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モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています  作者: 雪本 風香


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間違えたデートと癒やしの一時


 あかりは困っていた。自分史の中でも史上最大に迷っていたし、困り果てていた。

 自分にとって不得意分野である恋愛関係で、同時に二人の男に言い寄られて、あまつさえプロポーズされているからだ。

 

 あかりがこれまでの人生で付き合ってきたのは三人。

 初彼氏は高校の時。付き合い期間は半年ほど。警察官試験に合格したらフラレた。

 次の彼氏は、警察学校の同期。卒業間近で付き合ってこれまた配属が決まったら中々会える時間がなくて三ヶ月でフラレた。

 その次が颯。一番長く付き合って、初めて自分からフッた。


 振り返ってみても大した恋愛経験をしているわけではない。

 むしろ颯以外はキス止まりの関係でしかなかったあかりなのだ。恋愛偏差値は限りなく低いはずなのに、何故今自分は理貴と颯、二人から同時にプロポーズされているのか。


 あかりは考えた。考えて考えて考え抜いて。

 そして出した結論は。


(よし、仕事が忙しいっていってうやむやにしよ……)


 なんとも消極的な答えだった。


 ※


「ゔーっ」

「こら、あかり。くたばるな。報告書、書けよ」

 早野の言葉にあかりは重い体を上げる。

 先程まで早野と共にストーカー被害の張り込みをしていたのだ。


 二人のプロポーズから逃れたいというあかりの心を読んだかのように、ここ何週間か怒涛の忙しさなのだ。

(なんでこんなに相談が多いんだ……)

 連日持ち込まれるストーカー、DV被害、男女トラブル、未成年の家出。

 先日警察官を特集したテレビ番組が放送された影響か、ささいなことでも相談に訪れる人が増えた。

 事件の早期発見にはいいことだ。

 きちんと警察に相談実績を作っておいてくれれば、こちらもいざというとき動きやすいし、対応もしやすい。


 相談する件数が増えることはいいことなんだけれども……。


 ようやく書類を仕上げてさて帰ろうとしたあかりに声がかかる。

「すみません、福田さん。立ち合いお願いできますか。補導したのが未成年の女子なんです。当直の女性、すべて今別件対応中でして」

 申し訳無さそうに当直の警官が立っている。

 時間を見ると既に零時近い。

 あかりは通常勤務だから明日は八時半には出社だ。

 本音は早く帰りたい。けれど、他の者が対応出来ないなら仕方ない。

 あかりは重い腰をあげた。


「了解……」

 声に力がなかったことには、目をつぶってもらおう。



 ヘロヘロになったあかりが本署を出て家についたのは一時半過ぎ。

 歩いて二十分の立地につくづく感謝する。

 勤務場所の近くに住むことが義務付けられているのもあるが、残業続きの日々になるとこの距離でも堪える。


「やった、五時間は寝れる……」


 素早くシャワーを済まし、床に入ったあかりはピカピカ光る携帯に気づいた。

「あれ……、何か連絡……?」

 あかりの意識はそこで途切れた。




「はぁ……」

 あかりは深いため息をつく。目の前には理貴が、そして今二人は動物園にいた。

「なんで……」

「なんでって。約束したじゃん」

 理貴のほうが疑問だという顔であかりを見る。


 確かに約束した。していた。証拠は、理貴との通話履歴と、そのあと送られて来ているメッセージである。

 

 土曜日の十時――動物園の前で待ち合わせで。


 問題は、あかりには全くその記憶が残っていないことだ。


「……覚えていないんだよね」

 理貴は笑って、「だろうね」と答える。

「半分寝てたし、あかりちゃん」

「なら無効……」

 理貴は笑いながらも首を横に振る。笑っているが、目は真剣だ。

 理貴はここであかりが――覚えていないといえども約束を反故にすることは許さないだろう。

 面倒だったが、約束は約束だ。あかりも覚悟を決めることにする。

 本当なら寝たいのを押し殺して連日の残業続きで疲れ切った体を引きずり、律儀に待ち合わせ場所まで来たのだ。

 ここまで来た労力を考えると、真っ直ぐ家に帰るのは悔しいのだ。

 どうせ家に帰っても寝るだけだし、今から帰って寝ると生活リズムが崩れることは必至だ。

 それなら大人しく理貴に付き合うことにする。


 それに。


(動物園なんて何年……いや、何十年ぶり?)

