ギルドへの攻撃
どうも、作者です。五十一話です。
「――これはどういう状況だ?」
「あ? いつもの喧嘩だよ! いつもより激しいがな!」
それはギルドの前の広場のようになっているところ、そこで十人ほどの冒険者たちが殴りあっている。これは……いつも起こっている喧嘩なんかよりよほど激しい。
これは、大丈夫なんだろうか。何よりここはギルドの前だぞ。流石にまずくないか?
「ヒビキさん」
「これは、ギルドはどうなっているんでしょうか?」
少し周りを確認する。周りはヤジを飛ばしている人が半分。ギルドに入れなくて苛立っている人が半分といった具合。
まずいな、なんとか収めた方が良さそうだが。しかし、俺も人を抱えているし、ヒビキさんを置いていくわけにもいかない。
それにしても周りの野次がやかましい。こんな状況でも祭り騒ぎになるのはいい部分もあるが……悪い部分でもあるな。だが、本当にどうすれば……
――ギルドの扉が開く。その瞬間、空気が凍りついた。今この瞬間、その一瞬だけ、その場にいる全員の思考がシンクロしたのが分かる。”まずい”と。
明らかに苛立ちを抑えられていない眼光、表情筋が硬いはずのその顔は、今にも怒りで世界を燃やし付きそうな顔だった。
「冒険者の皆様方……ギルド本館及び本館前広場での暴力行為はおやめください。”相応”の処置をしなければならないので……」
明らかに怒気を抑えた声。それを聞いた冒険者たちは喧嘩をやめて、ヤジを飛ばしていた人間たちはそそくさとその場から立ち去っていく。
だが、それでも止まらない冒険者がいた。恐らく、抱えているこいつらと同じタイプ、いや他の奴もそうなのだろうが、特に薬が効いているやつがいる。
その冒険者が狙ったのは動きを止めた冒険者に殴りかかる。まずい、ハイカさんは強いとはいえ、肉体の性能は一般人レベル。あの距離からでは間に合わない。
どうする。無防備な状態の冒険者は、咄嗟のガードすら取れていない。このままでは大けがでは済まない。かといって、今の俺は両手がふさがって――あ、そうだ。
「ふん!」
俺は右側に持っていた人間を放り投げる。
「――え?ぐが!」
襲い掛かろうとした冒険者にぶち当たり、そのまま倒れる。投げた冒険者はうん、流石にすまないとは思うが、迷惑料代わりだ。昨日の件はともかく、今日の件はこれでチャラにしてやろう。
「イズミさん……思ったより思い切りがいいですね」
「よく言われる」
とりあえず、放った冒険者を回収して、ハイカさんに近づく。
「ハイカさん、大丈夫か?」
と言っても、別にハイカさん自体は特に喧嘩には巻き込まれていないが……どっちかというと、心労が気になる。
「泉さん、ありがとうございます……というか、その人……」
まぁ、そこだよな。
「――なるほど、迷惑をおかけしたみたいで申し訳ございません」
そう言いながら頭を下げるハイカさん。別にハイカさんが悪いわけじゃないのだが。
「とはいえ、薬かなにかを使われて、思考力が低下している……ですか」
あの冒険者たちは、どうもなにかされて薬を飲まされて、通常ならしないよう動きをするように仕向けられているのは間違いない。
「思考力が低下しているというよりは、恐らく思考を誘導されている可能性があります」
ヒビキさんは自身の考察を述べる。だが、さっきの感じだと、薬か何かで思考力が低下させられていると思ったのだが。
「思考誘導?」
「ハイカさん、先ほどギルド前にいた冒険者の人たちは?」
「全員拘束していますが」
「なら、彼らを後で見せてもらうと助かるのですが……恐らく、私が連れてきた冒険者と同じような状態になっているはずです」
まぁ、そうだろうな。今まで冒険者たちはいたるところで喧嘩はしていたが、ギルドやギルド職員の前で大々的に喧嘩していたことはなかった。
それがこうしてギルド前で喧嘩していたのだ。しかも、昨日あんなことがあった後で
「ギルド前で喧嘩していたのこと、それがおかしいんですよ。確かに思考力が低下して、本来ならやらないような場所で喧嘩をしていた、というのはあり得るでしょう。しかし、ギルド前で喧嘩が起こる、というのはあまりに偶然が過ぎる」
「……なるほど、相手の狙いがギルドへの”攻撃”だとすると、あまりに都合がよすぎる」
