65話、覚悟と思ったより呆気なく
「セレン、行く当てはあるのか?」
「はい、近くに魂の宗教の支部がありますね」
「行くか、走れるのか?」
「無理ですから、おんぶか抱っこを」
真顔で言ってきた、マジか
この状況でまぁ確かに力が無くなったと言ってたからそれはそうか
本当に力が無くなったのか?試してみるか
「置いていくぞ」
「置いて行ったら、ダークナイトの力がなくなり死にますよ」
選択肢は、無しか
「…舌を噛むなよ?」
「はい、よろしくお願いします」
背中にセレンが乗る。軽い。思ったより軽い
このデリカシー無し!
ミアリスの声が何故か聞こえた、気のせいだと思いたい
「方角は?」
「多分、あっちです」
多分って何だよ。走り出す。身体か嘘みたいに軽い
「本当に疲れないな」
「当たり前です、私の闇が全て負担してるんですから」
「それより、覚悟はできましたか?」
「覚悟?」
「えぇ、魂の宗教を皆殺しにする覚悟と」
セレンの声が少し変わった
「魂の宗教に子供がいる場合の覚悟です」
足が一瞬止まりかけた。止めるな。走れ
「セラスで、子供を見捨てたが…考えてなかったな」
「私が、選りすぐりましょうか?」
「選りすぐる?」
「ええ、子供がいたら貴方は殺せますか?」
背中の声が、試してるのか本気で聞いてるのかわからない
「罪はなくても、とでも?」
「それもですし、だれかに復讐をしようとする相手を貴方に重ねませんか?」
「私が選べば、あなたに非はありませんよ?」
丁字路の子供が浮かんだ。ドライフルーツの袋を握ったまま立ち上がった子供
なんで、果物をくれたのに助けてくれなかったの?
振り払え
「セレン、関係ない奴は殺さない」
「今、殺すのは魂の宗教の奴と救えない奴だけだ」
「復讐はな、目標がない奴がするんだよ」
「目標がない奴が縋る、安易な感情だ」
「それは」
「…喋りすぎたな」
セレンが黙った。俺も黙った。走る音だけが暗闇に響き渡る
「俺の復讐も幼稚なエゴで、殺戮者にならないと燃え尽きる程度の物だ」
自分で言って、自分に刺さった。でも嘘じゃない
「…では、もし目標ができたらあなたは」
「この感情を超えたら、どうなるんだろうな」
「終わったら、どうせ死ぬんだから諦めるかもしれないな」
ダークナイトが解けたら最初の致命的な傷もあるんだから全身の傷が噴き出して死ぬ
生き残れるわけがない、これはあくまでで奇跡の偶然だ
「そうですか。すこし、寝ますね」
「わかった」
背中のセレンの呼吸が穏やかになった。
こんな奴の背中で眠れるのか
子供か、次は俺の手で殺すのか?
この手で
ポケットの中の笛に手が伸びる。触れるだけ触れて、離した
朝になる。疲れない
夕方になる。疲れない
景色だけが変わっていく。俺の中は何も変わらない
セレンが起きたようだ。背中が少し動いた
「おはようございます」
「おはよう」
「乗り心地が良いですね」
「ミアにもした事ないからな」
「では、私が初めてですね」
「下すぞ?」
「そろそろ目的地ですから、下ろしてください」
セレンが地面に降りて、前方を指差した
「あそこ、です」
岩場の陰に洞窟の入り口が見える。
黒い服の人間が二人、見張りに立ってる
「黒い服だな、魂の宗教か確かめても?」
「どうぞ、胸についたネックレスを見たはわかります。覚悟を見せてください」
「闇魔法、不可視」
セレンが消えた。俺だけになり洞窟に歩く、見張りがこっちに気づいた
「誰だ!」
近づいて奴らの首元を確認したらミアリスと同じネックレスが揺れてる。魂の宗教で間違いない
「これ以上近づいたら殺す!」
構えて突っ込んできた見張り二人の槍が腹に刺さった。痛い。でも止まらない
こいつら、自分から近づいてきて殺すだと?
