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【全24話・毎日18時投稿】異世界よりもヤバいとこ〜バグってはいけない警察学校〜  作者: いふや坂えみし
第一章 平成三十二年十月一日

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第六話 今日を乗り越えられない

 

 テーブルクロスを手に持った学生たちが手洗い場へ向かう。キッチンワゴンを確認していると食堂の入口の方から、


「お疲れ様です!」疲れ様で「様です!」れ様です!」です!」疲れ様です!」


 挨拶の絶叫が反響のように連なって響く。水色のジャージを着ている学生の集団だ。顔立ちが若い。おそらく高卒枠の学生たちだろう。ちらちらとこちらに視線を向けながら、手洗い場に並んでいく。一部の学生だけが椅子を降ろし、遅れて手洗い場へ向かう。効率化のために分業されている様子がうかがえた。


 やがて黒ジャージの学生たちが戻ってきて、平沢を見つめる。指示を待っているのだろう。だが平沢自身、誰かの指示が欲しかった。


「お盆にお皿と茶碗とお椀を入れて、カウンターで食事を受け取ってください!」


 次々と戻って来る学生たちに、同じ内容を繰り返し伝える。テーブルクロスを絞ってきた学生には、テーブルを拭くよう指示を出す。


 ところが、食事を運びに行った学生がすぐに戻ってくる。


「お盆に同じ食器を入れて持って来いって怒られました」


 その後も、食事を入れてもらえなかった学生たちが続々と戻って来る。——何もかもうまくいかない。


「すいません、指示を変更します!お盆には同じ種類の食器を入れてください!」


 お皿だけ、お椀だけ、茶碗だけ。それぞれ一種だけを載せたお盆を持って、学生たちが再びカウンターへ向かう。


「俺、いまやること無いけど、なんかやる?」


 間延びしたしゃべり方をする西島が近づいてきた。


「それじゃ、箸をお願い」


 平沢は西島に、箸が大量に入った箸入れを手渡した。手持ち無沙汰な学生は意外と多いようだ。食事を配り終えたら作業もひと段落のはずだ。


「お前ら一旦、手ぇ止めて席につけ。全員だ、全員。急げぇー!」


 食堂にただ一人いる教官が声を張り上げる。今度は何が始まるのかと警戒しながら、平沢は席についた。カウンターで食事を受け取っていた学生たちも、遅れて着席していく。ふと見ると、青色ジャージの学生が、壁時計のかかった柱の前で気をつけの姿勢を取っていた。


「黙想!」


 その学生の声が響く。


「全員、目ぇつぶれ」


 教官が続けて命じる。静寂が食堂を包んだ。


 平沢の内に説明できない不安が生まれ、そっと息を細く吐いた。目を閉じて一分ほど経った頃、複数の足音が近づき、通り過ぎていく。控えめに響く着席の音。


「黙想やめ!いただきます!」


 柱の前の学生の掛け声に、青色ジャージの学生たちが一斉に『いただきます!』と唱和した。途端に、彼らのテーブルから談笑と食器の触れ合う音が立ち始める。


「平沢ァ!急がねぇと飯食う時間なくなるぞ!」


 名指しされ、平沢の胸に焦りが募る。


「⋯⋯はい!手の空いている学生は、そのまま席についてください。食事が足りない分は、引き続き取りに行ってください。私は手を洗ってくるので少し離れます」


 せめて、正解を知っておきたい。平沢は手洗い場へ向かいながら、青ジャージの学生たちのテーブルを横目で盗み見た。テーブルの上には、箸、皿、お椀、茶碗——それはいま自分たちが用意している。あとは、ポットと湯呑みが足りない。先ほど食堂内を通り過ぎたのは、教官たちだったようだ。


 手洗い場で手を洗っていると、頭痛を自覚した。脈打つたびに頭がガンガンする。煩わしい。痛みを無理やり無視して足早にキッチンワゴンへ戻る。


「手の空いている学生、カウンターのポットをテーブルへ運んでください。それと、各テーブルから一人、お盆にテーブルの人数分の湯呑みを載せて持ち帰ってください」


 学生たちは素早く動き、配膳も無事に終わったようだった。だが、食事がいくつか余っている。指示が悪かったのだろう、誤って多く受け取ってしまったようだ。そこまで頭を回す余裕はなかった。


「足りないものはないですか」


 平沢が学生たちに呼びかけると、パラパラと「はい」「なし」といった返事が返ってくる。どうやら準備は整ったようだ。教官のもとへ報告に向かう。


「失礼します。食事の準備、整いました。」

「そこの余った食事、どうすんのや。」


 教官はテーブルの隅に寄せられた、余った皿やお椀に目を向ける。


「……私がいただきます」

「食器洗わせる手間を増やすんじゃねぇ!⋯⋯時間がないから号令かけろ」

「はい」


 平沢は壁際に寄り、学生たちに向き直る。

「いた——」

「聞こえねーぞ!」


 教官の叱責に、腹に力を込めて叫ぶ。


「 い た だ き ま す !」

『 い た だ き ま す !』


 全員の声が食堂に響き渡る。


 平沢が席につくと、「やべぇ」が口癖の綿貫が声を潜めて励ました。


「お疲れ。気にすんなよ」

「うん、ありがとう」


 気の抜けた笑顔を浮かべながら、平沢は返す。正直、食欲など残っていない。このまま眠ってしまいたい。けれど、食べなければ今日を乗り越えられない気がして、緊張が収まらずに震える箸を握りしめ、食事を無理やり胃に押し込んだ。


最後まで読んでくださってありがとうございます!

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