くさやの英美里
俺が好きだった地元の不動産屋。
10年経って帰ってきた時にはもうなかった。
っていうかクリーニング屋になってた。
その不動産屋に子供の頃よく遊びに行っていたのは、別に家が好きなわけではなく、ただ大好きな英美里ちゃんがその店の一人娘だったから。
英美里ちゃんは父親の好きなくさやをよく買いに行ってた。
両手に引っさげたくさやと、その真ん中で可愛い笑顔を見せてくれた彼女は、もうどこか遠くに行って、結婚でもしてるだろう。
くさや、くさかったな。
誰しも、音楽を聴くと昔を思い出す、なんて事があるが、まさか、くさやの臭いがこれほど強い思い出となって残るとは思わなかった。五感恐るべし。
これがドリアンだろうがシュールストレミングだろうが、五感と繋がった思い出はどれも美しいものになるのだろうか。
なんてバカな事を考えながら、その変わり果てたクリーニング屋に入ると、なんと大きくなった英美里ちゃんがそこにいた。
「え?君は……くさやの英美里ちゃん!?」
「そういう君は……だれ?」
そりゃそうだ。俺にはくさやという記憶材料があるが、彼女には何もない。
「俺だよ俺!小学生の頃よく遊びにきてた翔太だよ!」
「あー、思い出した。ワキガが臭かったから覚えてるわー」
ワキ……ガ……だと?
ワキガで覚えられてただとー!
五感恐るべし。