切る瞬間に一瞬躊躇いが起きたが、コイツはがシンアに見えたように感じたと思ったら身体が勝手に二人の首を切った
一人目、二人目
刀身を見る。少しだけ赤い
振ると、血が全て落ちずに跡になっていた
倒れた奴らかに刺された槍は思ったより痛いが、抜くと痛みがなくなった
無痛か、なるほど
だが、初めて自分の意思で人を殺したな
思ったより呆気ない
洞窟の奥に入ると同じ服のやつが騒ぎ出した
「敵襲!敵襲だぁぁ!」
洞窟内に耳につく鐘が鳴った。歩く度に槍を持った奴が向かってくる
感情を殺せ、進め
3人目
感情は今いらない、進め
4人目
ミアリスに捨てられたからじゃない
5人目
俺の意思でお前らを
6人目
殺す
7人目
見抜けなかったミアリスにも反吐が出てきた
反吐?違うよな?
お前は、ただ好きだからこそ反転しただけだ!
知ってるさ、だから今のはミアリスに対してじゃない
8人目
今の俺に対してだ!反吐が出る
刺されて痛い、だが俺は刺してきた奴を苦しませず切る
9人目
「皆の魂のためにぃぃぃ!」
10人目
皆の魂?ふざけんな、なら
11人目
なんで壁に貼り付けられて苦しんでるコイツらはなんなんだ
11人目の首を切って奥に入ると薄暗い部屋に足を踏み入れた
その瞬間、匂いが変わった。
血と腐敗と、何か別のもの。わからないが地獄があるとしたら、こんな感じだろう
足場を作り壁画のように人が壁に拘束されている
生きてるだけで何十、死者を入れたら何百人と壁に張り付かれてる。
ここはなんなんだ
壁一面に人が鎖で繋がれてる。目が虚ろな者、泣いてる者、既に動かない者
「お前達は、何故壁に張り付いている」
「わからない、気づいたらいきなりここにいた」
掠れた声で男が答えた。頬がこけてる。何日食べてないんだ
「女子供容赦無しか」
奥に小さな身体が見えた。目を逸らすな
「頼む、俺は良いから他の人を助けてくれ」
「俺は、命の選別はしない」
枷を外していく。手が震えてる奴がいる。立てない奴がいる
「他のやつもそうなのか?」
「わからない…」
「あ…あ…」
目の前で助けようとした人の目から光が消えた。手の中で、命が終わった
12人目
数人の枷を外した
「後は自分達で助けろ」
背を向けて歩く。後ろで泣き声と呻き声が混ざってる。助かる人と助からない人がいる。全員は助けられない
また、全員は助けられなかった
奥に向かうと叫ぶ声が聞こえた
「大至急全支部につなげ!急げくるぞ!」
部屋で叫び散らす男と別の男が二人いた。一人が振り返る
「貴様!許さんぞ!」
許すとかそういう場所にいない、ナイフで刺してきたが首を切る
13人目
「許さなかったら、何をするんだ?」
「死ね!全ては魂の為に!」
14人目
さらに横から剣で最後の一人が刺してきた
ニヤリと笑ったから何かと思い少し待つ。
腹に剣が刺さったまま振り返ると、やったと思った男の顔が恐怖に変わる
「何故だ!何故猛毒を塗った剣で死なない!?」
15人目
「死人に言う気はない」
腹から剣を抜く。痛い。でもこの痛みは、壁に繋がれてた人たちの痛みに比べたら何でもない
剣を見ると、刀身が薄赤になっていた。少しずつ、赤が増えていく
「騎士様、他の場所がわかりましたよ」
セレンが水晶のような物を調べていたらしい。不可視を解いて立ってる
「次、向かうか」
全てに意味はあります




