1-4 約束
これで諦めてくれるだろう
そう思っていると彼女は言った。
「分かった……」
少々荒っぽいやり方だが
効果はあったようだ
これで諦めて……あれ?
「え?」
「あなたから持ちかけてきた…
手を抜いたら私のことどうでもいいって
ことだから……
ね?」
そしてニヤリと笑った
「いやいやいや
姫?だめですよそんな
僕のようなものとは付き合えないでしょう
それにそもそも付き合うとかは
好きなもの同士でするべきで
はわわ……」
やばいペースが乱されてしまう
こんなはずでは……
「あなたは私のこと好きじゃないのに
そんなこと言ったの?」
にたぁと嫌らしい笑みを浮かべながら
悪魔は続けた。
さっき頬を赤らめて恥ずかしそうに
見えたのは気のせいだったのだろうか。
もう引き下がれない
「いやそりゃ先輩は
優しくてかわいくて
そうなれたら嬉しいですけど……」
「…………」
そこまで一緒に出たいと
思ってくれているのか
少々驚いたが、嫌々そういう関係に
なるのは本位ではないはずだ
彼女は恥ずかしそうにうつむいていた
そして気付いた。
攻めに回るのは得意だが、
逆に言われると恥ずかしくなってしまう
タイプのようだ。
沈黙の間にそこまで考えていると
「じゃあ問題ないじゃない……」
そっぽを向きながら答えた……
可愛い……
それよりどういうことだろうか
僕が困惑していると
恥ずかしそうにしながら
「好きじゃないのに毎日ご飯作って
来るわけない……」
????
一瞬彼女が言っていることが理解出来なかった。
「え?なに?あれ?」
思考停止してあわあわしていると
彼女はニヤニヤしながらこちらを見ていた。
やられた…
冷静になって考える。
このままサーマント祭に出場し、優勝を目指せば
確実に元の日常には戻れないだろう。
でも今なら本番で手を抜くなり、なんとか引き返せるかもしれない
しかし、平穏な生活というのはそれほど
大事なのだろうか。
なにより彼女と一緒にいると楽しい。
諦めさせるために出した条件だが
どこかで本当にそうなればいいな、という気持ちがあって
口をついたのであろう。
……悪くない気がしてきた
この決断をしてしまえば今後目立たずに生きていくことは
難しいだろう。
でも構わない。
僕は平穏よりも大切なものを見つけた
それだけのことだ……
今度はこっちがあわあわさせてやろう。
「もう約束しましたからね……
本気出しますから」
そういうと僕は彼女を抱き寄せてやった。
「うん……」
今日の僕はおかしい
エナ姫もなぜか受け入れている…
どうしてこうなった……
いや嬉しくもあるのだが
うーむ
「こんな形になっちゃったのは
申し訳ないですけど
僕は昼休みのこの時間が好きですし
先輩と一緒にいれたらうれしいと思ってます
だから咄嗟にあんな恥ずかしいこと
言っちゃったんだと……」
「……うん」
恥ずかしそうにではあるが、
しっかりと彼女は頷いた。
「絶対優勝しましょうね」
「うん……頑張ろうね!」
笑顔で言うこの生物が可愛すぎて
もう一度抱き締めてしまった
--次の日
また昼休みに当たり前のようにご飯を
一緒に食べていた
昨日のことは恥ずかしすぎて
思い出さないようにしていた。
もしかしたらあれは夢かもしれない
「で、サーマント祭の練習どうする?」
しかし彼女は聞いてきた。
いつものように淡々と
夢ではなかった。
しかもなぜかちょっと乗り気なのだ
僕をからかうのが好きらしい。
「……」
僕は恥ずかしすぎて
黙っていると
「昨日…くっつかれた…
あんなことはじめて……」
まだ彼女のターンは続いていた
「うー」
僕が頭を抱えていると
彼女は得意気に笑った。
なんだろう
逆らえる気がしない……
いや僕が言ったのだが
「放課後は忙しいですよね?」
「大丈夫」
「じゃ、じゃあ放課後一緒に練習しませんか?」
「うん!
あと敬語もいらない」
「う、うん
わかったよエナ姫」
「あと姫もだめ……」
すこし恥ずかしそうにしている。
これは僕のターンだ
「オッケーエナちゃん!」
満面の笑顔にしてこういうと
彼女はまた赤くなった。
何も言わないなら
エナちゃんと呼ばしてもらおう
「私も……レイ君って呼ぶから……」
--その日の放課後から
早速練習することにした。
この学園にも修練場はある
転移陣により
簡単な魔物は引き寄せられるのだ。
まずはお互いの戦闘力についてだ。
ペアになるとお互い何ができるのか
しっかり理解しておく必要がある。
彼女は相手に分析をかけることによって
弱点を捕捉し、
さらに場面に対する分析によって
相手の動きを読むこともできる。
これによって、
その時々で必要な魔法を放つことができるのだ。
恐ろしいくらいに魔法と『分析』を
使いこなしている
魔道具は杖らしい
魔道具とは自分の魔力を媒体として
できる武器のことである。
成長次第で強化できたり、
新な魔道具を精製できることもあるらしい。
これもアビリティと同じく
運のようなものとされていて、
どのように強化できるかなど、
未だ解明されていない。
彼女は信用しているので
僕の能力についても、全て伝えた。