確かにそうか。思考力が”低下”しただけでギルドに負担になるようなことをピンポイントで起こる、なんてこと自体がおかしなことなのか。
「何より……ヒビキさん、起きている冒険者の口を解いてください」
そう言われたので、俺は魔法使いの冒険者の蔓を取る。男はやっと気楽に呼吸ができると大きく息を吸って、困惑の顔に変わる。
「きゅ、急になんだよ……」
「あなたは、彼女のこと知っていますか?」
そう言って、ハイカさんは冒険者の目線をハイカさんに誘導する。ハイカさんは冷たい視線のまま、作り笑いを浮かべる。冒険者は青ざめ、死にそうな顔になる。
「”ギルドの怪物”……まさか、あいつが喧嘩売った相手って……」
「そのまさか……ですよ」
冒険者はそれを聞いて、諦めたように天を仰ぎ涙を浮かべながら、罰を待つしかないようだ。可哀想だが、まぁドンマイだ。
それに、操った存在さえ見つかれば情状酌量の余地もあるだろう。頑張れ。
というか、あのハイカさんに殴りかかった冒険者、思考誘導されてるどころか……
「あのハイカさんに喧嘩を売った冒険者……記憶消されてるんじゃないか?」
「その可能性が高そうですね。ただそれを差し引いても、やはりギルドで問題が起こるのは都合がよすぎるでしょう」
その通りだな。だが、少なくとも広場での喧嘩で完全に理解した。これは間違いなく、
「ギルドへの攻撃ですね……。しかもギルドマスターの不在を狙って、の。となると相手は」
「聖王国アウラスならびに、属国のこの国、レディポートでしょうね」
聖王国、前にもその名前を聞いた気がする。
「その聖王国って」
「人間種最大の国家で、この街があるレディポートから西にあります。世界で最も青月の女神を信仰している国ですね。そして、ギルド”セントラルフラッグ”とは、かなり仲が悪いです」
「いわゆる犬猿の仲というやつです」
一つの国家と犬猿の仲になるほどのギルドとは一体何なのか。まぁ、それはいいとして、なるほど、それなら納得だ。
「というか、なんでそんな犬猿の仲の聖王国の属国にこの街があるんだ? 国営ギルドがあるんだろ?」
確か、レディポートは国営ギルドがあったはずだ。それだったら、このダンジョン街もその国営ギルドがあるんじゃないか?
「そこら辺の話はかなり複雑なんですが……そもそも、レディポートのギルドは、聖王国のギルドです。つまり、レディポートの今のギルドは属国化した後にできたものですが……このダンジョン街ができたのはその前です」
つまり、国営ギルドができる前からこのダンジョン街はセントラルフラッグが管理していたから、そのままセントラルフラッグが管理している、か。
「その上で、レディポートはこの街の税金で成り立っている部分があるので……聖王国にとっては目の上のたんこぶ……というやつですね」
なるほど。色々と面倒くさそうだ。あんまり関わりたくないんだが……多分勇者の新は、その聖王国の国営ギルドに所属しているし……未来さんと青月の女神って敵対しているんだよな。これ、どう足掻いても俺、巻き込まれないか?
「ちなみに、聖王国は宗教国家、青月教会の国なわけですが、青月教会は魔族排斥を掲げています」
クランの問題もあるのかぁ……! いろいろと問題しかないなこれ。
「とにかく、色々とご迷惑おかけしました。ここからはギルドの方で対応させていただきますね」
「ああ、でも手伝えることがあったら手伝うからな。俺たちの方こそ色々と世話になっているし」
ヒビキさんは照れくさそうに頬をかいてお辞儀をする。
「そうさせてもらいます」
「ああ」
とりあえず、今日のところは帰るとしよう。俺たちの方も警戒しなきゃな。
「アイカにもよろしく頼む」
「……ええ」
やっぱり、まだ喧嘩中か。早くよくなるといいんだが。どこもかしこも喧嘩だらけで嫌になるな。
――それは、それから少し後のこと。俺たちは、ヒビキさんの所に駆け寄ることになる。しかし、そこで言われたのは、頼みの言葉ではなく、拒絶の言葉だった。
「その件は、解決いたしました。ですので、ご心配なく、今まで通りクエストをお受けください」
そこに広がるのは、いつもと変わらない冒険者ギルド。一つだけ違うのは、あの元気な声が聞こえないことだった。
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