第六話「むせろっ! リターンマッチ!」③
……そんな訳で、第12層。
まぁ、やっぱりジャングル……今日も明日もきっとジャングル。
虫除け必須なダンジョンって、どうなんだろうね……。
私とエストとリアン、それに魔王様がお留守番組。
エストと私とリアンは、のんびりお茶なんか飲んでくつろぎ中。
だって、そうしてろって魔王様が言うんだもの。
他のエルフの三人とルーシュは、フロアの偵察中。
魔王様はフロアの地図とにらめっこしながら、地図をどんどん書き加えていっている。
魔王様……今回は何やら通信用のアイテムとか持ち込んで、ルーシュ達と連絡を取り合いながら、ドンドン地図を作ってる。
エルフ組は隠れて一戦もせずに隠密突破を繰り返して、15層まで行っただけのことはあって、全く見つかる様子がない。
そんなエルフ達に足手まといになる事もなく平然と同行できるルーシュ……あの娘、地味に凄くね?
「サクラ……とりあえず、どんなもんよ?」
一応、差し入れとばかりに魔王様にリアン特製の激甘ミルクティーの入ったマグカップを手渡す。
サクラはテーブルに地図を広げ、バリバリと書き込みをしていた……なんかすげぇ。
「うむ……気が利くのう……これくらいコテコテに甘いとむしろ頭が冴えるのう。
ひとまず、8割方マッピング完了と言ったとこじゃな。
どうもこのフロアは4つのベースがあるようで……例のメガネ犬も40体ほどおるようじゃな……。
もちろん、前より数が多いからのう……さすがに40体全部と戦うとかやっとれんじゃろ。
今のとこ、全く見つからずにゲートまでたどり着くか、せめて一戦程度に出来んか、抜け道を探してもらっとるとこじゃ。
それと、ゲートガーディアンの交代のタイミングも図ってもらっておる……。」
ちらりと地図を見てみると、むっちゃ細かい……と言うか……その通信アイテムって何なんだろ?
巻き貝の貝殻みたいなので、声のやり取りできるっぽい……ダニオといつもやってる念話みたいなもんかな。
前回の失敗の一つに、接敵の合図を打ち上げたんだけど……どうもあれに敵がつられたってのもあったみたいで、何かリアルタイムでの即時連絡手段はないかって話になって……。
そしたら、魔王様が当たり前のように出してきた……魔王様的には常識だったんだとか。
「その通信アイテムって、そんな便利なの? ルーシュやエルフさん達は凄いって連呼してたけど。
私もダニオと普通に通信してるんだけどさ……そんな画期的なものなの?」
「遠く離れた味方と伝令や合図もせずに、リアルタイムで意思の疎通が出来るのじゃぞ?
エスト殿なら、これが如何に強力なものかは解るのではないか?」
「……うん、それヤバい……。
軍勢がタイミング合わせた連携とったり、突撃とか挟撃が伝令や合図無しで即時で出来るんでしょ?
参謀本部の人達が見たら、卒倒するわ……そんなの。
……正直、良くうちの聖国軍もそんなの使ってる魔王軍相手に良く勝てたなぁって思う。」
「ギャプロンは愚かにもこれの有用性を解っておらんかったからのう……。
お主らが戦った魔王軍は寄せ集めで連携も取れておらぬ、言ってみれば雑魚じゃな……あれを見て、侮られておったのであれば心外じゃな。
ワシが統治しておった頃の我が軍勢は無敵じゃったぞ……当時、最大の強国ドルメキア連邦20万の軍勢との決戦。
……イオシス大包囲戦の立役者もこいつだったのじゃよ。」
「うわ……イオシスの戦いって、包囲殲滅のお手本って事で軍事教本に載ってるくらいよ。
確かに僅か二万の魔王軍の動き……軍事的常識ではあり得ないレベルだとか言われてたわ。
結果もドルメキア軍は15万人の損害とか意味わかんないレベルの大損害受けて、魔王軍は1割にも満たない損害だったって……世界史に残る戦いの一つよね……。」
「あれは、軍勢を100分割した上でワシがきめ細かく指示を出しておったからのう……。
なかなか大変じゃったが……あの戦いは補給を断った上で川の側まで誘導した時点でワシの勝ちじゃった。
連中の死人の大半は無理に渡河しようとしたところへ、上流の関を解いた結果、まとめて水に流されたせいじゃ。
あんな大軍相手に真っ向から戦うほうが阿呆じゃが……大軍は余程うまく運用せんと一度崩壊すると手に負えんのよ……。
そうか、そうか……あれも後世の手本となってしまったか。
ワシくらいになると、もう歩くだけで歴史が動くのかもしれんな……なんとも罪深いのうワシも……。
お主らもこの調子だと、歴史に名が残るぞ? 世界を救った偉大なる魔王さくらたんとその仲間と言うことで!」
……うわぁっ……なんか調子乗りまくってる!
