98 決闘。
読者の皆様どうもこんばんは。投稿ギリギリセーフですよね?……いつもよりちょっと遅いのは気のせいと言う事にしておいて下さい。すいません…
さて、今回はタイトルそのままです……戦闘得意ではないですが、頑張りました。温かな目で読んで頂けたら幸いです。
それでは本編をどぞ!
……………(三人称)……………
“完全密室の亜空間。”
それがその場に敢えて名をつけるならば相応しいだろうか。
そこは周囲との流れる時間が異なる……周囲と比べて時間の経過が何倍にも早められている内部。
そして、その割に一件穏やかに見える内部…壁が白く床が灰色のありふれた地味な部屋で、特に何の異常も感じられない。
それこそラウツェンスタイン領の一般的な訓練施設の部屋とそこまで内装は変わらない。
だが事実、そこは『異常』の一言に尽きた。
内部は確かに穏やかだが、それが外部に適用されているかと問われればそれは違うと答えざるを得まい。
何せ、周囲には無理矢理時空を引き千切ったかの様な痕跡が有る…そこは何処までも暗く、そしてうねり蠢く闇が靄として部屋を囲っているのだ。
その様は今にも空間の乱れを正すために時空の違う亜空間自体を消滅へと導こうとしている様にも見えた。
まあある意味正しくは有る……
間違いなく落ちたら最期、何処へ飛ばされるか分からない不安定は所なのだった。
だが、その闇より更に暗いナニカが姿を現した。
無理矢理空間を突っ切って来た様で、息を切らしている謎のどす黒い靄が突如として部屋の中央へ姿を現した。
それを見詰めるは、部屋に元から居た少年。警戒する様に靄に向かって刀を向けて…は居ない。
ひたすら穏やかな表情をしていた。
靄が一点に集中する様に集まり形成したのは、1人の青年……何故か少しふてくされた表情をしていた。
対照的に表情を変えない少年…見た目は若造その者だが、青年より何処か落ち着きのある老成した雰囲気を醸し出していた。
やがて、青年の顔が見えると納得した様に1つ頷く。
「………やはり来たか…」
「!!……気付いていたか。」
方や紅目黒髪の東洋人風の男。方や銀髪青・緑オッドアイの西洋人風の少年。
対峙する2人の目は真剣そのもの……だが、未だ2人の間を流れるのは静寂の穏やかな空気。
正に嵐の前の静けさのみが、空間を支配する……
そう暫くした後、2人は視線を一瞬だけ逸らす…そして次に2人の目に宿っていたのは好戦的で純粋な『闘志』。
途端、空気がビリビリと震えた。
「ヴィンセント……」
「ジャンクリ、か………」
互いの名前を呼ぶと同時に更なる鋭さを含んだ闘気。
……既に純粋な闘気ではなく、それは最早殺気と違わぬ程であった。
暫く緊迫した空気が続く。
そして、それをクリスと呼ばれる青年が解いた……はっきりとした低い声を響かせて。
「言葉にしなくても分かっているだろうが、敢えて言わせてもらう。
これは『決闘』だ。」
少年が頷くのを見て、彼はそのまま続ける。
「これは完全に対等な決闘だ。
互いに互いの力も技も…それこそ命も惜しまず自分の文字通り全てを賭けての戦いだ。
だから俺も妥協はしない。
何方が生き残っても恨みっこ無しだ……例えその相手がルーナと将来結ばれたとしてもな。
だが“取り込まれる”のが何方かは、この段階では分からんが。」
好戦的な笑みを浮かべる青年。
「ああそうだな……望む所だ。」
少年も同様な笑みを浮かべた。
そして笑みを深めながら2人は対峙しつつ距離を取った………暫く移動しながらの睨み合いが続く。
次の瞬間2人はカッと目を見開き、互いの距離を一気に縮めた……そして瞬く間もなく鋭利な刃が飛び交う。
キィン、カォン、ギリリリリリ…フォン、キィン、カィン
上段、下段、中段………構えを変えながら相手の隙を着く様に押し出された刃へと相手の刃がぶつかる。
刀が交わる度に、鮮やかな火花が散った。
そして時折互いに責めあぐねて静かに対峙する。
静寂と躍動が繰り返され、明らかに戦い自体を楽しみつつ有る2人……だが、決着は着けねばならない。
その為の決闘なのだから……
だからなのか、2人は次の瞬間刀を捨てた。
そして始まるのは何でもありの組手………より実践的で相手の急所を狙う様な、汚い“試合”と呼べない何か…
