逃亡
階段を上り切り、神社の境内へと戻ってきた。
冬月たちが来た階段の方に向かっていくのを確認すると、俺は近くにあるふすまを取り、階段に蓋をするように投げた。
そして冬月たちを追うように再び走り出す。
石畳の階段まで来ると、下では未だに祭りのにぎやかな雰囲気が立ち込めている。
まるでさっきのことが嘘のように。
会場の中、人をかき分け走り続ける。
しかし、この島はそこまで大きくもないため、逃げ続けるにも時間の問題だ。
そして恐らく先ほどの『儀式』が今回調査している失踪事件と関係していることは間違いない。
それならタイミングを計って轟破を捕まえる必要がある。
祭り会場を抜けたところで、香織が意を決した表情で口を開いた。
「皆さん、一度私の家に来て下さい。少なくとも私の家には誰もいませんので。ここで捕まるよりかはましかと思います」
俺と冬月を見合わせ、お互い頷き香織に家まで案内してもらうことにし、走っていく。
息を切らしながら俺たちは東坂家へと辿り着いた。
家は木造二階建てで周囲には他の家もなくとても静かだ。
「そういえば、家に誰もいないって言ってましたが」
「はい、今ここに住んでるのは私と浩太だけです」
香織は少し寂しそうな顔でそう言うと、玄関の引き戸を開いた。
中に通されると、居間に案内される。
居間は片付けられており、花や仏壇、家族写真が飾られている。
時間はすでに夜の八時を回っており、外が暗くなっているため明かりはつけないようにした。
四人とも床に座り、俺たちは香織から話を聞くことにした。
「まず、確認なのですが香織さんはずっとこの島に住んでいたんですよね?」
「はい、生まれも育ちもこの島です」
「今回の件については本当に知らなかったのですか?」
俺はまず、香織に重要なことを尋ねた。
香織は浮かない表情を浮かべ、時折不安げな表情も見せながら口を開いた。
「……まさかあんなものがいたとは知りませんでした」
「では、あの場所にいた人たちの中に共通点はありましたか?」
俺に続いて冬月が質問を繰り出す。
「いえ、見たところ移住してきた人ももとから住んでいる人もいたので何とも」
そういえば浩太もこの島の生まれであるため、そうじゃないことにも納得いく。
恐らくではあるが浩太は轟破の持つ何かを知ってしまった。
だから今回捕まってしまったとなれば、他の島民も同様の理由で捕まった可能性がある。
「そういえば、ご両親はどうされてるのですか?」
冬月がこの質問をすると香織は浮かない顔でゆっくりと話を始めた。
「母は浩太を産んですぐ亡くなってしまいました。父は……轟破さんの前に自治会長をしていて島の人からの信頼が厚い憧れの父親でした。ですけど二年前に単独事故を起こして亡くなってしまして……」
「……お辛いことを聞いてしまって申し訳ありません」
冬月はつらそうにして頭を下げた。
俺も続けて頭を下げた。
「いえ、大丈夫です」
香織は落ち込みつつも笑顔で答えてくれた。
もう少し何か情報を掴めないだろうか……
「……ねぇ兄さん、これからどうするの?」
弓月が心配そうに俺に聞いてくる。
香織もだが弓月もこんな状況で不安でない訳がない。
「そうだな……調べるにも神社の奥はまず無理だろうし」
実際、これといった何かというのがあの轟破の言動くらいだ。
浩太を救うためにももっと多くの情報が必要である。
いつまでもここにいる訳にはいかない。
そんなことを考えていると外の方から人の気配を感じた。




