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03.朝餉、時々、米

「お嬢様。勝手ながら本日起きた出来事を考えますと、手軽に食事を取れるものが良いと思われましたので、料理長と相談し、おにぎりを用意致しました」

「おにぎり! 久しぶりだわ!」


 極東の国で食べられている食べ物で、西側に位置する私達の領地では、なかなか食べる機会がない珍しいもの。

 だがしかし、一度食べて以来、定期的に食べたくなるくらいに大好物だ。


「では、いただきまーす!」


 ぱくりと口に含む。

 すると広がるのは、程よい塩味だ。

 そこに混じるのが、お肉の旨み。


 お米自体も柔らかく炊かれており絶妙な食感。

 お魚の具材も良いけれど、こちらも捨て難い。

 うんうん、やっぱりお米は最高ですね!


「ごちそうさまでした」


 あっという間に完食。

 やはり、おにぎりは最強だ。

 これも海に面している領地がある事と、貿易に力を注いでいるお父様の功績だ。

 さんきゅー、パッパ!


「ふぅ……満足したわ」

「それはよう御座いました。そのお気持ちを、定期的に書状にしたためて頂ければ幸いでございます」

「はい、すみません」


 貿易相手と円滑な関係を保つのに必要な事とはいえ、筆不精な私にとっては少々難しい。

 けれど、お手紙を出す事で、お礼を伝える事が出来るし、近況報告するのもいいかもしれない。

 ともあれ、目の前の問題を片付けなければ何も始まらない。


 しかし…… う~ん、これから私はどうなるんだろう?

 フレデリク殿下と結婚するはずが、いきなり破談になる。

 そして突如としてモルガーヌ嬢が婚約者に選ばれる。


 更に追い打ちをかけるかのように、私の事を悪女扱いし始めた挙句、魔女とまで呼び始めたのだから堪らない。


「私の事なのに、当の本人を全力で置いてきぼりにするスタイル……流石だなぁ」

「感心なさっている場合でしょうか? この様な時こそ、お嬢様は冷静に状況を見極めなければなりません。後手に回れば回るだけ、不利な立場に置かれているのですから」


 ミーアの正論は、とても胸に刺さる。

 私よりも遥かに頭の良い彼女が言うのなら、きっと正しい判断なんだろう。

 それにしても、私の何が悪いというのだろうか?


 確かに、私の髪色は、この国では忌むべき色とされて忌避される。

 けど、それも遥か昔に過ぎた風習だし、今の時代になってわざわざ口に出して言う人なんて殆どいないと思うんだけれど……。


 背丈は、弟の頭を撫でるのに苦労しないで済む程度なのだが。

 女性であれば、小柄な方が男性に好まれるはずなので、疎まれる要素は無い。


 眼つきが鋭い? そんな些細な欠点で自分を嫌いになれと言うのか? むしろ、愛すべき短所だろう? 可愛いじゃん!

 性格に問題がある? はっはっはー! 何を今更……。

 以下省略。悲しくなってきた。


「う~ん、どうしたものかなー」

「……お嬢様」


 ミーアが心配してくれているのは分かる。けれど、いくら考えても答えが出てこない。

 私が思いつく程度の事は、とうに対策済みの可能性が高い。

 ……というか、間違いなく何かしらの対策済みだろう。


 けれど、フレデリク殿下は、モルガーヌ嬢に籠絡されているんじゃないだろうか?

 そんな予感がするのは気のせいだろうか?


「だからといって、今まで忘れていた相手に、執着も義理もないんだけどねー」

「お嬢様」


 うん、分かっていますよ。ミーアさん。

 この場合、私という個の意見は、役に立たないってことぐらいはね。

 だけれど、これは私自身の問題であって、他の誰でもない、私の物語だ。


「僭越ながら、アリスティアお嬢様に申し上げさせて頂きたい事が御座います」

「何かしら、ヴィクトル?」

「旦那様方も、この件に関して動き始められております。私も及ばずながら協力致しますので……」

「えっと、それってまさか……」


 思わず息を飲む。

 お父様とお母様。そしてお祖父様まで動いているとなれば、確実に悪い方向へ向かっているに違いないからだ。


「アリスティアお嬢様の身に危険が迫っているかもしれません」


 うわぁ~、想像通りの返答が来たぁ~。やっぱりかぁ~。

 続きを聞きたくないけれど、確認は必要よね……。


「具体的には?」

「此度の出来事は、皇太子殿下が一方的に決めた婚約破棄である為、こちら側に落ち度はないとされています。故に婚約は無効だと主張され、白紙に戻るでしょう」


 うーん、それはそうよね。忘れていたけれど。


「ですが、それは表向きの理由でございます。お分かりになられますか?」


 あ、はい。これ絶対ダメなやつだわ。


「表向きの理由など、いくらでも書き換える事が出来ます。アリスティアお嬢様を陥れ、大義名分を作り出し、その上で婚約破棄をする。この意味するところを、お考え下さい」

「……つまりは?」

「よくて国外追放。最悪の場合は、命すらも危ういかと存じ上げます」


 はい、どっちも積んだ。アウト―。完全に詰みでーす。ゲームオーバーですよー!

 って、冗談言ってる場合じゃないわね。マジでヤバい気がする。

 これってもしかしなくても、このまま行けば、処刑エンドまっしぐらって事かしら?

 そうなると……。


 1.未来の王太子妃の座を降ろされた上に、有りもしない罪を着せられる。

 2.そのまま修道院送りにされるか、国外追放されるかのどちらかしかない。

 3.家族を人質に取られて無理やり従わされる事も考えられる。可能性として一番高いのは、弟だ。


「お嬢様、どうか早急に対策をお取りくださいませ」


 ヴィクトルの言葉に思考の海から呼び戻される。

 こういう場合、一体どうするのが最善なのか? それが分からないから悩んでいるのだ。

 ただ、ひとつはっきりしているのは、この流れに乗ってしまうとバッドエンドが確定する事。

 ならば――


「私に出来る事は、全てやり尽くす!」


 そうすれば、後悔が残らないはずだもの!

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