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6 恋人気どりのカボチャたち

 

 

 

 旅の支度を済ませて、シトルイユは頭上に広がる空を眺めた。


 シトルイユとキュルビスに言い渡された任務は、大変難しいものだ。

 キュルビスには、魔法の才がある。十四歳で上級召喚獣を呼び出すほどだった。三年経った今では、国内で五指に入るほどの実力者となっている。ただ、それを発揮する機会が訪れなかったのだ。

 一方のシトルイユは情報収集力を買われたようだ。今まで、いくら探っても見つけることが出来なかったパンプキンス公爵の悪事の証拠を、全て一人で集めたのだ。身内だったとはいえ、能力の高さは称賛に値する。潰してしまうのは勿体無いと思われたようだ。

 結局は国王の良いように利用されている。そんな気もするが、何故か気分は晴れやかだった。

 道のりは困難だが、その先に希望はある。


「シトルイユ」

 呼びかけられて、シトルイユは振り返る。すると、馬を引いたキュルビスがこちらに近づいてくるところだった。

 シトルイユは、自分の胸に光る蒼い宝玉を、なんとなく指で弄ってみる。

 キュルビスから、「聖蒼の口づけ」と共に受け取った宝玉。つまり、それはシトルイユがキュルビスの正当な妻となることが決まったことを意味する。

 それは、自分たちが周囲を認めさせる働きをしなければ、キュルビスもシトルイユと共に国を追われることも意味していた。

 潔く悪役として罪を被ろうと思っていたのに。何故、こんなことになってしまったのか。シトルイユは控えめにキュルビスを見上げた。


「あの、キュルビス様……」

「シトルイユ……もう君は、私と結婚することが決まっているのだから、呼び捨てで構わないよ」

 そういうものなのだろうか。シトルイユは少し畏まった気持ちになって、小さく「キュルビス……」と呟いてみた。すると、キュルビスは「なに?」と、柔らかい笑顔で首を傾げる。

「申し訳ありません。わたくしのせいで」

「どうして、君はそんな言い方しかしないのさ。私は、自分でこうすることを選んだんだ」

 キュルビスはシトルイユの荷物を馬に括りつけながら、溜息をついた。


「それとも、シトルイユは私が嫌いか?」

 問われて、シトルイユは口籠ってしまう。どうすればいいのかわからない。確かに、嫌われようとはしていたが……。

「こんな顔の女なんて」

 ウェアウルフの呪いの刻印は顔に残ったままだ。出来れば誰にも見られたくない。

 シトルイユはカボチャを被りたくて仕方なくなってしまった。あれがないと、人前に出るのは恥ずかしい。キュルビスに見つめられることも、耐えられなかった。

「私はシトルイユが好きだよ。その顔も含めて。あの日のことを忘れたくないんだ」

 不意に、キュルビスがシトルイユの頬に触れる。禍々しい刻印を撫でるように指でなぞり、笑顔を作った。

「君は私の弱さを教えてくれる。だからこそ、もっと強くならなければと思うんだよ」

 心臓が有り得ないくらい大きく跳ねて、シトルイユは息も出来なかった。硬直していると、キュルビスの優しい微笑みがゆっくりと近づいてくる。


「それに、あんなに楽しい夜を過ごしたのは、初めてだった。君といれば、また楽しいことが起こる気がするよ」

 醜く呪われた頬に、柔らかい唇が落とされる。シトルイユは今度こそ身体中に力が入り、息を止めてしまった。顔が熱くて火照っている。鏡を見たら、リンゴのようになっているかもしれない。

「私は君に運命を変えてもらった。だから、今度は私に、君の運命を変えさせてくれないか?」

 息がかかるほど近くで囁かれて、シトルイユは唇を震わせた。このままキスしてしまいそうな距離だ。こんなに近くで、キュルビスの美しい碧い瞳がシトルイユをじっと見ている。迷いのない、射抜くような、まっすぐな視線だ。

