おまけ「キールルート③泣き虫」
あの後どうしたって?
そりゃぁ……家から追い出しましたよ。
はい……。
そしてキールからの突然の告白から早くも数週間が経ったのであった。
大学ではキールを避けまくっていた。
元々多忙なキールとは出会うこともなかったが……。
男からの告白にどうしたらいいのか、わからなかった。
え?いつから俺のこと好きだったの?
え?俺、美人じゃないよ?可愛くもないよ???
どうしたの??頭おかしくなったのかな??
なんていくら考えてもキールが俺を好きという事実なんてないと思う。
無いと思ってるんだけど。
あの日のことを思い出しては顔から火が出ていた。
意識すればするほど俺を悩まし続けた。
「うぅ……」
休日の朝またも思い出しては全身から汗が出る。
心臓の音もうるさいほど鳴るし、胸の奥がキュンキュンする。
キールの顔ばかり思い浮かんでそこにいないのに居るような錯覚までしてくる。
「じゅ、重症だ……」
この感覚は、ずいぶん昔に女の子相手にしてたような気がする。
心の中で記憶の中でその人を感じたくて探してしまう感情。
「嘘だ……嘘だと言ってくれ」
俺は男だろう?
いくらキールが美貌の持ち主とはいえ男で。
しかし胸を締め付ける甘い痛みは今も心を占めていた。
不意にテクテク歩いてきたレイズが俺の所にやってきた。
「フリージア。来客アリ」
「あ、そう?なの」
全然気づかなかった。
玄関の呼び鈴が鳴ってたんだ。いつの間に。
知らせてくれたレイズの頭を撫でて俺は玄関へ向かう。
ぼんやりとしていた俺は何も考えずカギを開けて扉を開いた。
「おはよう」
開口一番に美しの教師はふんわりと笑った。
数秒固まったままの俺は、慌てて玄関の扉を閉めようとした。
「ッ……!」
「フリージアッ」
ガッと扉に手を掛けたキールが怖い顔で笑っている。
キラキラ白い髪と美しい瞳が近くにあって心臓がどきどきと高鳴る。
ドアノブを握る俺と、扉に手を掛けるキールとの距離は近い。
どくんっと心臓が一層跳ね上がる。
そんな馬鹿な!?お、俺は男だぞ!?
あ、だめ……かお、がちかっ……、……
「う……」
カァっと顔を赤くしてしまった。
キールは俺の態度に気づき、驚いた顔して見られた。
や、やめてください。見ないで、お願い。
必死に目をそらし、顔をそらし事無きを得ようとするが無理だろうか……?
ちらっと盗み見たキールが俺と同じように顔をそらしていた。
「あー……」
玄関の扉は抑えたままだがキールも少し顔をを赤くした。
その表情を見てしまった俺は無性にキュンキュンと胸を高鳴らせてしまう。
くそっ可愛い反応してんじゃねぇーぞっちくしょー!!
内心のときめきが出ないように無言を貫く俺。
そして同じように押し黙るキール。
しばし謎の沈黙が降りたところでようやくキールが話し出した。
「んん、あー……少し付き合ってくれないか」
「え?」
「連れていきたいところがあるんだ」
行先は告げられずとても怪しいお願いなのだが……。
真剣な瞳で見つめられて、俺は迷った末に頷いていた。
「ありがとう。外で待ってるよ」
「うん……」
扉を押さえていた手は外れ、ゆっくりと閉まった。
キールの姿が見えなくなった所で、俺はその場にしゃがみこんだ。
「~~~!」
は、恥ずかしいぃいいいいい。
めっちゃ意識してんのバレたっバレちゃったあああああ。
顔の火照りがとれるまで俺はその場に座り込む。
そして落ち着くとすぐさま支度を整え深呼吸をしてから家を出た。
美貌の教師は待っているだけで絵になった。
声をかけるのすら躊躇するほどだったが、唾を飲み込み声をかける。
「お、おまたせしました」
「いや、行こうか」
「はい……え?ちょっと本当にどこ行くの」
歩き出したキールの後ろについていくが一体どこへ?
