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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
悠久忘れぬ■■の景色
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79/116

目前

どうも、作者です。七十九話です。

「――さて、今日でダンジョン前修行は最後ですが、準備はいいですか?」


ダンジョン攻略三日前、今日が修行の最終日、俺とクランはハイカさんの前に立っていた。最後、俺たちがどれだけ強くなったかを確かめるために。


敵はハイカさんのみ。こっちも俺たち二人だけ。こっちは二人がかりだが、それでも足りないくらいだ。


俺たちは、武器を構える。それを準備完了の合図と受け取ったハイカさんもまた、今まで使っていた練習用の件ではなく、普段から使っている剣を構える。本当の真剣勝負だ。


(ハイカ殿に勝つぞ……泉)


(ああ)


クランの言葉に短く答え、少し深呼吸する。負けることは、考えるな。


「そ、それじゃ……はじめ!」


エフィの合図とともに、クランが突っ込む。ハイカは待ちを選択し、クランの渾身の一振りがハイカの頭上から襲い掛かるが、ハイカは最小限の動作をもって避け、クランにカウンターを与える。


今までなら、それに対応できなかった。だから、出し惜しみはしない。


『『交換(チェンジ)』』


クランと俺の位置を入れ替える。構えた盾でハイカの一撃を防ぐ……! 相変わらず重い!


『縛れ』

魔鎖(チェーン)


今度は鎖で縛ろうとするが、ハイカはぶつかった盾を利用して体を空中へ放り上げアクロバットで避ける、その上で頭上を取られた……!


(何じゃその動き!)


だが、盾をハイカの動きに合わせて上に構える。それに……


『燃やせ』

火炎(ファイア)


近づいてきたクランの炎がハイカを襲うが、ハイカはその炎の方向を向くことすらなく、手だけを向け、


『吹け』

突風(ウィンド)


風の簡易魔法をもって炎を相殺し、そのままもう片方の手に持たれた剣を、俺の盾をすり抜けこちらの左腕を切る。


しかし、そこで動きは止まらない、着地をすると同時にその動きの反動を利用して今度は近づいたクランを間合いに入れる。まずい!


『『交換!』』


もう一度クランと位置を入れ替え、盾で受けようとするが、その動きは見切られていた。上段に構えていた剣を一瞬で下段に切り替え疎かになっていた足元に一刀入れられる。だが、それでいい。


開放(オープン)!』


俺は盾で受けている間に『設置』したその魔法を開放する。その名は『脱兎跳躍(ラビットジャンプ)』。発動と同時に一度だけ強力な跳躍力を得られるその魔法を、クランに授ける。


その一度をもってクランはハイカの元へと近づき、その反動を利用した渾身の一撃をハイカに入れる……これもダメか……!


「いい一手です」


ハイカは剣の腹をクランの槌に合わせ、軌道をそらし、その動きにつられ無防備となったクランを上へと蹴り上げる。


痛みのフィードバックは俺にも来るが、俺たちはその痛みを刹那にも満たないその時間で押し殺し、次の一手を練り上げる。”上”ならば、可能性はある。


『『っ交換!』』


俺はハイカの頭上に、クランは目の前にその位置を変える。


『種よ、芽吹け。そして敵を打て!』

木打(プラントストライク)!』


「!」


クランはその蔓を”攻撃”するためではなく、閉じ込めるため、ハイカの周りを包囲する。攻撃が当たらないのであれば、当てるのではなく囲み、その後確実に当たるようにする!


