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 静かなようで凛とした、女性の様に綺麗な顔をした男の子がいた。

 

 何処からか突然現れた白い肌の少年はすぐに私を魅了した。


 それはけして忘れられない、

 

 夏の暑い日に起こった七色の虹を思い出される様な記憶。


    




 やっほ、私、垣内美々(かいちみみ)。


 私はストレートの黒い長い髪をゴムで左右に結んでいる、今はときめく、花の十六歳。


 ここは私の住んでいる街にある、早坂中と呼ばれる比較的小さな学校だ。

授業の前のミューティングの時間。


 「えー、今日は新しいお友達を紹介します」


担任の蒼井先生が彼を呼んだ。


風と共に入ってきた少年。


辺りの空気が変わった。



炎……、



一瞬そんなイリュージョンが見えた。


はっ、と私は頭を振ってそれから逃れた。


転入生の名前は……、谷地(やじ)(ぬま)(よく)()という。


少し蒼色の髪をした背の低い少年だった。カッコいい、というか可愛い。そう言った方が彼には似合っているようだった。背丈は私より低いみたいだった。


翼都君はふわっとした何処か暖かそうで浮いている様なイメージが印象的だった。


 翼都君は私の隣の机に座った。私はと言うと、もう胸の鼓動が止まらなくて……。柔らかい彼の表情を直視できないでいた。


 「谷地沼です、よろしく」


 そう言って、翼都君は私に手を差し出した。にこっと笑って私を見る瞳は琥珀色だ。



 わ、笑った!



笑った彼の艶やかな顔に私の脳がパニックを起こしていた。


ほっそーい手!


可愛い、綺麗!


私の頭は完全にチャームしてしまった。


一時間目の授業が始まっても、隣が気になってしょうがなかった。


彼は転校初めての休み時間、男の子に声を掛けられていた。


私も彼に声掛けたいな。


そうは思っても、中々そう言う勇気もない私。トホホ。

結局、その日に翼都君と話すことは出来なかった。


あー、彼と話したかったなあ。


そう思いながら家路についた私。すると、私の後ろに着いてくる一つの人影。不思議と怖さはなかったが振り返ってみた。


「あ!」


翼都君だ!


「ど、……どうしたの?谷地沼君」


小さい声で話しかけてみる私。すると、翼都君は恥ずかしそうに笑うと、


「ここ……垣内家……ですか?」

「え?……ええ、ここは私の家よ」


わあーい、彼と喋れた。


そんな事を思い心が躍っている私。すると、翼都君は私に近づき、


「良かった、君垣内さんだね」

「え、ええ……美々です」


そうしていると、家の中から親が現れた。


「谷地沼くん、こっちこっち」

「え……?お母さん」

「初めまして、谷地沼です」


翼都君が私のお母さんに挨拶してる。びっくりしている私をよそに、話はどんどん進んでいったようだった。


なんだか、彼、うちの家の居候になるんだって。


家に入る私と翼都君。


ご飯まで時間があるという事で、私の部屋へ翼都君を通した。


「翼都君、……ジュースでも飲む?」


 私はとにかくそう言ってみた。


「うん、ありがとう、えっと……」

「美々よ」

「美々ちゃん。隣の席の人だよね」

「そう、覚えていてくれたの?」


 嬉しそうに笑う私に翼都君もつられて微笑んだ。


 部屋を出る私。



 やった!翼都君と意思の疎通ができた。


 そう思い私は軽く拳を握った。


 

 翼都君は、ただ静かに座っている。

 何を喋るでなし、ただそこにいるだけが役目の様に。


 そうして、一日が過ぎようとしていた、


 その夜、


 「美々ちゃん、君、宇宙人って信じる?」

 「え?」


 その唐突な質問に驚いていると、


 「やっぱり……信じない?」


 私はそう言われて焦った。


 「ええ?し、信じる……って言うか……その……分かんないけど……」

 「けど?」

 「翼都君がいるって言ったら、信じるよ」


 私はそう言うと会心の笑顔をした。すると翼都君も嬉しそうに笑っていた。



 笑った。



 「お、お休み」


 照れて真っ赤になった私は顔を見せずにそう言うと走って自分の部屋に逃げ込んだ。


あー、びっくりした。笑った彼って……。



可愛いっ!



