ミキちゃんママ
美樹のママさんは、潔癖が入っている。
家族以外の人たちと物や食べ物を共有できない。
自宅の外にあるものに触れられない。
汚いから。
だから今も両手に手袋をつけてるし、外食する時も、マイ箸、マイフォーク、マイスプーン、マイナイフ、マイ調味料をバッグに忍ばせている。
だから、他人の飲みかけのスープが染み込んだ『ぬいぐるみ』など触りたくはないし、まして自分の手を使って洗うなど絶対にできない。
だから、今の『はなちゃん』という『ぬいぐるみ』を見る目はすごく冷たい。
そんなママの視線に気づいたパパさん。
赤くて大きな染みができた『はなちゃん』を抱えてトイレへと走っていく。
じゃばじゃばじゃばじゃば
水道口から勢いよく水が出る。
それにさらされる『はなちゃん』
(ぐぶぶぶぶ。苦ちいっぷ……お水がお口に。ぐぶぶ)
小さなカラダの『はなちゃん』は水道から出る水の量ですら溺れる事ができる。
「パパー!乱暴に扱ったらだめー!ミキがやるよ!」
幼いとはいえ、美樹にも『はなちゃん』の置かれている状況が理解できた。
「ごめんよ美樹。美樹の友達を乱暴に扱ったりして。ごめんね。でも、この赤い染み、全然とれないよ。帰ったら洗剤使ってパンが落としてあげるからね」
パパの顔は穏やかに笑顔だ。
我が娘の優しさに、感動すらおぼえている。
当の美樹からしたら『はなちゃん』が溺れかけているので大事なのだが。
「ねぇ『はなちゃん』?大丈夫?息できる?」
ぬいぐるみに話しかけている娘を見て、パパは更にご機嫌だ。
「ミキ……ちゃ……ん。あたいは大丈夫……でもカラダが水吸って……動けない……あと赤いのが臭いお」
『はなちゃん』が小さな声で美樹に話しかける。
重要な器官のまわりにあるフェルトや綿の部分が水分を吸って重くなってしまったようだ。
しかも綿にチリスープの匂いが染み付いてしまった。
これは綿自体を新しいかかを入れ変えないとダメかもしれない。
ママのところに戻るとチリスープの持ち主であった配信者はいない。逃げてしまったようだ。
「ねぇ?どうするのそれ?なんか臭うわよ。それ」
洗った『はなちゃん』を見たママの顔が歪んだ。
あきらかに嫌そうだ。
「ママぁ。そんな顔しないの。帰ったらパパが洗濯機で洗うから大丈夫だよ」




