いい匂いだわ!
数分後
「…………何、この匂い!?」
オリヴィアは、強烈な臭気に思わず口元を押さえていた。
「ふふ!!ラフレシア地獄ですわ!!」
ローズは鼻をつまみ堂々と言い放つが、その顔色は悪かった。
「あの、ローズ様?あまり無理されないほうが……」
「無理なんてしていませんわ!わたくしは、この日のために臭いに耐えるための特訓もしたのです!!」
「どうですか!?いい匂いでしょう!?」
「……いい匂い?」
「あなた!昔私が間違えてあなたの香水を『くさい』って言ったからって、『何言ってるの?こんなにいい匂いじゃない!』って、この屋敷の周りに香水を撒き散らした後、私に無理やり『いい匂い』って言わせたじゃない!」
「そんなこと、していたのね。申し訳なかったわ」
「だから、あなたも言いなさいよ!これを『いい匂い』って」
「えっと、そうね。いい匂いだわ」
「ふふふっ。よろしいですわ。次もありますの」
そして、次に運ばれてきたのは、どんぶりサイズの皿だった。
「異国に伝わる、納豆の匂い地獄ですわ!!」
「……納豆?」
オリヴィアは、侍女から差し出された皿を覗き込んだ。
懐かしい匂いが鼻をくすぐる。
「……あ、これなら平気ね。いい匂いだわ」
「…………え?ウソでしょう?」
ローズは愕然とした。
「……まさか……匂いが、飛んでしまったの?」
ローズは、納豆をじっと見つめると、意を決したように鼻を近づけた。
「やっぱり臭いじゃないの!!!!」
「えっ!?」
「あなた!!鼻がおかしいんじゃありませんの!?」
「くっ……!!」
ローズは悔しそうに唇を噛んだ。
「では!!最後の切り札ですわ!!」
「まだあるんですか!?」
「ドリアン地獄ですわ!!」
使用人が、厳重に蓋をした容器を運んできた。
「あ、ちょっと待ってくださいませ」
ローズは一度部屋を退室して深呼吸をすると、大きく息を吸って再度部屋に戻る。
「よし!開けますわ!!」
「やだ、なにこの匂い……!!」
「ふふん!!どうですか!!くさいでしょう!?これでいい匂いと言えたら……言え……言えたら…………」
ローズはあまりの臭いに、身体がぐらりと傾いた。
「え?ローズ様!?無理なさらないで……」
「どう……です?良い……におい……でしょう?」
ローズは一層顔色を悪くしたまま、オリヴィアの腕の中でつぶやいた
「えぇ!いい匂いよ!!とってもいい匂いだわ!!!」
「ちょっと!!ローズ様!?ローズ様!?しっかり!!」
侍女たちは、ローズの『あなたたちはこんな臭い耐えなくてもいいわ』との配慮により部屋にはいなかった。
「ロボ丸!どうしよう!なんとか運べるかしら!?」
『お任せクダサイ!』
ロボ丸の小さな体からロープが飛び出すと、ローズの体をふわりと包み込む。
そして、体が床からふわりと浮き上がった。
その後。
ローズは別室のベッドに寝かされていた。
「……う……」
「ローズ様!お気づきになりましたか!?」
「……わたくしは……?」
「ドリアンの臭気で気を失われたのです!」
「……そう、でしたわね……」
ローズは額に手を当て、ゆっくりと身を起こした。
「ローズ様!まだお休みください!」
「大丈夫ですわ!!」
「先ほどまで気を失っていらしたのですよ!?」
「……っ!それは……!」
ローズは悔しそうに唇を噛んだ。
「ロボ丸、ローズ様の状態の確認はできる?」
『対象者ノ意識回復ヲ確認。体調ニ問題ガナイカ、確認シテイマス』
「……何をしているのですの?」
『ローズ様ノ安全確認デス』
「……ふんっ。ありがとうですわ」
「でも!わたくしは、まだ怒っておりますからね!!」
「……はい。本当に申し訳ありませんでした」
ローズは、ふんっと顔を背けた。
「……わたくしは、強いにおいが苦手なの。でも、あなたが屋敷の周りに香水を撒き散らしたときは、一週間も耐えたんですからね!!」
「……それは、辛かったですよね」
「そうですわ!!食事も、睡眠も、何もかも!!屋敷中がひどい匂いだったんですから!!」
「……本当に、申し訳ありませんでした」
「ふんっ!!!」
ローズはもう一度、勢いよく顔を背けた。
