店長におまかせ
前回のあらすじぃ!
死んだと思っていた男が生きていて、実は魔族でした
「あぁぁぁぁぁぁ腰がぁぁぁぁぁ!!」
地下の遺跡から魔族の男が姿を消してから、念には念を入れ少し時間を空けてから飛鳥たちはその場から去った。未だ頭がくらくらして歩けないと言ったシェリアを飛鳥が背負い、無事にヘレナとミーシャの待つ馬車へと戻ってきた。
できるだけ早くヘレナたちと合流するために休憩なしで階段上り歩き続けたが、貧弱な飛鳥にとって、それはとても無理なことで、案の定、腰に大ダメージを負ってしまった。
そして、ずっと弱音を吐かず我慢していたが、シェリアを下すと同時に爆発した。腕が、足が、そして腰が完全にいかれてしまったのだ。
「ど、どうされたのですか!?」
とっくに昼食を済ませ、飛鳥たちの帰りを待っていたヘレナが馬車の裏側から顔を出す。血まみれいなり叫ぶ飛鳥の姿から、ただならぬ様子を悟ったヘレナが近づいてくる。
「ヘレナ、問題ない。アスカが貧弱なだけ」
「まったく、たったあれだけでその様とは情けないな」
心配して飛鳥の側で膝を折るヘレナとは裏腹に、シェリアとディノランテの物言いは飛鳥の心を抉るものだった。
「お前らひどくね? 俺めっちゃ頑張ったんだけど……」
仰向けに寝転び両手で腰を抑え飛鳥は言う。
「あの……、いったい何が……」
「ヘレナ、ご飯ある?」
この状況に疑問を持ったヘレナが口を開くが、それをシェリアが遮った。
遺跡にどれだけの時間滞在していたか分からなかったが、確かな空腹感をシャリア以外の二人も感じた。
「え、ええ。戻りが遅かったので冷めてしまいましたが……」
「ん、問題ない」
先ほどまで立つことすらままならなかったはずなのに、シェリアは震える足で立ち上がりゆっくりと歩き出す。それにディノランテも続く。
「はぁ、どんだけ食事に飢えてんだよ……。ヘレナさん、話は食べながら。聞きたいこともありますので……」
飛鳥はシェリアの食に対する強い意志にため息を付きつつ、ヘレナに言った。
「分かりました。では、こちらに……、肩を貸しましょうか?」
「……お願いします」
女性に肩を借りることに情けなさを感じつつも、今はそれに縋るしかない飛鳥は心の涙を流すのであった。
―――――
「と、いうわけです」
もはや身体の不調などまるで感じさせないシェリアが食事を掻き込む横で、飛鳥はヘレナとミーシャに何があったかを説明した。
話し始め、ヘレナは遺跡のことを聞き目を見開いた。そして、眉間にしわを寄せ顎に手を置き、黙って話を聞いていた。その態度はヘレナがあの地下遺跡を全く知らなかったことを意味していた。
話が終わると手を膝の上に戻しディノランテに目を向ける。
「殿下は、その……、本当にその遺跡について何もご存じないのですか?」
「あぁ、全く知らん。ミーシャはどうだ? この場所はどちらかと言うとシリュカールよりもガルマインの方が近い。何か知っていることはないのか?」
ディノランテは背後の馬車にもたれかかり腕を組むミーシャに尋ねる。
「いや、私もないな……」
二人の話を聞きヘレナは再び黙り込む。
「やっぱりヘレナさんも知らないのですか? キセレから何か聞いてたらは……?」
なおも口を開かず首を横に振る。少しの間、シェリアの皿と箸の音だけが響き、ようやくヘレナが立ちあがる。
「呼びましょう」
「呼びましょうって……、誰をですか?」
飛鳥はお茶が注がれた湯飲みに手を伸ばしながら尋ねたが、ヘレナの頬には一滴の汗が伝っていた。
「……店長、ですよ」
重たい声色で呟くと、ヘレナは馬車の荷台から一本のペンを持ち出した。比較的、草花の少ない場所を選びしゃがみこみ、手に持ったペンに聖術気を流しと、すらすらと『空間転移法術』の副陣を描いていく。
