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サナの人類救済の旅  作者: あおば
短編保存庫
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第零章 血の契約



 お日さまが沈んでいって、暗くなってきたら、朝だ。

 私が起きると、お父さんとお母さんも起きていた。


「おはよぉ、お父さん、お母さん」


 なんだか寝ぼけ声が出てしまった、まだ眠いのかも。


「おはよう、イリア」


 お父さんもお母さんもまだ眠いのかも、元気がない。


「イリア、今日はお父さんといっしょに、畑仕事に行こうか」


「えっ? お外に行っていいの? やったぁ!」


 畑仕事は、とっても疲れる。

 でも、いつもお家で遊んでばかりだから、うれしいな。


「でも、静かにね」


 お父さんは、しーっと手を口に当てる。

 きゅーけつきに、うるさいと怒られちゃうんだった。


「あれ? お母さんは行かないの?」


 お父さんだけがお外に行く服を着ていて、お母さんはお部屋の服だ。


「ごめんね。イリア、お父さんのお手伝い、ちゃんとしてあげてね」


 お母さんの元気のない声に、私は元気よく返事をした。


 お父さんと手をつないで、街をぐるーっと回って外に出る。

 この街のまん中には、あんまり近づいたらいけないんだって。

 やっぱり、きゅーけつきに怒られちゃうから。


 きゅーけつきは、とっても怒りんぼうで、わがままなんだと思う。

 でも、お母さんは、きゅーけつきはかわいそうなんだって言うの。

 私がよくわからないって言うと、イリアにもいつかわかるわって言うの。


 お外では、しっかりとお父さんのお手伝いをした。

 お外だと、たくさんおしゃべりできるから楽しい。


「そろそろ休もうか」


 お父さんの提案に、私も賛成する。疲れた。


 私と、お父さんと、カーリャちゃんのお父さんと持ってきたおにぎりを食べる。

 カーリャちゃんのお父さんは、ご近所さんというもので、仲良しなのだ。


 今日は、カーリャちゃんがお父さんといっしょに来ていなくて、残念だった。

 でも、カーリャちゃんのお父さんが、むきむきブランコをやってくれたから、楽しかった。


「お父さん、あっちにお友達がいたから、遊んできてもいい?」


 私と同じように、お手伝いに来ている子がいたから、お父さんに聞いてみた。


「いいよ、あまり遠くまで行かないようにね」


 やったぁ、お手伝いがんばったからだ、きっと。


 たくさん遊んだあとに、お父さんをちょっと手伝っていたら、空が明るくなってきた。


「イリア、そろそろ帰ろうか」


 手をどろだらけにしたお父さんと、手をつないでお家に帰る。


 お母さんは、ベッドで寝ていた。

 寝ているだけなのに、お父さんが心配そうに、お母さんの寝顔をのぞきこんでいたのを――よく覚えている。






「イリア、もう一度だけ確認させて」


 私の支度が終わったときに、お母さんが不安な顔を寄せてきた。


 十二歳の誕生日に、この街を支配する吸血鬼のところに、初めて血を捧げに行くのだ。

 もし気に入られれば、眷属にしてもらえるらしい。

 ダメだったら、殺される。

 今日が、その日。


 だから、お母さんもお父さんも、心配するのはわかるのだが、同じことを何十回も確認されれば、うんざりもする。


「いい? 案内された部屋で待っていて、ヴァラド様がいらっしゃったら――」


「――私の血を捧げます。どうか、ヴァラド様の眷属に」


 お母さんが喋ろうとしていたであろう言葉を、先に続けて喋る。

 私の態度を見て、お母さんはさらに心配を募らせてしまったようだ。


「……不安だわ」


 お母さんは、頬に手を当てながらつぶやく。

 隣にいたお父さんは、つぶやいたお母さんの肩を安心させるように抱く。

 でも、お父さんは、お母さんよりももっと心配しているような表情を浮かべていた。


「だ、大丈夫だろう。イリアは、母さんに似て可愛いから」


 ほら、声が震えている。

 まあ、お褒めの言葉は素直にもらっておくこととしよう。

 私のお母さんは、とびきりの美人だと思うし、その娘である私も……同じ分類になるのは当然だ。


 こんこん。



【倉庫】

【ご協力のお願い】


一.コメントいただいた三つの単語で、物語を作ります。

二.できの良し悪しは、ご容赦ください。

三.こいつバカだな、ぐらいの温かさで見守ってください。

四.えっちな言葉は、ほどほどに。

五.無理なものはギブアップするので、お気軽に三つの単語を出題ください。


皆様のご協力を、お待ちしております。



【落書き①】第一次むにむに聖戦


「ヴァネッサの頬は、どうしてぷにぷになのかしら?」


 手持ち無沙汰だったので、隣にいたヴァネッサの頬をむにむにしてみた。

 ヴァネッサは、吸血鬼の魔物だ。

 自然界のもので例えると、影みたいな存在である。

 にもかかわらず、私の指先に返ってくる弾力は、確かな存在を感じさせるもので。

 どういう仕組みになっているのだろう、と不思議に思ったのだ。


「んむー……どうしてなのでしょうか……?」


 私に方頬を摘ままれながら、ヴァネッサは首を傾げた。

 首を傾げた分だけ、頬がむにぃと伸ばされる。

 元の世界のお餅ぐらいの、伸びだった。


「自分の身体のことなのに、わからないの?」


 批難する意図はないけれど、ちょっとからかいの調子を込めてみる。

 すると、ヴァネッサにそれが伝わったのか、拗ねたように頬を膨らませてきた。


 頬の内側から圧力がかかるが、手を離さなければいけないほどではない。


「では、サナ様は――」


 そう言って、ヴァネッサは私の頬に手を伸ばす。

 こいつ、やり返してくるつもりかしら……?