振り返りもせず真っすぐ道を眺めるキールはクスッと笑う。
「内緒」
「……変なとこ連れてかない?」
「くく……しないしない」
クスクスと笑われ、俺はまたしても失言をかました。
べっ別にそんなッ俺は意識してなんかねぇーし!
ふんっと黙って付いていくことに決めてキールの隣を歩く。
キールの視線を感じたが、何もいう事もせず二人歩き続けた。
ここは高級ドレス専門店ではなかろうか?
到着した所は、なんと俺には興味もない高級ドレスを取扱うお店。
怪訝そうにキールを見上げる俺を有無を言わさず店内に連れ込まれた。
高級そうな制服を着た店員が深々とキールにお辞儀する。
「フィッシャー様お待ちしておりました」
「用意はしてあるか」
「もちろんでございます。ご案内いたしますわ」
「あぁ」
ぽかーんとしたままの俺はキールに連れら店内を歩き始めた。
そして奥にある階段を登り、一室へと招待される。
「あの、キール?」
何が始まるんです?という意味合いで声をかける。
「見たらわかるよ」
そう一言だけ言ってキールは黙った。
仕方ないので一室にあるソファに腰かけて待つことにした。
「少しお待ちください」
「あぁ」
頷くキール。店員さんは部屋を出て行った。
またしても沈黙が流れ、話をしたかったがそんな空気感でもなく……。
ただ店員さんを待つばかり。
数分の後、ノック音が聞こえ戻って来た店員さんは白いドレスを……!?
「えっ」
壊れ物を扱うように恭しくドレスを手に持った店員さん。
そしてトルソーに持った別の店員さんが素早く部屋に設置しだした。
いや、いやいやいや!
ドレスなんて生易しいものじゃない。
店員さんはにこやかにトルソーにドレスをセットし終わるとそそくさと部屋から出て行った。
「これって……」
俺は立ち上がりまじまじとドレスに近寄り眺めた。
真っ白なドレスには刺繍やレースがふんだんに使われている。
豪華で職人の匠の技がキラリと光る一点物の美しいドレスはしかし場違いでもある。
だってそれは俺には縁遠いものだからだ。
「ウェディングドレス……?」
そう、目の間にあるのは紛れもなく……。
息を飲んで振り返った俺は、近くにきていたキールを見上げた。
「どういう……」
「フリージア」
言葉を遮るように名前を呼ばれる。
驚くほど真剣な瞳で見下ろされていてドキッと胸が弾んだ。
黙り込んだ俺に、そっとキールは手を伸ばし俺の緊張で汗ばんだ手を取った。
「遅くなったが16歳の誕生日おめでとう」
「え?」
は、え??た、誕生日?
そう言えば毎年必ずプレゼントをくれたのに今年は何もなかったな。
欠かすことなく俺の誕生日にリボンを送ってくれてたけど。
でもどうして今?
「オーダーメイドで作ったからか、制作に時間がかかったんだ」
「は?」
「それにいろいろと拘り過ぎて誕生日には間に合わなかった」
なにを言っているんだろう。
咄嗟に手を引こうとした俺をキールは押しとどめた。
そして背の低い俺に合わせるように腰を落としたキールの顔が間近にあった。
吸い込まれそうな美しい瞳が俺を覗いている。
「昔から決めていた」
「な、にを」
にっこりと綺麗な笑顔を見せるキールに俺は場違いにもドキドキした。
「16歳になったら愛を伝えようと」
ちゅっと指先にキスを落とされ、瑞々しく形のいい唇は開く。
「君を愛している。私と結婚してください」
美しい黄金の瞳は見たことがないくらいキラキラとしていた。
俺の中で様々な思いが駆け巡り、最終的に出た言葉は。
「俺、男なんだけど」
っと何故か俺の正体を告げる言葉だった。
「中身、男だし。俺の夢は男の身体に戻ることなんだ」
キールの見開いた瞳を見つめながら告げる。
その瞳の奥にある感情を探ろうと言葉が次々と溢れ出る。
「図書館では体を男にする方法がないか探ってたんだ」
黄金の瞳はブレることもなく俺を見つめている。
なぜか俺は視線を逸らさないキールが苛立ちを募らせた。
早く目を逸らせと、語尾を強めて真実を告げる。
「俺は、女の子にはなれない。
キールの気持ちは嬉しいけど無理だよ」
身体は女の子でも、心は男のままなのだ。
それでも、どうしてか……
なんか俺自身の気持ちはその……そう、なんだけどさ。
でも俺は本物の女の子じゃないから……ごめんなさい。
ずっとキールを騙し続けて。ごめんなさい。
俺はちゃんとした女の子じゃないんだよ。
そんなこと言ってもらえるような資格はないんだ。
途中から息苦しさと居たたまれなさで俯いていた俺には見えていなかった。
キールが俺の最後の言葉を聞いてどんな顔をしていたかを。
突然、手を引かれ広い胸に抱きしめられていた。
「へ!?」
硬い胸に抱き込まれ、痛いほど抱きしめられた。
そりゃぁもう息苦しいほどで痛みすら感じた。
「いたたたっキール痛いッ」
「あ……す、すまない」
緩めてはくれるが、抱きしめられたまま。
俺はもうドキドキが止まらないんですが、やめてくれ放してください。
なんだよ。俺のこと気持ち悪くないのかよ……。
「はなして」
「嫌だ。フリージア、君が男でも私は構わないよ」
「へぁ?」
なにを言ってんだ??
