パムのライバル? 黒い彗星とブラックコーヒー
グラスをキュッキュッと吹き綺麗に並べる。
コーヒーの抽出機も点検して今日の営業準備は万全だ。
今日来るお客様はどんな願いがあるんだろうか?
そんな事を考えていると店の入口が開かれた。
「やってるかい?」
おかしい……店は営業開始まで人間には見る事も触れる事も出来ないはず……まして店に入ってくるなんて……。
顔を上げて入口を見るとそこには見知った人物が立っていた。
「よおパム、久しぶりだな。 ざっと百年ぶりくらいか?」
「な……なんで……なんでここにいるのさパロ兄さん!?」
「なんでとは随分じゃないか? 久しぶりに会いに来たってのに」
この人は僕の兄のパロ……願いの彗星からはみ出し追放されたはずなんだけど……。
「追放された兄さんがなんでこの地球に来てるのさ?」
「ここは地球ってのか……それに追放ってのは酷いな……俺はちゃんと願いの彗星の仕事をしてるのさ」
「兄さんが願いの彗星の仕事を!?」
「そうさ、だがパムの邪魔をするつもりはないから安心してくれ。 俺には俺に合ったお客がいるからな……それだけ言いに来た。 それじゃまたな」
「ちょ! パロ兄さん!」
兄さんは出て行ってしまった……。
「ちょっとパム、今のって……」
「僕の兄さんだよ……願いの彗星から追放されたと思っていたけど……まさか本当に願いの彗星に選ばれたのか……?」
「大丈夫なの? ライバル出現しちゃったけど……」
「大丈夫さ。 僕達は今まで通りやっていこう」
「わかった」
僕達はまた今夜やって来るであろう願いのある人のために準備を進めた。
「あ〜あ……、ったく……やってらんねえ……」
一人の若者が夜の周りに誰もいない住宅街を歩いていた。
「あの部長もだけど、特にあの新人……少し仕事が出来るからって……ブツブツ……」
少しアルコールが入って少しふらつく千鳥足で文句を言いながら歩いている。
「ふ〜……あん? こんな所に店なんかあったか?」
そこには真っ黒な看板に青と白で【ディスオーダー】と書かれたお店。
「ディス……なんだ? ま、酔い覚ましにでも寄って行くか」
入口のドアを開けると店内は外見と違って煌びやか。
シャンデリア、本革のカウンターチェアとBARにありそうなカウンターがある。
「いらっしゃいませ。 お好きな席にどうぞ」
「ここはBARかなにかなのか?」
「いえ、当店はカフェでございます」
若くイケメンでホストにでもいそうな店主はコップに入った水を出して注文を聞いて来た。
「どのようなお飲み物になさいますか?」
「どのようなって……メニューは無いのか?」
「当店はお客様の要望にお応えしたドリンクなどをお出しいたします」
「それじゃ値段わかんねーじゃんか!?」
「そうですね……ではこちらのコーヒーなどは如何ですか? 一杯200円とお得ですよ」
「それは随分と安いな……大丈夫なのか?」
「味は保証致します」
「ならそれで」
「かしこまりました」
店主は手慣れた感じでコーヒーを淹れている。
使っている道具は……なんだ?
「その使ってるのはなんだ?」
「こちらですか? こちらはネルフィルター……布製のコーヒーフィルターですよ」
「ほ〜ん……上手いもんだな」
「ありがとうございます……、……お待たせ致しました。 どうぞ」
カップに入った一杯のコーヒー。
香りはいいな。
「これはブレンドかい?」
「はい。 当店自慢のブレンドコーヒーです。 ブラックで飲めば酔い覚ましにピッタリですよ」
「そりゃ丁度いい……」
ゴクン……。
「うん、まぁまぁだな」
「おそれいります」
コーヒーを飲みながら店主と話し、今日の愚痴も話していた。
「ごちそうさん」
「ありがとうございました」
店を出て家に帰ると眠気が襲って来たので背広を脱いで直ぐに寝てしまった……。
「ふぁ〜……やべ、寝ちまったか……」
起きて顔を洗っていると、玄関のチャイムが鳴り響く。
「こんな朝早くから誰だよ……ったく……」
ボサボサの頭を掻きながらドアを開けると、後輩が待っていた。
「どうしたんだよこんな朝っぱらから」
「少し早かったですね、すいません。 会社までお迎えにあがったのですが……」
「むかえ? お前が?」
「はい! 先輩にはお世話になっていますから」
後輩は家が駅から遠いので車で出勤している。
けれど迎えなんて初めてだぞ?
「どう言う風の吹き回しだよ」
「俺、少し生意気でした。 反省の意味を込めてこれからは先輩の送り迎えをさせてもらおうと伺ったんです!」
「あーそ……」
よくわからんが、まあいいか……。
この日、後輩は俺の仕事も手伝ってくれると俺は部長にも褒められ、シゴデキな後輩が手伝う程好かれている先輩として周りの同僚や後輩の女子社員からも良い目で見られていた。
「今日は手伝ってくれてサンキューな。 昼は俺の奢りだから好きな物を食べてくれ」
「ありがとうございます! いただきます! やっぱ先輩は最高だな!」
「そうかそうか……」
良い気分だ……昨日とは打って変わってこんなに変わるものかと幸福感を感じていた。
この日から毎日、後輩は俺を持ち上げ俺は順調に出世していった。
「先輩、今日の帰りは呑みに行きますか?」
「いや、お前とはもう行かん。 これからは女子社員と呑みに行く予定が埋まってるからな」
「そ、そうですか……」
「ああ、送り迎えももういいぞ。 タクシーで出勤するから」
「そんな……先輩!」
「あ、そうそう、お前は明日から部署が変わるからな。 俺が推薦しておいた。 楽な窓際にな」
俺は好かれている女子社員と呑みに行き、ホテルへ誘う。
良い気分でホテルへ行き中に入る瞬間、目の前が真っ白になり、目を覚ますと……。
「ん……俺はいつの間に帰って来てたんだ……? ゲッ! 出勤時間ギリギリじゃねーか! あいつ迎えに来ないなんて……って、タクシー使うから良いって断ったんだっけ」
ベッドからノソノソ起き上がり、支度を始めタクシーを呼んで乗り込む。
行き先を告げ会社に到着し、タクシー代を払おうとするが財布の中に現金が無い……。
とりあえずカードで支払いを済ませて悠々と出勤するが、既に遅刻となっている。
どう言う訳か俺には良くわからない……。
部長には怒鳴られ、仕事をこなしている後輩になんでここにいるんだと声をかけるも、周りの同僚から変な目で見られ、気安く声をかけた女子社員には軽蔑の目で見られてしまう。
そした俺の仕事量は前のまま、全く進んでおらず、後輩に手伝いを頼むも断られてしまう……。
「おかしい……俺は……俺はこんなんじゃ無かったはずだ!」
仕事もほとんど後輩にやらせていたためにミスを連発し、いつの間にか俺は窓際の部署に追いやられてしまっていた……。
俺は上司からも同僚からも女子社員からも嫌われてしまって会社を辞めた……。
あの時見た夢をもう一度見るために狂ったように一日中布団で眠るがあの夢は二度と見る事が出来なかった……。
「ふぅ〜やれやれ、やっと一つか……。 まあ、この国にはまだまだくだらない夢を持った奴が沢山いるからな……これから稼いでやるぜ!」
黒く塗られたお店【ディスオーダー】は新しい獲物を探しに消えていった……。
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