問いの答え
「あなたが一番わたしのことを強くしてくれるように見えたからです」
「強く?」
「はい、契約にも相性というものはありますから。あなたを一目見た瞬間に運命を感じました。あなたが偶然でも通りがかってくれて助かりました」
【薬】はそう言って微笑む。
運命というのは不確かなものである。いつどうなるか分からないもの。いつどんな時に出会うか分からないもの。彼女はそんな運命に出会ったのだ。
「俺が通ったから助かった、か。何の力もない俺が君の力になれたなら良かった」
小森も笑う。
自分には力がないと笑うのだ。それを見て【薬】はそんなことないと首を横に振り
「何の力もないなんて言わないでくださいわたしはあなたがいてくれたことでこの先も戦えるんです。それにわたしの突然のお願いを聞いてくださったあなたには度胸もあると思いますよ」
と、言葉を伝えた。
「そうなのだろうか?」
「そうなんですよ」
本心なのか疑う小森に【薬】は力強く頷く。
「自分には何もない、力もない。だからせめてもと思って剣技を身に着けていたがそれすら未熟だ。守りたかった両親も、もういない。そんな俺が本当に君の助けになれるのか?」
そう、彼には両親がいない。
幼いころに交通事故で失ってしまったのだ。小森が道場で剣道の稽古をしていた時の出来事だった。
慌てた様子の顧問から呼ばれたのは。
そこで聞かされたのだ。事故に遭い生死が危ないと。
小森は急いで病院へと向かったが間に合わなかった。そして、両親が事故に遭ったのは自分のせいだと責任を感じていた。
(俺が、たまには二人で遠出でもしてきたらって言ったから二人は出かけたんだ。出かけたから悲劇が起きた。俺が提案をしなかったら......もしもを考えたってどうしようもないのは分かってる。それなのに考えてしまう。最後にも立ち会えなかった。それも悔やんでいる)
「今すでに助けられていますからね。それに、未熟だというならこれからまた成長できるということ。......守りたいと思った人がいなくなる苦しさというのはわたしにも覚えがありますよ。わたしはただの庭に咲いている花でしたし、においがきついと抜かれることもありました。しかし、わたしが守りたいと思った方は、わたしのことを大事にしてくださる方だった。薬草だと知っていて扱ってくださる方だった。その時には会話はできませんでしたが、何度もお礼が言いたいと思ってきました」
【薬】は小森の言葉に同意する。
自分にもそんな覚えがあると。少しの涙を浮かべる。
「言えたのか?」
「わたしがこの姿になる前にはもういなくなってしまったので言えずじまいでした。だから、わたしとあなたは一番守りたいものを守れなかった同士といったところですかね。だからこそ、こうやって出会えたことはやはり運命みたいなものなのかもしれませんね」
「そんな同士でいいのかとは思うけどな。まあ、【薬】がそう言ってくれると少しだけだが心が軽くなった。ありがとう」
「お礼を言われることではありませんよ。主の心の状態も戦華乙女には通じてしまいますからね。今のわたしが守りたいのは、主......そして、この世界にいる人間たちですから」
【薬】は決意する。
全力で守りたいたいものをまた見つけたのだ。彼女は人のことを大切に思っている。
初めて守りたいと思った者がいた。その者のことが忘れられない。だから、その者がいなくなってからも人間のことを大切に思っていればいつかまた出会えるのではないかと期待を抱いているのだ。
「その主という呼び方は......」
「わたしと契約してくださったので主ですよ。これからよろしくお願いしますね主。ということで、お家にも連れて帰ってくださるとありがたいです」
「そうか、君は帰るところがないのか。俺の家も静かなところだが、それでもいいなら」
「置いていただけるなら、そして主のことを守れる場所にいられるならどこだってかまわないですよ」
「その主呼びはやめてくれないのか?」
小森は主と呼ばれることに違和感があるのかそう言った。
「ごめんなさい。わたしが主と呼んでいたいんです。わがままですが、わたしの生涯のうちで名前で呼ぶ人間は一人がいい。わたしが初めて守りたい人を見つけたその時の人がいいんです。主の命令を聞けなくて本当に申し訳ございません。」
【薬】は頭を下げた。何度言われても変えることはできないと。わがままを通してほしいと。
彼女が喋れるようになったのは最近のことではあるが、それまでにも心の中で呼び続けてきた人物がいた。だから、名前で呼ぶのはその人物だけがいいと言う。
そして、真剣な顔をしているので
「分かった」
と小森は頷く。
「ありがとうございます」
「無理強いまですることじゃないからな。さて、家に帰るか。【薬】も動き回って疲れてるだろう?」
小森が歩き出す。
その横を【薬】がついていく。まるでこれ―からを示しているかのようだ。
この先何があるのかを彼らは知らない。
ただ確かなのは戦華乙女が動き始めていること。人間と契約を終えた戦華乙女もいるということ。
虹花戦争が幕を開けるのが近いということであった―




