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かつて花だった乙女たちは願いのために華麗に舞う  作者: 紫雲 橙
契約【薬】

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1/12

始まり

 パキンッーー

 その音は、世界が崩れる音。

 その音は、誰かの願いを叶えるための物が誕生した音。

 その音は、一部の人間の人生を大きく変わる機転を告げる音。


 その音がしたのと同時刻。


「わたしと契約してください!」


 女の姿をしたものが自分よりも少々身長の高い、刀袋を背負った学生服の男に話しかけた。

 女は長い白髪を風になびかせ、黄色と白が混じったワンピースを着ていてさわやかな印象を与えている。


「契約、とは?」


 男は口を開く。

 急いでいる様子だったため首を縦に振ろうとしたが、どういうことなのか聞く必要があると判断したのだ。


「今は時間がないので簡単に!わたしの願いを叶えるお手伝いをしてほしいんです!このままでは抵抗できずに消滅してしまいます!!」


 女は慌てた様子で男に手を伸ばす。

 自分の危機を救ってくれと懇願しているのである。

 男は困惑したが、女の慌て具合を見て頷く。


「契約してくれるんですね?!では共に、わたしの言葉に続いて唱えてください。あっ、手もお貸しください!」


 女は男の両手を掴み唱え始めた。


「『咲け、咲け、咲き乱れろ。己が信念を貫け。己が思いを捨てるな。自然に大地に影響をもたらせ。今戦え。戦華乙女【ドクダミ】ここに見参』」


 その瞬間、女は輝きだす。

 そして男の手の甲には証が浮かび上がっていた。

 花の形をした証が。

 女はそれを見て微笑み、自身の姿が変わっていることにも気づいた。


「これで契約が結ばれましたね!改めまして、わたしの名はドクダミ。しかし、ばれたくはないのでどうぞ【薬】とお呼びください。あなたと契約したことでグローブという武器も手に入りましたし、動きやすくもなった。これで戦えます」


 ドクダミと名乗った女は真剣な目をして男に告げた。


「戦いってどういう......」


 男がそう口にした瞬間


「こーんなところまで逃げてらしたのねえ。あら、そちらの男性はだあれ?(わたくし)と遊んでくださるんじゃなかったの?」


 黒く、レースのついているドレスで身を包んでいる女がヒールの音を鳴らしながらゆっくりと男に近づいてくる。

 その女が歩くたびに濃く赤い炎が燃えている。


「遊ぶだなんて言っておりません。これは遊びではございませんから」

「そうねえ。まあ、貴女の装いとそちらの方の手の甲を見たら分かるわ。契約、なさったのね?攻撃力が上がったということかしら?そういうことでしたら、今は一度手を引きますわ。次出会った際には(わたくし)の愛を受け入れていただきますわね」


 女は微笑み優雅に去っていった。

 その後ろ姿を見つめていた【薬】はホッとしたように息を吐き出す。


「すぐに手を引いてくれて助かりました……また来ると言っていましたから油断はできないですけどね」

「俺には何も分からない。君がなぜ安堵しているのかも理解できない。だから、教えてくれないか?そうだ、俺も一つ教える。俺の名前は小森 空斗(こもり そらと)。よろしく」


 小森が【薬】に質問する。

 具体的な説明をされないままに契約をしたのだ。疑問は募っていくばかりであった。


「そうですね、どこから説明しましょうか……うん、まずわたしたちについてがいいでしょうね」


【薬】はうなずいて話し出す。


「わたしたちは人間ではありません。わたしたちは、ある日突然人の形を得たのです。そう、虹色の花の誕生によって......わたしたち花は人の姿となりました」


 【薬】は人間ではない。

 元は道端や庭に咲いているような花。それが彼女たち。

 虹の花という希少なものの誕生で彼女たちの日常が変わったのである。


「花?人間ではない?」


 小森は混乱しているようでブツブツとつぶやいている。

 その様子を見ても【薬】は話し続ける。

 

「はい。次に戦いについてですね。わたしたちは、自分自身の願いのために戦っています。なんでも一つ願いをかなえてくれる花弁を手に入れるために。その戦いに参加する、花から人の姿になったもののことを戦花乙女......通称フラワーガールといいます」

「契約の時に言っていたのはそういうことだったのか。自身のことを【薬】と名乗ったのは?」

「わたしたち戦花乙女は特性があるんです。さっき襲撃してきた子も特性の力を使っていましたね。【毒】・【薬】・【火】・【水】。そして何にも属さない【中立】。それがわたしたちの特性です。花弁を手に入れるための戦い虹花戦争にはその特性を持つものが集まらなければ始まりません。集まったものたちで戦い、最後の一人が願いをかなえる権利を与えられます」


 戦花乙女、フラワーガール。そのどれもが聞きなじみのない言葉であり小森は困惑している。

 しかし、戦いというものについて詳しく聞けたので彼の疑問は解消されただろう。


「戦いについては分かった。だが、先程の話からは契約というもののことが分からない」

「そうでしたね......わたしが契約をすることを頼んだ理由をお聞かせします。わたしたち戦花乙女は、人間との契約によってさらなる力を得ることができます。それがわたしの先程の姿ですね。力を得た時には同時に武器も与えられますが、その武器が何かはその時にならなければ分かりません。基本的にはそのものが扱いやすいだろうというものになるようです」

「契約することで力を得られる。だから君は誰でもいいから契約をしてすぐにあの女から逃げたかった。そこにたまたまいたのが俺だったんだな」

「誰でもいいからではありませんよ。確かに今は夜で人も出歩いているような時間帯ではなく探すのにも苦労しましたがちらほら人はいましたからね」

「それなら、なぜ俺だったんだ?」


 小森は【薬】見て首を傾げる。

 なぜ自分でないといけなかったのか、他の人ではなぜダメだったのか問う。

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