驚いて見上げて見たキールの顔はすこし赤いような気がする。
「男になりたいならそうしたらいい。
私も手伝うし、そのあとの処理も任せてくれ」
……??
なに、言ってんだろこの人。
しかめっ面の俺にキールはニコニコと笑みを零す、まるで感情を抑えられないように。
「男のフリージアか。どんな姿になるのか」
「あのキールさん??」
「夫婦生活も色々と様変わりするな。
今から勉強しておかないといけないか。忙しくなるな」
一人勝手に盛り上がっているキールに俺はついていけねぇっ
つかこの人全然話きいてくないんだけど!?
俺の話をきいてどうしてそんなことが言える!?
「ちょっとキール!」
「ん?」
「は、話きいてた?俺、中身男だって」
なんでそんな乗り気になるの!?
え?もしかしてキールって男の人の方が好きな人だった!?
混乱を極める俺に、愛おしそうな視線で見つめられた。
「男であることをクリアしたら、私のモノになるんだろう」
「……え」
「私の気持ちを嬉しいと言った。
それはつまり、私の事を好きだということで間違いないんだろ」
「え、あ、はい」
不安そうな瞳とぶつかって、思わず頷いていた。
間髪入れずに肯定したことでキールは幸せそうに微笑んだ。
その様子にほんの少しぽーっとしてしまったが……ん?
はっ!?おおおお俺は何を馬鹿正直に頷いてんだ!?
「あ、ちが」
「違わない。違うなんて言うな。
私のことが好きなんだろう?ありがとう私も愛してるよ」
美貌の顔を綻ばせてキールは満面の笑みを浮かべる。
そんな顔を見せられて、俺は違うとはもう言えなかった。
ドキドキとずっと高鳴る鼓動は俺の気持ちを語っていた。
「ばか……なんでそんな嬉しそうなの」
「君が好きだから」
ただそれだけ。
……大前提が好きって気持ちだから?男でもかまわない?
そんなことって、でも……そしたらこの気持ちに正直になってもいいのか?
きゅっと胸が締め付けられて甘く苦い思いが溢れる。
だったら、俺もそうだよ。
ずっと昔からキールには無条件でドキドキしてた。
だってビックリするくらい綺麗なんだもん。
たとえ、男だったとしても。
綺麗で、意地悪で、優しいキールのことが……。
俺の視界は少し潤んでいて、綺麗なキールのを顔が歪んでいた。
でも締め付けられていた感情が溢れ出て止まらなかった。
「す、きよ。貴方が男でも」
男に恋した俺を笑わないで。
「俺も昔から好きだよッキールのことが好き」
妖精のように美しい貴方はいつも絵本の中の王子様みたいだと思っていた。
俺には勿体ないくらいの人で、友達になれて本当に嬉しかった。
子供の俺と真剣に向き合ってくれたこと。
悩んでいる時いつも話を聞いてくれたこと。
そして約束を必死に守ろうとしてくれたこと。
全部嬉しかった。
俺だけに向ける優しい視線が本当は嬉しかった。
「っ……」
これまでの思いが重なってポロっとついに涙が溢れた。
ポロポロと流れる涙は頬を伝い顔をぐちゃぐちゃにする。
可愛くないのは知ってる。
泣けばもっと醜いのも知ってるから、人前では絶対に泣かないんだ。
だって惨めだろう?
