーテルに、公爵家の持つ附属爵位を授けて、サフィーク公爵の手足となりよう育てれば良いと助言した。公爵とて一時は息子として接していたのだから、オルタンスの許しがあるのならと快諾した。

 そのためにはまず貴族学院を卒業しなさいとオルタンスに言われたアーテルは涙が止まらなかった。


 己が学院でしてきた所業、母に言われるまま義姉を貶め続けた事がおそらく全て自分に跳ね返ってくるだろう。それがわかっていても温情には応えねばならないと強く思った。

 彼はこれから針の筵の上を歩いていく事になる。アーテルは逃げる事を許されない。それが彼への罰だった。

 それでも前を向く決意をしたのは、元義父である公爵が、未成年者の息子を守るのは親の義務だと言って抱きしめてくれた事だ。オルタンスは手を握ると、貴方の新しい人生に祝福を贈りましょうと言ってくれた。重ね合わせた手から伝わる温かい力に、これが聖女様の施しなのだと、アーテルはさらに泣く事になった。



「それではどうあってもここから出ていくと言うのですね」

 オルタンスは双子の妹エイプリルを抱きしめた。


 オルタンスが覚醒するまではエイプリルの中にあった女神は、少しずつエイプリルから抜け出していき、オルタンスへと移動した。

 双子の娘達が元々授かっていた力が女神を呼び寄せた。妹のエイプリルが孤児院の門前に捨てられた時、女神はまずエイプリルを守る事に専念した。

 人々の信仰が薄れ、聖夜の儀式すら単なるお祭りになって女神の力が弱まっていた時に生まれた双子に、器として受け入れるだけの能力を認めた女神は、まずは聖教会を立て直すことから始めた。

 マーティンがエイプリルを発見したのは偶然では無い。教会に付属する孤児院で、わずか10歳ながらリーダーシップを発揮していた少年がエイプリルを見つけて、妹のように愛情を注ぎ守ってきた。その感情が家族への愛から変化してきた時に、中の女神はエイプリルの幸せを選ぶ事にした。


 オルタンスを不遇な目に合わせた人間の中にいる魔女との対決。それにはエイプリルの中に存在する女神の力を全てオルタンスへ移す必要があった。


「だから、貴女は眠っていたのよ」


 そんな話を聞かされてもエイプリルはピンと来なかった。これから生きていく為には、女神と共有した記憶は不要なのである。

 目覚めたエイプリルは自分を覗きこむ美しい女性が、今代の聖女であり、その上双子の姉だと言うものだから恐縮して小さくなっていた。


「このままここに居て良いのよ?お父様はエイプリルの存在を知らないから公爵家なんかには行く必要はないわ。

 だけどせっかく取り戻した姉妹の時間をこれ限りにしたくないんだけど」

 オルタンスは泣きそうな声でエイプリルを引き留めようとしている。女神の采配でエイプリルの事を覚えていない修道女や司祭達達と、新たな関係を築いていけるのだろうか。エイプリル自身も何もわからなくて、不安でしかないのだ。


 だからここには居られないと言ったエイプリルに、オルタンスは苦渋の決断で、ある提案をした。


「わかったわ。それならば貴女が暮らせる場所を用意する。それで偶に顔を見にいくからその時は必ず元気な顔を見せて欲しい」

「何から何までありがとうございます。聖女様のご厚情に感謝します」

「他人行儀は嫌よ。オルタンスと呼んでくださいな。お姉様でも良いのよ」

「え。あ……お姉さん?」


 オルタンスに抱きしめられて、エイプリルは顔を真っ赤にして照れた。自分の過去の記憶は全く消えてしまったけれど、この人の妹であることは確からしい。

 嬉しい、嬉しくて泣きそうだ。


「それでね、エイプリルの為に小さな家を用意してあるの。そこまでは彼が連れて行ってくれるから安心して」


 彼と呼ばれた青年は部屋の隅に控えていたので、気がついていなかったエイプリルはびくりとした。


「道中、妹をお願いしますね」

「女神様のお望みであれば、私の全力でもって妹君を守ります」


 エイプリルは彼をじっと見つめた。過去のどこかで会った人だろうか?

 わたしはこの人を知っている気がする。


「あの、どこかでお会いした事がありますか?わたし、記憶障害みたいなんです」

「……ええ、昔から君のことを知っていますよ」

「本当に?じゃあどんな風に育ってきたとか知ってる?あ、いえ、ご存じなのですか?」


 背の高い男は顔をくしゃくしゃにして笑った。

「ああ、良く知っているよ。君が赤ん坊の頃からの付き合いだから。君が、エイプリルがどのように育ってきて、どんな少女になったかも、喜んだことも悲しんだことも知っている」

「そうなんだ。ではわたしの忘れてしまった過去を教えて貰えますか?」

「勿論だ」


 2人のやり取りを微笑ましそうに眺めていたオルタンスは、聖騎士が手にしていた袋を男に渡した。


「移動のための費用と、当座の生活に困らぬように多めに入れました。エイプリルの事を頼みましたよ。わたくしの大切な妹なのです」


「言われなくても」

 男は不敵に笑った。


「お姉さん、ありがとう。記憶はないけれど、聖女様の妹だなんて誇らしくわね。

 では、よろしくお願いします。えっと、貴方を何とお呼びすれば?」


「俺の名前はマーティンだ。これからもよろしくな、エイプリル」


 にっこり笑ったマーティンにドキドキしてしまったエイプリルは、照れ臭いのを誤魔化してオルタンスに明るく手を振って出て行った。彼女が暮らすのはオルタンスが公爵領に用意した場所だ。

 いつかはお父様にも、お母様が命懸けで産んだ双子の妹が生きている事を教えてあげよう。先代の公爵から、1人は死産、だから双子では無いと聞かされてそれを信じ込んでいた愚かで不器用な父は、喜ぶだろうか。


 さようならエイプリル、女神の愛し子よ。オルタンスの中の女神はマーティンとエイプリルに祝福の光を授た。降り注ぐ光にはしゃぐエイプリルを、目を細めて見守るマーティンだった。




 平穏な日々が続く中、今日は聖女と聖騎士の結婚式である。国を挙げての喜びの日だ。

 純白のローブを纏った聖女オルタンスと、やはり純白の騎士服を着たルドルフはこの上なく幸せそうである。

 オルタンスは聖女として女神とともに生きると決めていたので、まさか自分が結婚するとは思ってもいなかったが、オルタンスを慕うルドルフの熱烈な求愛に絆されたのだった。


「まあ、良いのではないかしら。あの者の聖女を慕う気持ちは本物です。貴女の気持ちもそうでしょう?」

 女神像の前で祈るオルタンスに、その内側から女神の声が響いてきた。


「貴女が真の聖女なのです、オルタンス。愛する聖騎士の手を取りなさい。そして貴女の血を未来へ繋げていくのです」


 オルタンスはルドルフと見つめあい、その唇を受け止めた。



 終わり


お読みいただきありがとうございました。


年を越してやっと完結できてホッとしています。

義弟アーテルへの処分が甘いかもしれませんが、彼はこれから厳しい人生を送るはずなので、多めに見てやってください。


サフィーク公爵は娘と和解し、のちに死んだと聞いていた双子の片割れが生きていたと知ります。

オルタンスに公爵家を相続させて、自分はエイプリル達の近くで、身分も名前も隠して暮らす事にしましたが、マーティンに敵視され、エイプリルに余計な事を言ったらコロす的に睨まれ邪魔されるので、なかなか距離を縮められません。

エイプリルは父の事を親切なおじさんだと思っています。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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