伯父と弟
洞窟の景色を堪能したのち、香織の提案で今夜祭りが行われる広場へとやってきた。
どうやら香織の弟が手伝いをしているため、その様子を見に来たようだ。
辺りをきょろきょろとしながら楽し気な様子で弓月が声をかけてくる。
「わぁ、色んな屋台があるね」
「近所の小さな祭りよりにぎわいそうだな」
「それで思い出した。兄さん、今年は戻ってくるの? もうすぐであの時期だけど」
「流石に今年は戻る予定だな。姉さんには迷惑かけてしまってるし」
遠くを眺め、小さくため息をついた。
……姉さんには無理させてるんだろうな。
そんなことを思っていると、向こうからこちらに向かって手を振っている高校生くらいの少年とその横を歩いている中年の男性を目にする。
「おーい、姉ちゃん」
「あ、浩太じゃない。それにおじさんも」
そう声を上げると香織は二人のところに歩みを進めた。
俺たちも香織に付いていくように二人の方に歩いていく。
「姉ちゃん来てたんだ。この人たちは?」
「島に観光に来た人たちよ。たまたま旅館で知り合って昭恵さんに頼まれたの」
「そうだったんだ」
「あ、すみません。こちら弟の浩太と伯父の健介おじさんです」
香織が紹介してくれると二人は軽く会釈をした。
返すように俺たちも軽く頭を下げる。
「どうも、東坂健介と言います。この島で医者をしていますので、もしケガなんかをした際には私の診療所にでも来てくださいね」
「これはご丁寧にありがとうございます。山川隼と言います。香織さんにはお世話になっております。それと連れの冬月と妹の弓月です」
「あ、どうも冬月美夢です」
「山川弓月です! よろしくお願いしまーす」
俺が二人を紹介すると続くように挨拶をした。
「見たらわかると思いますが今夜ここで祭りがありますのでよかったら楽しんで行ってください。それじゃあ香織、浩太、私は診療所に戻ることにするよ。祭りの準備頑張ってな」
そう告げると健介は去っていく。
「じゃあ俺も手伝いに戻るよ。姉ちゃんまた祭りの時にね」
浩太もそう言い残して祭りの会場へと走り去っていく。
俺たちはその背中を見送った。
「では私もお祭りの手伝いに行きますので」
「あぁ、お忙しいのに案内してもらってすみません」
「いいんですよ。昭恵さんに頼まれたのもありますけど、皆さんと色々お話しできて楽しかったので」
香織は俺たちに笑顔を向けると小さく頭を下げた。
「またお祭りの時にでも会えればいいですね」
「そうですね。それでは準備の方頑張ってください」
俺がそういうと、香織は微笑み会場の方へと歩いて行った。




