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かつて花だった乙女たちは願いのために華麗に舞う  作者: 紫雲 橙
契約【薬】

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3/12

願い

 小森たちは家に帰った。

 小森がいつからか一人で暮らすようになった家に。

 彼の家は彼の親戚たちによって保たれている。自分たちのところで引き取れない代わりにお金は出すからと言われたのだ。しかし、小森はバイトをして生活費を稼ぐようにしている。

 すべてを世話になる気はないと多額の援助を断ったからだ。


「本当に何もないが適当にくつろいでいてくれ。食事は人と同じものでいいのか?」

「はい。ですが、わたしたちには人間の持つ欲というのは備わっていないようですので、食事をとることも睡眠をとることもしなくて平気なんです」


 その言葉を聞き小森は驚いた顔をする。


(つくづく戦花乙女というものが分からない。人間と同じ姿をしているというのに食事も睡眠もとらなくていいとは......楽にも思えるが、それはそれで寂しいのではないだろうか。俺は、静けさの中一人でいることの寂しさを知っている。眠れない夜に適当に散歩をして、隣に誰かがいてくれたらいいのにと思うことも経験がある。【薬】は違うのかもしれないが、寂しさがあるならそれを埋めたい。これこそわがままだろうな)


 寂しさを知っている。だからこそ、そんな思いをしてほしくない。

 そういったことを考えながら小森は二人分の食事を作った。

 食器だけは捨てることができなくてずっと残していたものがあった。

 生姜焼きを作り、山盛りによそった白米を【薬】の前に置く。


「これは......」


 【薬】は目の前に置かれたものを物珍しい目で見る。

 彼女はそれを見たことがなかった。ずっと外にいたのだ。見る機会は一度もなかった。

 食べ物なのかも分からない。彼女が知っているのは水と肥料だけである。

 何も分からない。同じところに置かれた箸の使い方だって知らないのだ。


「豚の生姜焼き。それと米だ。食べられなくても平気だと言っていたが、俺が一緒に食べてほしいと思ったんだ。家に誰かがいるのは久しぶりだし、食卓を囲んでみたいんだ。もちろんいらないなら俺が食べる。ただ話し相手になってほしいんだ」

「これがご飯というものなんですね......わたしに話しかけていたあの方は今日は何を食べようかなとか、楽しそうに話していました。いつも楽しそうな方でした。食卓を囲むのが好きと言っておられましたよ。ですから、わたしも主と食卓を囲んでみたいです。けれど、この棒のような物は使い方が......」


 箸を持ちながら【薬】は首をかしげている。

 その様子を見て小森は


「それの使い方をまた教えるから、今はこれを使ってくれ」


 とフォークを渡す。

 比較的使いやすいだろうと考えたのだ。


「ありがとうございます!これなら使えそうです」

「ああ、一応お手本だけどこうして刺してもいいしすくってもいい。米はすくった方がいいと思う」


 小森がお手本を見せると【薬】は真似をして食べ始める。

 口に運んだ瞬間に彼女は満面の笑みを浮かべた。


「これが生姜焼き......!とても美味しいです!!」


 彼女は小森と出会って数分の間で見せたことのないような感情の高ぶりを見せた。

 悲しそうな苦しそうな顔は見せていたが、笑顔は見せていなかった。

 

「そうか、良かった」


 そっけない返事だが内心では


(こんなに喜んでもらえるとこちらも嬉しくなってくるな。人の......正確には人ではないが、自分の作ったもので喜んでもらえたのは純粋に嬉しい)


 といった風に喜んでいた。

 ニコニコしながら食べ進めていく【薬】に対して小森は質問する。


「聞こうと思っていたんだが、タイミングを逃してしまったので今聞いてもいいか?」

「なんでもお聞きしてください」

「【薬】の願いってなんだ?戦花乙女は願いをかけて花弁を奪い合うんだろう?だったら願いがあるはずだ君にも。俺はそれが聞きたい」


 小森のその言葉に【薬】は頷き話し出す。


「話さなければとは思っていました。知ってもらわなければこの先力を貸してもらえない。いえ、わたしが勝手にそう思っているだけですが......では、聞いていただけますか?」

「俺が聞いているんだ」

「そうでしたね......わたしの願いは、花と人間の共存、です。わたしは知っているんです。花を平気で踏みつぶしている人がいることを。踏みつぶした人に恨みを持ってしまっている花がいることを。枯らした人に恨みを持っている花を。わたしはそんな子たちを見たくないんです。そして、そんな子たちとこれから戦うことになるでしょう。ですが、わたしは願いを何としてでも通したい」


 【薬】はこぶしを握る。

 覚悟しているのだ。自分が戦わなければならないということを。

 願いを叶えたいなら、どんな相手だとしても戦わなければならないと。


「君はもう決めてるんだな。そのためにすることにも覚悟を持っている。それなら俺はちゃんと力を貸すよ。【薬】の願いを叶えるために力を貸そう」

「本当に、お優しいですね。わたし、あなたに会えて良かったです。人と言葉を交わすこと、食卓を交わすこと楽しいと初めて知ることができましたから。それに、わたしに力を貸すと言ってくださる。それが何より嬉しいです」

「俺も久しぶりに楽しいと思ったよ。これから共に頑張ろう」

「はい!よろしくお願いします」


 小森と【薬】は握手をする。

 二人の契約はまだ始まったばかり。

 彼女の願いが叶うか分かるのはまだ先のことである。

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