でも……実際さくらって結構凄いのかも……。
「よし……待たせたの……完璧なルートプランが完成じゃ……ルーシュ達はすでにわしらを待っておるぞ。
さぁ、ワシについてまいれ……これより、一戦もせずにこのフロアを突破してみせてやろう。
別にこそこそせんでも良いし、トラップも気にせんで良い……。
では、まいろうか……付いてくるのじゃ!」
私とエストも思わず顔を見合わせると、ゴザとかテーブルを畳んで、魔王様の後を追う。
実は荷物なんかは、魔王様の使う異次元ポケットみたいなのに全部ブチ込んだ。
魔王様……チートアイテムのオンパレード。
「凄い……本当に敵も出てこないし、トラップもありそうなんだけど、全然無い……。
どうなってんの? これ。」
「このルートは本来、敵の巡回ルートなんじゃ。
自分達の巡回ルートに罠を仕掛ける阿呆はおらん……ちなみに、ここを使う巡回のメガネ犬は今頃、自分の巣に戻った頃じゃ……まぁ、しばらく時間はある……のんびり行けば良い。」
半信半疑で魔王様の後をついていくだけの私達。
けど、本当に何も起こらない。
そんなとこに道があったのかと言いたくなるような木々の隙間やら、ヤブの中を抜けて……。
時には、例のメガネ犬の背中を見送りながら、私達は何事も無く進む。
やがて、転移ゲートが見えてくる。
やっぱり、誰もいない。
「ええっ……ホントに何事も無くまっすぐ来れちゃったよぉ……。」
エストが感極まったように呟く……。
なにせ、ゲート前と言えば、どのフロアも必ずゲートガーディアンと呼ばれる門番くらいはいる。
それすらも居ないとは……どんな魔法を使ったんだろ。
「ふふん……これぞ無手勝流と言う奴じゃ……戦わずして勝つ。
これぞまさに、至高の勝利と言うやつじゃ、覚えておくと良いぞ。」
どうしよう……魔王様のドヤ顔が止まらない。
「それにしても……ゲートの見張りの足止めのために、敵のベースへの陽動をルーシュらにやらせとるのじゃが。
ちと遅いのう……この調子だと見張りが戻ってきてしまうぞ……。」
「えっ……そんな事やらせたの?」
「うむ、このゲートを抜ける際、敵にターゲットされとるとゲートが開かぬからな。
おまけに、このゲート周辺には常にメガネ犬が巡回するようになっとるんじゃ……他のフロアで言うところのゲートガーディアンじゃな。
じゃから、軽く敵のベースに陽動を仕掛けて、敵の巡回網に隙を作らせたんじゃ。
今、ここに誰もおらんのはそういう事じゃ……まぁ、ちょっと敵を撒くのに時間がかかっとるだけのようじゃから、おとなしく待っとれば……問題ない。」
さすがに魔王様にも抜けはあるようだった……まぁ、しょうがない。
けれども、私はそれを見つけてしまった……こっちに向ってくるメガネ犬が2体!
「魔王様……あれこっちに来るから、先制攻撃で殲滅した方がいいよね?」
そう言うと、返事を待たずに走り出す!
「ちょっ! ロゼ殿! 待つのじゃ! それはほっとけば違う方向へ行くから!
マジで止めてっ! エスト殿……止めてくれっ!」
「えっ? てか……私じゃ追いつけないっ!」
魔王様の制止の声……良く解かんないけど、気付かれる前に一撃で落とせば問題ないよね?
「バーニングフレアソード! シュートッ!」
バーニングフレアソードを発動し、燃え盛るダガーを投げつける!
メガネ犬は装甲内に火が入るとあっさり爆発する……案の定、2体ともダガーが突き刺さると一瞬動きを止めて、同時に爆発する……ダガーもクルクルと回転しながら、私の手の中に戻ってくる。
このダガー、適当に落としても私のところに戻ってくる便利機能がある……ふふん。
……私だって、学習くらいするのだ!
「ロゼのバッカモーンッ! ルーシュ! すぐ戻ってくるのじゃ!
すまんが、ロゼ殿がやらかした! ああ、今の盛大な爆発がそれじゃ……。
とゆーか、手遅れっぽいぞ……大至急、お主らもまっすぐ戻ってくるのじゃ! 総力戦で迎撃じゃっ!」
……魔王様が血相を変えている。
私……別に悪くないと思うのだけど……敵だって、気付かれるより早く倒したし……。
でも……なんだか、遠くからドドドと言う音と共にメガネ犬が束になって押し寄せてきている。
……あ、もしかしなくても私やらかした?
……あんな派手に爆発したら、敵襲って解る……そう言う事?
「いやぁ……魔王様の策を台無しにしたロゼたん……こりゃ、ジャンピング土下座しないとね。」
ダニオの楽しそうな一言。
かくして……だいたい私のせいで、第12層のメガネ犬総動員40機VS私達の決戦が始まってしまった。
魔王様の完璧な策で一フロア完全にスルーと思いきや。
さすがロゼたん……魔王様の思惑の斜め上を行く要らないことするスキルはもはや芸術ッ!