 良い度胸だ、好きにやらせてみようじゃない。


「――自分の頬が、こんなに……あぁ、もちもちですぅ……」


 私の頬を摘まんだヴァネッサが、きもちわるい声を上げた。

 そして、狂ったようにむにむにむにむにぃ、と指を動かして頬を愛でてくる。


 そんなに力を込めていないのか、別に痛くもなかったために、制止するタイミングを逃してしまった。


「えぇ……? なぜ、こんな……あぁ、指が勝手に……」


 ヴァネッサはぶつぶつとつぶやきながら、しばらくの間、私の頬をむにり続ける。

 こちらもすることが無いので、ヴァネッサの頬をむにる。


 むにむにむに。

 黙ったまま、お互いの頬を摘まむ光景は、端から見たら滑稽だっただろう。



【落書き②】君の血の味は


「ヴァネッサ、そろそろ血が欲しくならない?」


 満点の星空のもと、適当なところで野営の準備を終えた。

 ヴァネッサは吸血鬼で夜に生きるため、自分が寝るわけではない。

 けれども、いつも手伝ってくれるのだ。


「……まあ、欲しくないと言えば嘘になりますが……えっと……」


 私の近くに寄ってきたヴァネッサは、歯切れ悪くもじもじしている。


「サナ様が、血を……くださるということでしょうか……?」


 私の方を見ないようにしているのか、ヴァネッサは顔を逸らしながら言う。

 ヴァネッサの頬は上気して、いまにも湯気が出ていきそうだ。


「別にそれでもいいけど、大丈夫なの?」


 私の問いかけに、ヴァネッサは勢いよくかぶりを振る。 


「無理です……! サナ様の首筋に、歯を立てるなんてっ。あぁ、想像しただけで……頭が、頭がおかしくなります……!」


 ヴァネッサの口元から、もわもわと黒い影が漏れている。

 なにかを我慢するためだろうか、唇をぎゅっと噛んでいて、そこから血の代わりに影が出ているのだろう。


「私の八重歯が、サナ様の絹のような肌を……ぷちっと貫くと、濃厚な味わいの血が、どろりと湧き出てきて――」


 ずいぶんと、深いシミュレーションを行うことができているようだけれど。


「――舌がそれに触れた瞬間、私の死は確定するでしょう」


「あら、どうして?」


 私は普通の人間だから、そんな血が劇物みたいな言い方をされるのは心外だ。

 質問した私の方をちらりと見たヴァネッサの瞳は、真っ赤っかになっていた。

 普段が澄んだ青色なので、かなりの興奮状態ということだろう。きもちわるい。


「サナ様の血を味わったが、最後。私はサナ様の血を吸い尽くすまで、口を離すことはないでしょう。当然、それが許されるわけもなく……」


 まあ確かに、ヴァネッサは消えて無くなることになると思う。



【落書き③】


「先生、今度の日曜日、映画を観に行きませんか?」


 私のストレートなお誘いに対して、先生は、たいして動揺もしていない。

 いつもの黒縁眼鏡を、こちらに少しだけ向けて、にべもなく言う。


「生徒と、外で会うことはできないよ。ルールだから」


 静かで落ち着いた声音は大人っぽくて、隣で頬を膨らませている私の子どもっぽさと対照的だ。

 いや、子どもっぽいとは言っても、私はもう大人なのだけれど。


「元、生徒、ですよね? 先生?」


 先生の顔を覗きこむように、私は首を傾げながら聞いた。

 そうなのだ。この春から、私は大学一年生になった。

 そして、高校生の時に通っていた学習塾『こごみ個別指導塾』の、アルバイト講師一年生にもなった。

 といっても、まだ二週間ぐらいしか経っていないけれども。


 まあ、なんにしても、もう生徒ではないことは確かだ。