いやそれでこそ命をかけた『決闘』か。
捨てた刀を拾い上げて相手へと投げたり、仕込んだ暗器を相手へ組み付いた隙に急所へ突きつけたり。
だがそれらを互いに躱し合った。
結局実力は互角、そして何故か対峙している相手が次の瞬間何処を狙っているのか“分かる”状況。
決着がつく事が無く、更に魔術も交えて戦闘は続いた……だがそれでも決着が着かない。
相手が火を出せば吹雪を掛け、雷を出せば温度を上げる。
刀や暗器が次の瞬間自分の何処を狙って放たれるか分かるから反撃しつつ互いの攻撃を躱す。
そうして到頭、2人は最後の武器を取り出した。
それは2人がかつて、最愛の女性からプレゼントされていたもの……最後の瞬間まで自分が側に居なくても自分の身を自分で守れる様にとその女性が願いを込めて2人へ送ったもの。
同時に、日本における江戸以前の時代戦争で相手に負けると自分の家族や家の誇りを守るため、そして義理立てする為に使われたとある自殺道具……
それは『懐刀』。
既に所々傷だらけで体力的精神的限界を既に越えた2人は、これで決着をつけると決心していた。
「行くぞ……」
「…ああ……」
最初に見せていた試合じみた上品な刀の応酬とは違い、本気で相手を頃しに掛かる泥臭く汚い何でもありの武闘。
「チェァァァァーーーーーッ!」
「シャァァァァァーーーーーッ!」
一心入魂して互いが突き出した小太刀は、互いの急所を抉り合った……決闘を開始して体感時間3日目にして、はじめて負った重篤な怪我。
だが、そんな事構わず2人は命を燃料に闘気を燃やし小太刀を振るう。
何度か刃を互いに浴びせて行き、到頭互いの心臓へと小太刀が突き刺さる……決闘の終焉だ。
それはほぼ同時……だからこそ決着がついたのだろう。
心臓を貫く小太刀を強い痛みに耐えて抜いた際、治癒の術式が間に合わずに片方がドサリと倒れた。
「…………ゴブッ……俺の負けか。」
清々しい顔で一言呟き、青年は倒れた。
「私の勝ち、だ……」
だが、少年も同時に倒れた。
青年も少年も、決闘が始まる前から身体が既に限界寸前の所まで追い込まれていたのだ……無理も無い。
方や不治の呪い、方や試練の直後………元からボロボロだったのだ。
そして、青年は呟く。
「……俺が言えた義理も無いが、アイツを泣かせるな。」
「ああ……努力はする。」
「そうか。」
安心した様な声の後、やがて青年は息を引き取った。
「………逝ったか。」
少年は怠い腕を上げ、目からでて来た塩水を拭き取る……そして無理矢理口角を上げる。
「努力はしてみる、我らを見ていろ。」
次の瞬間、青年の姿は決闘前の靄となる………そしてそれが全て少年へと流れ込んだ。
「?!………〜〜っ」
少年は一瞬もがき苦しんだ……まるで何かに耐える様に、取り乱した表情をして。
痛みや苦しみを全て耐える様に。
やがて声にならない悲鳴を上げる彼の魂。
彼は到頭気絶した………気絶と同時に切り離される彼の魂と呼ばれるデータの塊。
肉体は魂が離れると同時に消滅した。
彼の魂は様々な輝きを放ち、そして点滅を繰り返した……まるで、何かを融合するかの如く色が混じって行く。
最初は青と緑の2色だった光りへ新たに加わったのは紅。
やがれそれも収まる。
魂を核に空間内部に靄が生じる……黒ではなく灰色の靄であった。
それが魂へと集まり、やがて肉体を形成する。
青年の姿に酷似しているが、それはどこか少年を成長させた姿にも見えた。
そして暫く時間が経ち、青年と少年の狭間に立つその者は目を覚ます………不思議そうな表情で。
「成る程な……俺も私も同じ、か。」
納得したかの様に一言呟くと、彼は空間から飛び出した………元の世界へ戻る為に。
彼は彼を待つ、彼の…彼らの愛し、愛する者の元へと真っ先に掛けて行ったのだった。
ジャンクリ暫くさようなら………そしてヴィンセント殿下もさようならの回でした。
こうして彼らは融合し、1つの”個人”へとなりました…『俺』も『私』も同一人物。ゆえに、ただのさよならではないですけどね。
さて、次回はルーナちゃん再び登場します……多分。それではどうぞ宜しく御願い致します。




