<第一章 Slothの種> 第1部 家族の団欒16話 兄/妹
さっきまで狩っていたモンスターの血の匂い。それと同じものを感じる。
妹が生きていることに絶望している間、それを知る由もないウーゴは皮肉にも喜びを得ていた。今までの自分であれば成し遂げられなかったであろう事を成し遂げたのだ。歓喜に身を震わせてしまうのも無理は無い。水分補給を終えたウーゴは
「ハハッ、やれた。こんな俺でもモンスターの群れを倒せたんだ!」
先程の戦闘を思い出し、手を握る。小さく息を整え腰をあげるウーゴ。一度ゴブリン達の死体に視線をやり、森の奥へと移す。移動する彼の足取りは軽い。
「もう少しだけ気晴らしに付きあってもらおうじゃあないか」
そうしてウーゴはエイビスの森を危な気もなく数刻ほど過ごした。結果としてグリーンバード四羽、はぐれのノウム・ゴブリン二体というまずまず戦果に満足したウーゴ。
彼は空を見上げ
「水魔法からの短剣攻撃、これはなかなかにいい戦法ではないか?っと日が天辺まできたか。そろそろ屋敷に帰るとでもしようか…」
探索を切り上げること決め森の入り口まで向かった。帰りの道中では無駄な戦闘を避ける為、慎重に警戒をする。思いのほか奥まで行っていた事と慎重さを重視した行動だったので入り口に到着するまで一刻がかかってしまった。
「行きより帰りのほうが疲れるな…さっさと部屋に戻って眠ってしまいたいものだ」
いつもの彼らしい考えが浮かぶくらいに気持ちはすっきりとしていた。そんな様子を中から感じていたソレは満足げに頷く。自分を使ってもらった事がとてもお気に召したらしい。
「ルナのやつ夕食には出て来てくれるんだろうな…」
今日はウーゴとルナの誕生日。二人にはとびっきりのプレゼントが待ち構えていた。その内容はもちろん知らないウーゴ。どんなものか期待に胸を膨らませるウーゴは一刻と半刻ほどで屋敷に着いた。
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重たい足取りで自室にたどり着いたルナ。あんな出来事は夢であって欲しい、一度眠れば夢から覚めるだろうとそう願い服を着替える。新しい服へと手を伸ばした瞬間鏡に映る自分の体に目を見張った。
「あぁなんて汚い体…やっぱり夢じゃなかったのね……」
そっと鏡に触れ涙をこぼすルナ。昨夜の出来事を思い返してしまい錯乱する。
「違う…違うッ!これが夢、そうに決まってるわ!!」
夢から覚める為机に入っているハサミを手に取り手首を裂く。
「ッ!痛い…夢じゃない…?」
これが現実だと再確認させられてしまったルナはこみ上げてくる吐き気と絶望に嗤ってしまう。体を丸めるルナ。
「ッハハ…ハハハハハッ!!!!」
辛い、生きているのが恥だなどという考えが頭を埋め尽くす。ふと目に着くのは先程自分でつけた傷。そして赤くぬめりを帯びながらも光り輝くハサミ。
「もう…いっかぁ」
首にハサミを当てながら、魂が抜け落ちた声で一人呟く。
耳を塞ぎたくなるような音がしばらく彼女の部屋から聞こえ続けた。
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屋敷にも戻ってきたウーゴは外にいた時の清々しさを失っていた。それも仕方がない。今日の夕食は自分と妹の誕生日会でもある。妹の様子を思い出したウーゴ。
「このままだとすれ違いが続きそうだしなぁ。一声だけでもかけてみるか」
体調は大丈夫か?夕食にはでられそうか?などといった質問をするために妹の部屋へ向かったウーゴ。
ーコンッコンッコンッ
「おいルナ。今日の夕食についてなんだが…体調はどうだ?」
返事はかえって来ない。寝ているのだろうかと考えその場を去ろうとしたが彼の体は違う行動を起こしていた。
(あぁ!君がどんな顔をするのか楽しみで仕方がない!!)
事情をある程度知っている、いやそうなるように仕向けたソレは愉快な声を上げる。
ナニカに操られたようにドアを開けウーゴは啞然としていた。意味不明な状況が彼の目の前に起きていたからだ。
「ル…ナ…?」
鉄の匂い。ウーゴの鼻の奥を鈍くつく。