そう思うと、またさっきの様に控えめにガッツポーズをした。

彼は不思議なところがあって、


 ある時は、


 「音って……聞こえなかったら……どうする?」

 とか、


 「地球って平和だね」

 「星、綺麗だね。……宇宙にも人間みたいなのいるかな?」


 とか、彼は奇妙奇天烈な発言を繰り返した。私はその場その場で、しどろもどろになるばかり。


 そういった私の態度に気が付いた翼都君は、俯くと、


 「ごめん……変な事ばかり聞いて」


 と、はにかんだ笑顔を見せた。そう聞いて私は彼の言っていることを理解しようと強く思った。


 「私に何でも聞いて」


 私はそう言って自分の胸を叩いた。


 「うん、ありがとう」


 翼都君は笑みをこぼした。

 

 「行ってきまーす」


学校へ行く私と翼都。私たちは中学三年生。クラスは一組だ。


「ねえ、翼都君」

「翼都でいいよ」

 「うん……翼都、貴方ご両親いないの?」

 「……」


 歩きながら、私は段々真剣になって……、


 「家は?……友達や……親戚は?」

 「うん……」



 困っている、困っているわ。翼都が困っているのよ!


 やめなさい美々!



「ごめんね、気にしないで」

「いや……謝るのは、僕の方さ」


ゆっくりと言う翼都。私の瞳を見据えて、


「僕は、一人なんだ……」

「え?」


その言葉の続きを聞けなかったのは、学校のチャイムが鳴ったからだ。


「急ごう」


翼都はそう言うと走り出した。私は急いでその翼都に付いて行った。


 授業中、私は翼都の横顔を見ていた。


特にカッコいいわけでもない。どこか愛嬌のある華やかな顔つきだった。

隣の席なので、見放題だ。とか、思っていたら、先生に注意されてしまった。


ああー、私って。ショックな私を見つめる翼都。

「美々」

「なに?」

 

「僕に、協力してくれるかい?」

 「え?」


なんだろう。

そう思ったが、結論はすぐ出た。




イエスだ!



「ええ、いくらだっていいわよ」


そう言われて、翼都は少しホッとしたようだった。翼都は屈託のない笑顔を私に見せた。


学校の帰り道、もちろん私は翼都と一緒に歩いていた。すると、翼都は急に立ち止った。



風が出てきた。


「……ちょっと、いい?」

「うん?どうしたの?翼都」


私はそう言って翼都の後を付いて行った。


「翼都、何処まで行くの?」


すると、樹がざわめき出した。何か、黒い空気が立ち込める。


「な、何?」

「やっぱり君も感じるんだね」

「え?」



……翼都……、翼都……!



何処からともなく彼の名前を呼ぶものが……。


「離れないで……いいね」

「う、うん」


何?一体……。


すると、反転したように一瞬で世界が変わった。


あ!


建物も、道も、緑さえ、無機質な世界になった。何かを喋ろうとしても、声が出なかった。


耳が……痛い。


何も聞こえない世界。翼都は、私に気を配った。


大丈夫だから……。


翼都の口がそう言っていた。


無機質……そう無機質。


そう思える世界にいる私たち。


次第に、白い道に人が歩き出した。


なんだろう、ここは。

不思議な所だ。どこか人ではない者が歩いている。


羽根?そう、翼だ。その者たちは白い翼を持っていた。

それが私たちを囲む。



―翼都?


私はそんな焦って近づこうとする彼を不思議に思って彼を見た。彼は何処から出したのか、透明の光る弓を手にしていた。私は彼の元へと走り寄る。



―翼都!


翼のある者たちが剣を持って私に近づいた。すると翼都は剣を持った者に矢を放った。音もなくその者は消滅した。


ここは何?


音のない世界。そんなものに私は戸惑っていた。


すると、翼都が私の元へ。



―美々、僕に捕まって。


そう言ったと感じた私はとっさに彼の肩を持った。翼都は矢を何もない空間に放つ。


すると、その空間が破れた。



ガラスが割れた様に崩壊する世界。



手を差し出す翼都。私はその手を握ると、刹那白い世界が裂けた。



「わっ!」


地球に現れた私たち。空中から地面に落ち、背中を打って痛かったが、


「だ、大丈夫?美々」


やっと彼の声が聞こえた。私は嬉しくなって何度も頷いた。

さあ、帰ろう。あの世界は不思議だったけど、翼都が話してくれるまで待とうと思う。翼都は帰っている途中、ずっと考え込んでいた。なにか喋ろうとしていたみたい。



不思議な翼都が不思議な世界に身を投じていた事について、私でよければ助けになろうと思っている。

家に帰ると、居候の彼は私たちの家族とすっとなじんでいた。

彼を助けよう。彼の力になろう。そんな風に思った。




ある日バスに乗っていた。


私は寝ているふりをして彼の肩に体を預けた。


翼都はじっとしていたが、そっと私の頭を撫でてくれた。なんだか無性に泣きたい気分になった。


けど、泣くなんてしないよ。翼都を信じたいから、彼の行くところ、何処までも一緒に行きたいの。



だから……、



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