副陣の術式を書き終えたヘレナは立ち上がり、ペンを懐にしまい膝に付いた細かな草をはたき落とす。
「では、行ってきます。すぐ戻るつもりですので……」
「分かりました。何もないと思いますけど、お気をつけて」
「バイバイ」
副陣の前に立つヘレナに飛鳥とシェリアがそれぞれ声をかけると、一つお辞儀をし、光る円環の中へ消えていった。
「アスカ、どうしたの?」
ヘレナが消えたと同時に術式陣がゆらゆらと消滅する。それにより宙を漂う聖術気をぼんやりと眺めていた飛鳥にシェリアは声をかけた。
「え? あーいや、特に何にもないんだけどさ……」
飛鳥は腕を組み続ける。
「シェリアも知ってるだろ? 遺跡とか珍しいものに対するあいつの狂いっぷりを……さ」
「ん、なるほど……」
キセレは一般的には情報屋として名が知れ渡っているが、その実態は単なる情報マニアである。世界に未だ解明されていない謎や、世界各地に点在する遺跡。その全てがキセレの調査対象なのだ。
「ニヴィーリアに向かう俺たちにとって、もしあの遺跡が全く関係ないなら予め知らされていないってことも納得なんだけど、ヘレナさんも知らないならキセレも知らない可能性があるんだよなぁ……」
「それは……、まずい。私たちそっちのけになるかも……」
「だろ?」
飛鳥とシェリアは同時にため息をつく。
一刻も早く天空国家ニヴィーリアを囲む山脈に辿り着かなければならない。だが、もしかしたらこの場所で何日も遺跡調査に付き合わされると思うと憂鬱でしかないのだ。
「なんだ、キセレ殿はそんなに厄介な性格をしているのか? 魔族にも色々な者がいるのだな」
言いながらディノランテが湯飲みに口を付ける。
「あれ、ディノってキセレが魔族ってこと知ってたのか?」
「あぁ。先日、父王の下に現れたキセレ殿を遠目に見たと言っただろう? その時はキセレ殿の聖術気が他人とは違うということは気付いていたのだが、それが魔族のものだと分かったのは少し経ってからだったがな」
「へぇ……」
頬杖をつきながら飛鳥はディノランテの話を聞いていた。聞いてみると、キセレが魔族だと知っている者は極めて少ないことが予想できる。
まぁ、考えてみれば魔族を忌み嫌っている人間の中で正体をさらけ出して暮らせるとは到底思えない。キセレ本人がどれだけ無抵抗を主張しても、魔族が全ての生物の共通の敵であるという事実を拭い去ることは出来ないのだから。
その後、四人は四方山話に花を咲かせ、ヘレナが戻るまでの時間を潰していた。
そして、ヘレナが『空間転移法術』を起動してから一時間が過ぎようとした頃、消えた副陣が姿を現した。
副陣を中心に周りに風を撒き散らし、陣を巡る聖術気の光が下から上へと照らす。
その中から一つの影が現れる。
「すみません。だいぶお待たせしました」
ヘレナが術式陣の中心から現れる。その顔はつい先程と比べ、ひどく疲れた様子だ。
そして、ヘレナが陣の外へ出て膝をつき項垂れると同時に、その後ろから、それはもう大きな影が現れ、術式陣は消え去った。
「やぁ、おまたせ。久しぶりだね!」
大きなリュックを背負い、肩から三つのカバンを下げ、それでも間に合わなかったのか両手にハンドバックを携え、その男は現れた。
ボサボサの髪に全く手入れをしていない無精髭。だが、その目はいつもの疲れた目ではなく、遠足に心躍らせる少年のようにキラキラと輝いていた。
「相変わらずきったねぇ面してんな、キセレ……」
「君はしばらく見ないうちに口が悪くなったね。いや、こんな感じだったかな……?」
飛鳥とキセレ。二人は互いに不敵な笑みを浮かべる。
それが、この二人の捻くれた挨拶だということをディノランテはすぐに理解したのだった。