俺は盾を地面に、厳密にはハイカに向ける。ただの自由落下、しかしそれが九十キロはある盾となれば、その威力はすさまじいものとなる。


これが、今俺たちができる限界だった。攻撃は当たらず、防御は抜けられるのであれば、いくらでも搦め手を使い、自分の身すら囮に使い、そして自分たちの手札を全て切る。彼女に勝つのであれば、すべて使うしかない。


「十分です、ですが」


盾はすさまじい速度でハイカに向かうが、しかし彼女はそれ以上だった。周りを囲んだ木の柱の一本に向かい、剣を突き刺す。クランは咄嗟にその木をもって彼女を殴打しようとするが、彼女はそれもやはり動きを知っていたように避け、そのまま切り倒す。そして、次から次へと襲うクランの操る植物を気にも留めず、避け続ける。


つまり……彼女は俺が来るまでの少しの間に包囲を抜けていた。そして、落下しきるころには、俺の隣に立っていて――首筋に剣をたてていた。つまり、俺は立ち上がる隙すら与えられず、実質死んでいた。


俺が死ぬということは、クランも死ぬということだ。つまり……


「わしらの……負けじゃ」


「ありがとうございました」


ハイカさんは剣を納め、俺たちに礼をする。俺は仰向けになり天を仰ぐ。クランも力ないままへたり込み負けた悔しさをかみしめていた。


「す、すごい……ハイカさんもだけど、二人もすごかった」


確かにこの一か月で、随分と力をつけた。最初のころだったら、最初の一手で負けていた。それに比べればずいぶんと進歩したといっていいだろう。


この五週間、しごかれた甲斐があったというものだ。ずいぶん長かったな、この一か月。まぁそもそもこっちの世界の一か月は五週間だからそれはそうなのだが。


「ええ、二人とも一か月とは思えないほど成長しましたね。環境は整っていたとはいえ、すさまじい進歩です」


実際、ハイカさんに指導してもらうだけではなく、ヒビキさんにもかなりアドバイスをもらったし、二人で毎日毎日自分の動きの悪い部分を言い合った。やはり他人の視点から自分の動きが見えるというのは、かなりのアドバンテージだ。


それでも、一矢すら報えなかったわけだが。


「ふたりがかりなら……私をそのうち越えられそうですね……ですがやはり、私としても防御面や、クランさんの動きに関してはまだまだ指導能力不足ですね。特に泉さんはタンクの専門家にみてもらった方がいいのですが」


確かに、ハイカさんは何処まで行ってもアタッカーだ。つまり、元よりタンクは専門外ではある。


「だけど、今度のダンジョンを攻略するには十分だろ」


そう言うのはアメイ。アメイがそう言うなら大丈夫だろう。


「ヒビキ殿は何かあるかの?」


すっかりヒビキさんにアドバイスを求めるのを躊躇わなくなったクランは、ヒビキさんに話しかける。負けてしまったが、まだ強くなれるだろうと、クランを見て思った。



――俺は話し合っているクランたちを遠巻きに見ていた。ヒビキやハイカと違って、俺じゃやれるアドバイスもないしな。


「皆さん、本当にすごいですね……僕なんか」


そう言って下を向いているのはエフィだ。本当に魔王にしては自信がなさすぎるなこいつ。俺なんかよりよっぽどすごい魔力を持って、すごい魔法が扱えるっていうのに。


俺は隣でそんなこと言ってるそいつの頭をがしっと手を当てる。


「ぎゃふ!」


「そんなこと言うんじゃねぇよ、お前がそれじゃ俺の立つ瀬がない」


そう言うと、きょとんとした顔をしたまま、何を言ってるのか分からないなんて顔をしながらこっちを見てくる。


「アメイさんは、十分できていますよ……僕なんかより」


……はぁ、今ここでこれ以上言っても意味がない気がして、俺はとりあえず隣に座り続ける。もう少し、自分を慰めればいいのに……気持ちは、分からないでもないが。


やはり、誰かの役に立ちたいものなのだろう。特に、自分より輝いてるやつが、あんなにかっこいい姿を見せつけてくるのなら。


「準備、ちゃんとしとけよ」


「……はい」


目的が分からなくても、劣等感を持っていても、歩み続けているやつらは止まってくれやしない。だから、停滞は許されない。俺たちは、あいつらについていきたいんだから。ダンジョン攻略は、目の前だ。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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