「わたくしの、運命だなんて……」

 シトルイユは震える下唇をキュッと引き結んだ。そして、キュルビスの視線に応えるように、まっすぐな眼差しを返した。


「キュルビスに運命を変えてもらおうだなんて、わたくしは思っていません……二人で一緒に歩むものなのですわ。だって、その……夫婦に、なるのですから」

 強い口調で言ったつもりだったが、ぎこちなくなってしまう。シトルイユはついに耐えきれなくなって、キュルビスから視線を逸らした。ここ三年間、マトモに人の顔を見ていなかったツケだ。


「そうか。では、逃がさないよ。私の可愛いカボチャ姫」

 視線を下げてしまったシトルイユを逃がすまいと、キュルビスは白い顎に触れた。易とも簡単に視線を持ち上げられてしまい、逃げ場がなくなった。

 相変わらず、距離が近い。逃げようとキュルビスの胸を押すが、鍛えられた胸板はビクともしない。

 唇と唇が重なった瞬間、力が抜けていく。へなへなと座り込んでしまいそうになるシトルイユの身体を支えるように、キュルビスが抱き締める。腕が腰に回り、首の後ろを支える手がココア色の髪をまさぐった。


「ちょ、ちょっと」

 やっと唇が解放されたと思ったら、キュルビスは再び口づけようとしてきた。抗議すると、彼は悪びれる様子もなく、シトルイユの唇に人差し指で触れる。

「やっと、カボチャを脱いだ君に触れるんだ。もう少し堪能させて欲しいな。甘くて美味しいカボチャ姫」

「そ、そんなっ。これから旅をするのですから、今でなくとも……」

「そうなんだけど。たぶん、ずっとこんな調子かも」

「真面目に仕事をしないと、国に帰れなくなりますわ!」

 そう言うと、キュルビスはようやくシトルイユから顔を離し、真剣な表情で考えはじめた。

「それもそうだ。シトルイユとの旅も楽しいけど、早く君を皆に見せびらかしたい」

「見せびらかす!? そ、そんな……! カボチャを被っても、よろしくて!?」

「ダメだ。私の妻は、こんなにも可愛らしいんだって伝えたい。国中の一人ひとりに説明して回りたいくらいだよ」

 以前から、キュルビスはスキンシップが多かったが……こんなにベタベタされるとは思っていなかった。

「で、でも。ほら、そんなに可愛いと思っているのでしたら、尚のことカボチャで隠した方が良いのではなくて? 悪い虫がついてしまうかも!」

「確かに! それじゃあ、カボチャも有りかもしれないな……」

 真剣な顔で悩みはじめるキュルビス。シトルイユは心休まらない溜め息をついた。


 これから、なにが起こるのだろう。まだわからない。

 わからないが、きっとキュルビスとなら乗り越えて行ける気がする。こんな風に考えたことは、今までなかった。それほど、自分は卑屈になっていたのだと、今更自覚する。

 これから訪れる困難よりも希望に思いを馳せながら、シトルイユは空を見上げた。

 雲一つない蒼穹が広がる。

 その蒼を泳ぐように飛ぶ鳥が、眩しい太陽を横切っていく。



 数年後、数々の功績を収めた王子は、その強さと勇敢さから獅子太子と呼ばれるようになる。そして、彼の隣には、いつも献身的に支える妃の姿があった。

 いずれ王妃となる女性は、カボチャを被っていたとか、いなかったとか。彼女の顔を描いた肖像画には、呪いの刻印を受けながらも、運命に挑む気丈な姿で描かれることが多かったという。




Fin

 

 

 

 ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

 短編のつもりだったのですが、思いのほか長くなってしまいましたので、分割して投稿させてもらいました。

 因みに、名前について。

 シトルイユもキュルビスも意味は「カボチャ」です。ククミスは「きゅうり」で、瓜繋がり。

 ここは、こだわりました! あとの設定は適当です!


 なんだか、打ち切りエンドのような感じですが、続編は全く考えていません。完です、完! 完!w

 カボチャネタに対して内容が重いとか、普通だとか、そういうことはご愛敬。いつも通り、好きなことを書きました!



 ありがとうございました!

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