 だから、恋愛を制限されるような、いわれはない。

 にもかかわらず、この先生は、昔のことをぐちぐちと。


「元だろうが現だろうが、生徒は生徒だよ。それに、あなたは二年間、生徒だったから。二週間かそこらでは、生徒ではないと認識できないかな」

「じゃあ、あと一年と十一ヶ月と二週間経ったときに、もう一度誘います。そのときは、私の誘いを受けてくれますか?」

「その頃には大学を卒業して、僕は、ここにいないけどね」

「先生がどこにいようとも探し出して、一緒に映画を観に行かせます」

「……僕は大学を卒業したら、教師になるつもりだ。新米教師というものは、休日を返上するぐらいに忙しいと聞くから、遊んでいる暇なんて無いよ」


 のらりくらりと、先生は私を躱していく。むかつく。そのダサい眼鏡を取り上げて、バキバキにへし折ってやりたくなる。


「眼鏡へし折りますよ」


 あっ、思わず声に出してしまっていた。

 私のつぶやきを聞いて、先生は一瞬驚いた後に、楽しげに笑う。くそぅ、かっこいいなぁ。


「あははっ……ダメだよ。この眼鏡は、僕の大事なものだから」


 先生は、掛けていた眼鏡を外して、それを顔の前に掲げる。

 懐かしむような、愛おしむような、眼鏡に向ける眼差しに、なんだか私が恥ずかしくなってしまう。


「……それは、私が買ってあげた眼鏡だからですか? 先生、実は私のこと好きなんですか?」


 顔が紅くなっているかもしれないのをごまかすために、私は早口で先生をからかう。

 すると、裸眼のまま、先生が私をじとっと見てきた。

 先生は眼鏡なしだと、どのくらいの視力だっただろうか。

 念のため、両手で頬を覆うように隠す。手に感じた温度は、じわっと熱かった。


「あなたに買ってもらったのではなく、あなたのお父さんとお母さんに買ってもらったと認識しているけど」


 好きなのかという問いを無視して、先生は眼鏡を掛け直しながら言った。


 半年ぐらい前、秋が深くなっていた時期に、私は先生の眼鏡をぶっ壊した。

 受験勉強のストレスに、先生の厳しい物言いに、私がキレた結果だった。

 冷静になってから、なんてことをしてしまったんだと後悔したのを覚えている。


「……私のお小遣いから、先生の眼鏡を買ったんですよ?」


「ああ、そうだったの。でも、お小遣いっていうのは、あなたのお金って言えるのかな?」


 聞いた話だが、先生は、彼女がいた経験を持っていないらしい。

 まあ、私への対応を見ていただければ、火を見るよりも明らかだろう。


「じゃあ、ここで働いて稼いだお金を、父と母に返します」


「……まあ、そういう心持ちは大事なんじゃないかな」


 そう言って、先生は、私といっしょにお喋りしていた講師室から、さっさか出ていこうとする。


「あっ、お帰りですか?」


 私も、先生を追うように、講師室の出口に向かう。

 先生は、仕方なさそうにため息を吐くと、私を振り返った。


「遅くなったから、送るよ」


 まだまだ私が新米なので、今日の授業の振り返りを、先生と行っていたのである。

 私たち以外では、教室長の先生が残っているだけだ。


「生徒と外で会ったらいけないんじゃないですかぁ?」

「じゃあ、置いていこうかな」

「うそうそ、待ってくださいよっ」


 先生に置いていかれないように、私は追いすがるのだった。


【3月24日も、ちょこちょこと23時ぐらいまでやる予定です】

【少し早いですが、ここまでにします。ありがとうございました】

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