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素顔
ブレーキをかけた後、彼の肩は上下に浮き沈みしていた。
……自転車を降りた私も。
「怖かった」
顔を見合せ、かすれた声で本音を口にしたのは彼の方。
ふたりで腹を抱え、笑いあう。
「渡良瀬さんが煽るもんだから」
笑顔のまま口を尖らせ、責める口調で彼は言う。
「ずるい。私だけのせいにするの?」
「いや、だって……」
叱られた子供のように、わずかばかり彼は視線を落とし。
「……同罪、だからな」
その一言で私たちふたり、また笑い転げた。
マスクを外し、何の屈託もなく傷痕も隠さないままに。
上手に笑えてただろうか――?
雲間から降り注ぐ、木漏れ日にも似た淡い日射しに照らされて。この街がちょっぴり、私を受け入れてくれたような。
久しく見ていなかった、晴れ渡る景色を垣間見た気がした。




