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呪いをかけた呪師は、孤独な悪女に執着する  作者: こさか りね


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9/11

エドガー視点

僕は今、ベアトリスの屋敷へと向かっている。


やっと、念願叶って18歳になった僕の足取りは軽やかだ。


そんな僕は、馬車の窓から外を眺めていると、花屋が目に入った。


「急で悪いけど、花屋に寄ってくれないか?」


御者は花屋から少し離れた馬車停で止まってくれた。


僕は馬車を降りて、先程の花屋へと歩く。

そして店頭に飾ってあった、一際目立つ赤い花を見つめた。


中心にある紫色が、彼女の愛情深く優しい瞳の色を思い起こさせる。


「いらっしゃいませ。

そちらをご用意致しましょうか?」


「・・・ああ、いや。

ただ、彼女の色に似ていたから見ていたんだ。

何か、お勧めのものはある?

大切な女性に渡したいんだ」


店員はその言葉に『では、今ご覧いただいているアネモネがお勧めです。赤いアネモネは、記念日や告白に適しているんですよ。花言葉は【君を愛する】です』と言い、また付け足すように『私も、好きな男性から頂けたら、とても嬉しいです』と主観込みで教えてくれた。


・・・君を愛する、か。


うん。まさに僕の事だな。


「では、こちらを頂きたい」


すると笑顔で頷き、ラッピングをしてくれたのだ。


そうして出来上がった花束を見ると、彼女の紫の瞳が、喜びに細められるのが頭に浮かぶ。


そして僕の顔が(ほころ)んだのを見た店員が一言告げた。


「お兄さん、頑張ってくださいね」


「ありがとう。彼女もきっと、この花束を喜ぶよ」


そう言い残し、馬車へと戻った僕は、彼女の屋敷を目指したのであった。



ベアトリス視点


私は、プレゼントの準備とお菓子やお茶、いつもとは違う特別な物を用意して待っていた。


エドガーの金色の髪に似合いそうな、オリーブ色のペリドットをあしらったカフスボタンを思い浮かべると、自然と顔が綻ぶ。


サプライズで渡したいと思っていた私は、カフスボタンが入った箱を机の引き出しへと、大切にしまった。


・・・その時、扉が開いた。


執事には、エドガーが来たらすぐに通すように伝えておいたのだ。


「エドガー、いらっしゃい!

18歳、おめでとう」


扉が開き切る前に言い切った私は、エドガーを抱きしめようと近寄る。


だが、入って来たのは大人の男性だったのだ。


背丈は私より遥かに高く、肩幅も広い。

そして服の上からでも分かるほど、しなやかな筋肉が付いていた。


「・・・貴方。エドガー、よね?」


そう聞く私に、嬉しそうに微笑む精悍な顔には、面影が残っていた。


「そうだよ。

ねぇ、ベアトリス?

いつもみたいに、抱きしめてはくれないの?」


その少し低くハスキーな声にドキリとする。


・・・こんな急に成長するなんて思いもしないわ。


心の準備ができていないじゃない。


そう考えながら静かに見つめていると、エドガーの眉が下がった。


「大人の僕は、ベアトリスに受け入れられないかな?」


憂うように笑うエドガーに、私の手が伸びた。


「エドガー、違うのよ。

ただ、こんなに早く大人になるなんて思わなかったの。

・・・本当に、エドガーなのね・・・」


私が伸ばした手は、いつもとは違う大きくて骨ばっている手に取られた。

そして、甲にキスを落とされたのである。


・・・な、にかしら。

胸が熱いわ。


私はもう片方の手で自分の胸を押さえた。


「ねぇ、ベアトリス?

・・・これを君に」


そう言って、後ろに隠していたのだろう花束を差し出した。


それは、赤い花弁が情熱的で、どこか可憐さのあるアネモネだった。


「・・・とても素敵ね。

エドガー、ありがとう」


すると、彼の茶色い瞳がとろけるように弧を描く。


「喜んでくれたのなら、嬉しいよ」


そして彼は、花束ごと私を抱きしめた。


いつもとは違う、男性の身体に心臓が高鳴る。

こんなふうに抱きしめられた事は、思い返す限り一度もない。


・・・これが、女としての喜びなのかしら。


しみじみと感じているとエドガーが口を開いた。


「ベアトリス、今日は僕と街へデートしに行かない?」


「・・・どうしたの?急に」


「いや、いつもお茶しかしてないからさ。

・・・どうかな?」


「ええ、良いわよ。

それでは行きましょうか」


エントランスを出て馬車に乗り込もうとするとエドガーが私の手を取った。


「馬車もいいけど、折角だし歩いて行かない?」


そう言って、私の手をしっかりと握ったのだ。


私は歩きながら、視線を落とした。


この指を絡ませる握り方は、恋人達がするものよね?

私とエドガーは恋人じゃないわ。

・・・けど、全然嫌じゃないの。


私よりも硬く大きい手で包み込んでくれる事に、恥ずかしさを覚えたが、それよりも安心する自分がいた。


「ベアトリスは、よく街に行くの?」


その言葉で、視線をエドガーへと向ける。


「今はあまり行かないわ。

・・・両親が、外に出る事を良く思っていないのよ。

・・・ふふっ。

私が何か問題を起こすとでも思っているのね」


「ベアトリスはそんな事しないよ。

君は優しくて、愛情深く聡明な女性だ。

だから君の両親には悪いが、そんな君を知らない事を気の毒に思うよ」


「エドガー。

・・・ありがとう。

私には貴方がいたから、他の誰がどう思おうと関係ないと思える様になったのよ」


すると、エドガーの握る手に力が入った。


「僕はいつだって、君の事を考えているよ。

・・・だから、ベアトリス。

君は一人じゃない」


「ふふっ。

そうね、私もいつも、エドガーの事を考えているわ」


話していると、商店が立ち並ぶエリアへと着いた。


ここは、メリンダと入れ替わっている時に、アレクシスとよく来た場所だ。


だが、本当の私として誰かと来るのは初めてである。


心なしか、見慣れた街並みがキラキラと輝いて見えた。


「ねぇ、エドガー?まずは、どこに行きましょうか?」


「もちろん、ベアトリスの行きたい所へ行こう」


そう言って、私は初めてのデートを体験したのであった。


けどこの時、気付かなかったのだ。

まさか、アレクシスに見られていたという事に。


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