九十九祭り
祭りの会場はとても賑わっており、活気に満ちている。
準備を終え立ち並ぶ出店、食欲のそそる食べ物の匂いが鼻孔を通る。
香織からおすすめを聞いており、チョコバナとお好み焼きの屋台にいくことを勧められていた。
初めはチョコバナナの屋台へと向かうことになった。
そして、そこですごいものを見ることになった。
「な、何だこれは……」
「は、初めて見ました……」
俺と冬月が見て驚いているのは、まるで芸術作品なのではないかというくらい美しく作られたチョコバナナだった。
「お、あんちゃんら観光の人か。一本どうだい」
店の人に声をかけられたのち、俺と冬月はチョコバナナを注文した。
あいよ!と返事をすると、その華麗な手さばきと繊細なテクニックで食べるのがもったいないくらい美しいチョコバナナを差し出された。
俺は弓月の分ももらいそのまま渡した。
三人ともチョコバナナを食べると目を見開いた。
それは、今まで食べたことのないバナナとチョコの調和を味わった。
これはおすすめする理由もよくわかる。
まさにほっぺたが落ちるほどという言葉の意味を十分理解することができる。
お好み焼きの方もそこらへんで食べるものとは比較にならないくらい美味しく、生地とソースのバランスが絶妙だった。
おいしいの一言では言い表せないほどの味であった。
しばらく食べ歩いているとふとあることを思い出した。
「そう言えば、香織さんや浩太くんも手伝いしてるって言ってたよな」
俺がそうつぶやくと弓月が反応した。
「確かに言ってたね。せっかくだし覗きに行こうよ」
弓月が言うと俺も冬月も同意した。
どの辺りにいるのかは聞いていなかったため他の屋台を見て回りながら探すことにした。
しばらく歩いていると、大人に連れられて神社の方へと歩いていく浩太の姿を目にした。
あれ……浩太くんは手伝いをしているはずでは?
しかし、休憩中という可能性だって十分あり得る話だ。
人も多いため、浩太の姿はすぐに見失ってしまう。
この時、俺は少しばかり嫌な予感がした。
以前にも感じたことのある禍々しい気配の片鱗を感じたような気がした。
そんなことを考えていると香織とばったり出くわした。
だがその様子は祭りを楽しんでいる様子でないことが一目でわかった。
「あ、皆さん、来て下さったのですね。そうだ、浩太のこと見ませんでした?」
なるほど、浩太君のことを探していたのか。
……ということはさっきの行動は少々不可解だな。
「見てませんね」
「私も見てないなぁ」
冬月と弓月はどうやらさっきのところを見ていないようだ。
香織は少し残念そうな表情を浮かべた。
「そうでしたか、もう少し探しますので失礼……」
「さっき見かけましたよ」
香織が言い終わる前に俺が口を開いた。
すると表情を変えて香織が俺に接近してきた。
「どこにいたんですか?」
「あそこの神社の方に誰かと一緒に歩いてましたよ」
俺は神社のある方角に指をさして言った。
「そうでしたか。出店の手伝いをしてたはずなのにおかしい……」
「どうかしたんですか?」
何かおかしいと思った俺は香織に事情を伺った。
「浩太が出店の手伝いになかなかこないから店の人に探してくるように言われていたんです」
……やはり、何か違和感がある。
そう思った俺は神社の方に向かって走り出した。
「先輩、どうしたんですか!?」
冬月は声を上げると俺を追いかけるように走ってきた。
続くように弓月と香織も後ろから付いてくる。
「実は昨日の夜から違和感があったんだ。この島は何かおかしい」
「それってどういう……」
冬月は不安げな表情で俺に訪ねてくる。
「……この島には何かいるんだ。あの時の廃墟にいたような化物がいるかもしれない」
そう言うと冬月は驚愕している。
無理もない、突然こんなこと言われたら一度や二度経験していても簡単になれない。
とにかく今は急いで浩太を見つけることだ。
……手遅れになる前に!