 記憶では小学校低学年の頃、遠足で訪れたのが最後だ。

 すっかり足が遠のいていた場所に、幼馴染の(理貴)と立っているのは不思議でつい感傷に浸ってしまう。

 それにしても謎なのは、何故理貴がわざわざデート――あかりはそんなつもりはないが理貴が頑なに主張するのだ――に動物園を選んだのか。

 動物は嫌いでもないけれど、特別好きでもないのだ。

 待ち合わせ場所がここだったし、落ち合った後でも理貴がどうしても、というから動物園(ここ)に入ったけれど、あかりは別に映画でもよかった。

 むしろ途中で寝れることを考えると、映画の方が良かったかもしれない。

 そんな失礼なことを考えていたあかりに理貴はどこか自信満々に告げる。


「あかりちゃん、動物好きでしょ。近所の犬可愛がっていたし、未だに警察番組と動物番組は毎週録画して必ず見ていると聞いてるよ」

 心を読んだかのような理貴の言葉に、あかりはため息をついた。

 動物園を選んだのはきっと幸人の入れ知恵だ。

 実家にいるときならいざ知らず、あかりが今も動物番組を見ているなんて知っているのは、両親を除けばアイツだけなのだから。

 幸人が爆笑する姿が目に浮かぶ。


 告げるかどうか迷った末、あかりは理貴に残酷な真実を話すことにした。

「見ているけど……動物好きなのは父だよ」

「えっ!?」

 心底驚いた表情をした理貴に、あかりはトドメを刺した。

「もっというと、「娘と一緒に可愛い動物の番組を見て、良い父娘関係だ」と周りに言いふらしたい父の欲求を叶えるために見てるだけ。毎週のように父から「見たか」って連絡くるしね」

 理貴は「うわっ」と短く声をあげるとその場にしゃがみ込む。

「幸人のやつ……失敗したじゃんか!」

 唸るように呟く理貴は子どものようだ。その姿にあかりは吹き出した。

 そして、座り込んでいる理貴に手を差し伸べる。


「ま、せっかく休みの日にわざわざ来たし。せっかくだから見ていこっか?」



 小学生以来の動物園だが、平日ということもあってゆっくり見ることができた。

 いつも何時間も並んでいる看板動物のパンダもほんの数分の待ちで見れる。

 成り行きで訪れただけだが、実際に見ていると動物のパワーはすごい。

 動物の予想がつかない動きを眺めているだけで、知らず知らずのうちに口元は緩み、あっという間に時間が経過していく。

 あかりはもちろんだが、理貴もリラックスしているのか、いつもより表情が読みやすい。


(そうだ、初めて会った頃はこんな感じの表情だった)


 理貴は転校してきた当初から祖父の剣道場に通っていたから、あかりはよく知っている。

 転校してきたばかりの理貴は、好奇心旺盛でコロコロと表情が変わる男の子だったのだ。

 理貴は、一人っ子特有のおっとりしているから、前に出るタイプではなかったけれど、よく笑っていた。剣道に向き合うひたむきさと真面目で努力している一方で、年頃の男の子として幸人たちと元気に走り回っていたのだった。

 理貴が変わったのは一年ほど経った頃。クラス替えの後、男子と上手くいかなくなってから、どんどん感情を表に出さなくなっていったのだ。 

 いつしか感情を露わにすることなく、澄ました顔になっていったのだ。それがまた、女の子たちには「大人っぽい」と評価され、男子たちからは嫉妬も相まって「スカしている」といじめられる要素になったのだ。

 あかりとも会話は無くなっていったけれど、幸人も同じ時期あかりに反抗的だったから、「そういうお年頃だ」と思っていたのだが。


(後から聞いたら、ハブられていたってことだったもんな……)


 決して理貴は認めなかったけれど。端からみたらあれはいじめだった。


 学年が違うあかりにも可笑しいと思うくらいには、一部の男子は理貴への当たりはキツかった。

 そのことに気づいたあかりに出来ることといえば、理貴が一人でいたら声をかけることくらいだった。

 幸いにも幸人が卒業まで同じクラスだったし、全くの一人になることはなかったみたいだが。


 いつの間にかポーカーフェイスしか見せなくなった理貴が、動物パワーで素の表情を取り戻している。


(やっぱり生き物はすごいな)


 父が散々言っている言葉だが、あかりも今はそのの言葉を噛みしめながら、自分も動物を愛でるのだった。



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