でもキールの前では泣けた。
抱きしめる強い腕が、優しいキールの匂いが安心できたから。
どんなに醜態を晒してもキールなら、受けれてくれるっと知っていたから。
俺にとってキールは陽だまりのような男。
「ひっく……キール」
「どうした?なぜ泣く……?」
頬を伝う涙をキールは拭う。
心配そうな顔をするので俺の胸もキュンキュンと高鳴る。
両手で俺の頬を掴んだキールはこつんと額を合わせた。
「まったくフリージアは泣き虫だな」
ちゅっと額にキスをしてくれる。
馬鹿みたいにイケメンな男に腹が立ちながらも俺は安息を得るのだ。
むぎゅっと俺から抱き着けば、大の男はびくっと震えた。
「ッ……好きなだけ泣けばいい。私はどこにも行かないから」
優しく抱きしめ返したキールは俺が泣き止むまで背中を撫でた。
「キール」
「ん?」
そろそろ泣き止んだ俺は、顔を腫らしたまま見上げた。
「大好き」
不格好に笑った俺を見つめるキールは瞳を大きく見開くと息を飲んだ。
そして瞳に鋭さが増し熱く煮えたぎったような視線と絡み合った。
大きな手が俺の頭に添えられ、自然と俺は目を瞑っていた。
「ん……」
ちゅうっと唇を吸われて、温かい口づけを落とされた。
何度か角度を変えてキスをして、ドキドキしすぎて死んじゃうかと思った。
唇が離れてすこし寂しく感じて瞳を開けると、俺の前には男がいた。
「私と、結婚するか?」
顔を突き合わせたまま答えを待つキールを見つめ返した。
不安そうに揺れるつつも期待で輝く黄金色の瞳。
その瞳に吸い込まれるように俺からキールにキスをした。
触れるだけの軽いキスを。
「!」
「男でもいい?」
「あぁ。フリージアだったら」
「ふふっはは……でも俺、キールの子供欲しいな」
「!!」
俺の遺伝子と交じって生まれるとフツメンになるかもだけど。
産めるかどうかもわからないけど。それでも、なぁ愛してくれるんだろ。
「ねぇキール。私と結婚してください」
驚きっぱなしのキールは最後には困ったような顔をした。
君にはかなわないなぁっていう感情を滲ませながら、輝く瞳は嬉しそうにほほ笑んだ。
「もちろん喜んで」
「えへへ……はい。私も喜んでお受けします」
麗しの妖精のような男に恋をしてしまいました。
しかも男でも愛してくれるそうです。
わけわかんねぇなぁ。
大きな腕の中で俺は夢心地のように思う。
転生して目覚めたら女の子でした。
女の子の記憶と体験を引き継いでその子の人生を奪ってしまった。
そんな俺が男に恋をして結婚しようってんだ。
もう奇跡としか言いようがない。
人生。何が起こるかわかったもんじゃない。
後日、フィッシャー家から正式な婚姻の話が飛んできた。
周囲を驚かせた後、早々に結婚式は行われた。
永遠の誓いを済ませた俺はキールの下へと嫁いだのだ。
教師と生徒っていう間柄であったから大学は大変なことになってたけど。
それも落ち着いて、俺は今キールと生活してます。
こうして俺ことフリージア・エディフィールド。
16歳にしてフリージア・フィッシャー・エディフィールドになりました。
え?夫婦生活ですか???
俺、勢いで子供欲しいとか言ったけどさぁ……。
今日も今日とて、夜中に攻防を繰りひろげたのであった。
「まって無理っマジで無理ッ」
「私を愛してないのか?」
「いや大好きだけどっエッチなことはまだダメなのっ」
本日も寝室から楽しそうな声が響くのであった。
END
あのときジークに気づいていたらキールルートでした!を書きたくて書いてみました。
暇つぶしになったでしょうか??ではではまたどこかで。 風花