「……ところで、はじめのお辞儀はいったい何だったんですの?」
「はい?」
「頭を下げるというより、首が落ちているようにしか見えませんでしたわよ!!」
「お、落ちて……!?」
オリヴィアは慌てて自分の首に手を当てた。
「そ、そんなに変でしたか!?」
「変どころの話ではありませんわ!!謝罪に来た相手に、あんなお辞儀をされたら、馬鹿にされていると思うに決まっているでしょう!!」
「…………っ!」
オリヴィアは息を呑んだ。
そうだったのか。
あれは、誠意を伝えるどころか、相手を怒らせるお辞儀だったのだ。
脳裏に浮かぶのは、あの日、何度も首を傾げていたクラリスの姿。
『……こう、でしたっけ?』
『……分からないわ?』
今になって、ようやく気がついた。
(……もしかして、クラリスも自信がなかったのかしら……)
「……あの」
オリヴィアは、おそるおそるローズを見上げた。
「私、最近マナーを学び始めたの。お辞儀が出来ていないと思っていなくて、本当にごめんなさい」
「それで、もしよろしければ正しいお辞儀を教えてもらうことはできるかしら?」
「もちろん、無理にとは申しません!ですが、これからも謝罪に伺う機会はあるでしょうし……」
「……」
ローズは、しばらくオリヴィアを睨みつけると、しばらくして ぱんっ、と手を叩いた。
「あなたたち。姿見を持ってきなさい!!」
「……まったく!!仕方のない方ですわね!!そんなお辞儀で、また誰かを怒らせてしまいますから、少しだけ、教えて差し上げますわ!」
「腰から上体を傾けるのです!!首だけを曲げるのではありません!!」
「は、はい!」
「こうですか?」
「まだ、だらーんとしていますわ!」
「もう一度!こうですわ!!」
ローズのお辞儀は、先ほどまでのぷんぷんした姿とは打って変わって、優雅で美しかった。
「はいっ!」
オリヴィアは姿見の前に立ち、教わった通りに背筋を伸ばした。
ゆっくりと腰を折る。
「……こう、でしょうか?」
「もう一度!」
「はい!」
それから何度も繰り返すうちに、少しずつ形が整っていく。
「……そう!今のですわ!!」
「本当ですか!?」
「ええ。今のなら、失礼には当たりませんわ!」
「ありがとうございます!!」
「お礼なんていりませんっ!!ふんだっっ!!!!」
ローズは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
『ローズ様。心拍数ガ上昇シテイマス』
「うるさいですわ!!」
まさか、謝罪に来た先でマナーを教えてもらえるとは思わなかった。
でも、今度こそ夜会までに、きちんとしたお辞儀を身につけられそうだ。
(良かった……!)
オリヴィアは心から安堵した。
そして、ふと思い出す。
(でも……クラリスも、あのとき首を傾げていたものね)
何度も練習していたのに、二人とも正解が分からなくなっていた。
きっと、クラリスも途中から自信がなくなっていたのだろう。
それなのに、無理に教えてくれたのかもしれない。
(……ごめんね、クラリス)
(でも、食事のマナーは自信満々だったものね!)
毒見の方法も、飲み物の確認方法も、クラリスは一切迷っていなかった。
あれほど堂々と教えてくれたのだ。
疑う理由など、どこにもないだろう。
――そして、オリヴィアは食事のマナーについては、確認する機会をすっかり逃したのだった。
ポイントが増えないのが悩みです!!!!
というわけで、しばらく一話から順番に読み返して、改善できるところがないか確認してこようと思いますーーっっっ!!
なので、しばらく修行&ストック確保の旅に出ます!!
1か月以内には必ず再開します!
修正した結果、気がついたらロボ丸がルンバに変わってて、訳が分からん!!
……なんてことにならないように、再開するときは、重要な変更があれば前書きに書いておきますので〜。
あ、もし「ここがつまらんのだわ」とか「ここが分かりにくい!」みたいな意見があったら、メッセージとかもらえたらとーってもありがたいです!!
反映できるかもしれないし、反映できないかもしれないし笑




